合流
遊技場は熱狂と歓声に包まれていた。
台座で運ばれ、金で彩られたステージの上に直立不動で佇んでいる銀龍を人々が囲んで思い思いの言葉を投げかけ、それが耳を撃つ喧騒となって周囲を揺らす。
当の銀龍は何を考えているのかもよくわからない表情でボーっとしているだけのように思えるが、うっすらと輝きを放っているように見える銀髪や、透き通るような肌…そしてその整った顔立ちが相まってミステリアスで神秘的な雰囲気を醸し出し、何もしていないにもかかわらず、人々を煽り、さらに熱狂させていく。
しかし遊技場のほんの一部…たった一つのテーブル席にのみ、その熱狂は広がっておらず、むしろ冷め切っている場所となっていた。
その席に座るのは当然…。
「もう…どうするのよこれ…」
「────」
銀龍を探し、危険な橋を渡っていたヴィオとニョロの二人組。
そしてそれに続きもう一組。
「ス、スレン…君はあの時、銀神領で子供たちを見逃したといったな…?まさか銀龍に治療も施したのか…?」
「いや俺にそんな心得はないですよ…!?それに…銀龍…ですか?あの人、俺が見た時も確かに胸に穴が空いてて…死んでて…どう見ても助かるような状態じゃなかったと…」
ストガラグとスレン…銀神領にて銀龍と敵対し、そしてその末に殺害した二人の心中は穏やかではないを通り越してパニックを引き起こしていた。
あの時、ストガラグは気を失い、事の成り行きを最期まで見届けることはできなかった。
それでも彼の誇りにかけて銀龍の抹殺と言う仕事は完ぺきにこなしたはずだった。
だが今、彼らの視線の先に銀龍はいる。
元気そう…なのかは分からないが、少なくともしっかりと自身の足で立っており、間違いなく生きていた。
「いや…まさかお前か…?死骸龍?」
ストガラグはヴィオに向かってそう言った。
ヴィオの力ならば死体を動かすことができる。
それは龍の死体であっても例外ではなく、現に彼女の手駒の中にかつて教会に討たれた緑龍が存在しているのがその証明だ。
「違うわ。というかあの子があなたに殺されてたなんて話も今聞いたし。そもそも生きてるわよ。私が言うんだから間違いない」
「ならば…なぜ…」
その問いに答えられる者は誰もいなかった。
いや、厳密には一人いるのだろう。なぜなら本人が生きているのだから。
ステージの上で熱狂を送られ、それでもなお手を振ることも声をかけることもなくボーっとしている銀龍が。
そんな状況が数分続いたところでようやく混乱していた思考が落ち着いてきたストガラグがある行動に出る。
気づかれないように人々に熱狂に隠れゆっくりと移動し…ニョロの被っていたフードを剥ぎ取ったのだ。
「────!」
「あ」
「はぁ…やはりか…」
「似顔絵の…」
スレンが懐にしまっていた折りたたまれた紙を取り出し、広げる。
そこには一人の少女の絵が精巧に描かれており、目の前のニョロと慎重に見比べなくとも特徴が一致しているのがわかる。
つまりニョロこそが彼らの探していた少女なのだという事が判明した。
「そう言う反応をするという事はやっぱりあなたたち神父の手先なわけね」
ヴィオはストガラグからニョロを引き離し、席から立ち上がって距離をとる。
それに対してストガラグは…両手を顔の横であげて数歩後ろに下がった。
「…なんのつもりかしら?」
「話を聞けと俺は最初から言っていたぞ。確かにポリア──金神教会神父からその少女の身柄の確保を依頼されてはいるが、少なくともこの瞬間に教会に突き出すつもりはない」
本当に依頼されているのは確保ではなく排除であるという事をストガラグは意図して隠した。
この先の話をするにあたって頑なになられては困るからだ。
「どういうことなのか説明してもらえるのかしら」
「俺たちは───」
ストガラグが何かを話そうとした瞬間、遊技場の熱気がさらに一段階上昇した。
個人の声などかき消されてしまいそうなほどの声量に耳を抑えながらストガラグ達はステージに視線を戻す。
そこに立っていたはずの銀龍の姿が消えていた。
「あら…?あの子一体どこに…」
そんなストガラグ達を代表したヴィオの疑問の声のすぐあと…人々の壁の間から、にゅるっと銀龍がヴィオたちの前に顔を見せた。
どうやらステージの上からヴィオたちの姿を見つけ、ここまで移動してきてしまったらしい。
しかしそうなると当然…。
「まずい…これ以上は人目を引きすぎる…。紫龍!この場は一旦逃げるぞ!賭けに勝ったのはこちらだ、話を聞いてもらう」
「…はいはい。ほら、あなたも行くわよ銀。蛇ちゃんも」
「…」
「──」
なぜ一行の中でもコミュ力カーストの底辺にいる自分の元に会話ができないのばかり集まるのか…と釈然としないものを抱えながらヴィオは銀龍とニョロの手を引き、ストガラグ達の先導の元、遊技場を後にする。
そして喧騒から逃げるように更なる移動をしたところで…。
「あら」
「おー!旦那ら!ばったりじゃの。ええタイミングじゃったか?」
「あ銀龍様っす。無事に見つかったんっすね!さすが紫龍様」
カルラとネム、くもたろうに偶然合流し、それぞれ話したいことを抱えつつも一息つける場所を探して駆け回るのだった。
もはやその一行こそが奇抜な見た目の集団として目立ってしまっていることに気が付かずに。




