強硬手段
神父ポリアデルスの動きは速かった。
紅茶を受け取る際に菓子に仕込んだ金龍の毒がメアに回ったのを確認するや否やすぐにメアとノロを部下に囲ませ、武器を突きつけさせたのだ。
「…」
「降伏しろとは言いませんぞ、赤髪のお嬢さん。お二人が見た目通りのただの子供でないことくらい私にもわかる…そのうえで私は下から妥協案を提示したというのに、それを蹴ったのはあなた方です。故に優しい対応を期待されても対応できないという事は理解してもらいたいですな」
ポリアデルスの瞳に遠慮や同情の色は見えず、刃を手にした部下たちも殺気を漲らせている。
もはや交渉の余地などなく、次の瞬間にはその殺意をぶつけられそうな状況にノロは瞬時に決断した。
「伴侶様…おゆるし、を…」
そう口にするとノロは荒く、そしてか細く呼吸を繰り返すメアの首筋に噛みついた。
「なにを…」
メアの小さく白い肌から血が流れ落ち、こくんとノロが喉を鳴らす。
その瞬間、ポリアデルスの目にはノロの赤髪が血のような鮮烈さを増したように見えた。
「っ…皆さん攻撃を」
なにかまずいことが起こると勘が働き、ポリアデルスは部下に攻撃の指示を出す。
だが一歩だけそれは遅かった。
「…っ!」
部下たちは武器を構えたまま、命令が下されたというのにその場を動こうとはしなかった。
ただしそれは部下たちがポリアデルスの命令に背いたわけでもなければ、ぼーっと突っ立っているわけでもない。
部下たちはまるで寒空の下に裸で放り出されたかのように震えていたのだ。
そして数拍置き、部下たちを襲っている「ソレ」がポリアデルスにも届く。
「これは…死への恐怖…?そういえばどこかで見た顔だと…となれば…全員下がってください。私達の手に負える相手ではなさそうだ。彼女たちは捨ておいて他の仲間の捜索を行ってください」
部下たちは安心したように息を吐き、我先にとその場を後にした。
そんな様子をポリアデルスは責めることもなく見送り、その場でメアを庇うようにしているノロと睨み合う。
「…あなたが何者なのか、改めて質問をすれば答えていただけますかな?」
「…」
ノロは何も言わず、次の瞬間にはメアと共にその場から消えてしまった。
「…自分でも杞憂が過ぎるとは思ってはいたのですが、さて…のんびりとしている場合ではなさそうだ」
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同時刻、メアたちとは別のルートで遊技場に向かっていた二組にもそれぞれ試練が降りかかっていた。
ネムとくもたろうの二人は自身らの得意分野を生かし、陰に潜みながら人目を避け進んでいた。
しかしその行動が裏目に出てしまった。
本来であれば二人はなんの障害にも触れず、何の妨害も受けることなく目的地に到着しただろう。
だが現在この国にはむしろ「そう言う行動をする相手」を見つけることに関して右に出る者はいないとする人物が滞在していたのだ。
「くもたろうくん避けて!」
「うぇ!?」
潜んでいた陰の外から、滑り込むようにして現れた刃をネムがボロボロの剣で受け止める。
刃同士の甲高い衝突音が静かに鳴り響き、陰の中から引きずり出されたネムはその相手と目が合った。
「ほぉ!」
「お前は…」
「いやこれはすごい!なんぞこそこそしちょる獲物がおるなと気軽に刺してみたらこらビックリじゃ!まさかこんなところで会うとは奇遇じゃのう…相棒?」
「悪斬り…」
「えぇ…こんなタイミングでなんでそんなのと…っす」
ネムと刃を交わす相手…その正体はカルラだった。
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そしてネム達とは逆にあえて身を隠すこともなくニョロに頭巾をかぶせただけで堂々と街中を進んでいたヴィオも人々が行き交う街中でその脚を止めていた。
正面には同じように足を止める人物が二人、目を見開いてヴィオたちを見ている。
「なぜ…お前がこんなところにいる…?」
「あっちゃー…いくらなんでも…ついてなさ過ぎるのではなくて?」
「────」
「あ…なたは白神領にいた…」
ヴィオたちが出会ってしまったのはストガラグとスレンの二人組だった。
人探しをポリアデルスから頼まれたストガラグ達は、メアたちと同じように分かれて手分けをするという手段をとることになり…見事接敵してしまったのだ。
「見逃してほしい…って言えば何も見てないことにしてもらえるかしら?」
「正直こちらもそうしたいところではあるが…仕事である以上はそうもいかない」
ストガラグはゆっくりとヴィオの背後にいる少女を指差した。
「なに?」
「その少女のフードを取って見せてくれ。それで何もなければ…この件に関しては業務外という事で見逃そう」
「…」
「…」
「はぁ…仕方ないか…」
しばしのにらみ合いの後、ヴィオは背後にいるニョロのフードに手を掛け…そのまま共に全力の走りで逃走した。
「え!?」
「ちっ!やはり何かあるか…!追うぞスレン!」
「は、はい!」
そうして龍と社会人による全力の追いかけっこの幕が開いた。
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そして最後に一人。
同時に様々な事態が起こった金神領を上空から眺める赤い影があった。
「んー?ちょっと遊びに来てみれば変な気配ぃ~。なぁんか起こりそうだねぇ。もうすぐで全部終わりだって言うのにこんなことになるのは…やっぱり世界はそういうもんだって事なのかなぁ…。まぁいいや、とりあえずはお姉ちゃんに会いに行こっと。そろそろあの削り滓だけじゃ助けられないだろうからね」




