盛られてみる
これは非常にまずい事態だ。
教会が関わってこない状況でマリちゃんと話せる機会だと思っていたら大ボスがやってきてしまったでござる。
母の記憶にある言葉を使わせてもらうのなら「ここから入れる保険はあるのか」状態ですん。
さてどうしたものでしょうかね。
「金龍様、少し彼女とお話をさせていただいてよろしいでしょうかね」
「は?なんでアンタがメアと話すのよ。今お茶してるのがわかんない?遠慮してほしんですけど」
「ほほう「メア」ですか。取り込んでいるのは理解しておりますが、私も少々彼女に用事がありましてね。それに金龍様に取り急ぎやってもらいたいことがございまして…」
「なんでアタシがアンタの話なんて──」
「これは赤神領からの話です。あとは分かりますな?あまり頑なだとこちらも上に話を通さ名ねばならなくなってしまいます」
「…アタシの友ぴに何かしたらマジ許さねぇから」
「心得ております」
申し訳なさそうにマリちゃんが席を立って「ごめんね」と頭を下げてどこかに走って行ってしまった。
そして入れ替わるようにマリちゃんが座っていた席に神父おじさんがお腹を揺らしながら座る。
さてどうしたものですかね。
何か用事が出来たとか言って立ち去る?それだと怪しすぎるかな…いやでもそもそも既に刺客を差し向けられた後だし、今更か。
それよりもこの状況をなんとかポジティブに考えよう。
ここに神父おじさんがいるという事は逆に別れた皆は安全という事だ。
チーム分けをしたかいがあったね。
なら今私がすることはこの神父おじさんを出来るだけ長くこの場に留めること。
そうしている間に案外あっさりと銀龍さんが見つかって、色々と事態が好転してくれるかもしれない。
もしくはここでおじさんを振り切ってマリちゃんに合流し、ニョロちゃんの事を伝えるか。
話してみた感じマリちゃんとは話す余地があったようには思う。
でも確実じゃないし、おじさんの横やりを受けそうな気がしないこともない。
…というかこのおじさん…神父と言うだけあってなんか妙な気配を感じる。
たぶん大丈夫だとは思うけど、油断はしすぎないほうがいい。
ならやることは一つ…とにかく会話だ。
人となりを知るにはそれが一番。他人との相互理解は挨拶と会話から始まると母が言っていた。
「どうも先日ぶりですぅ~あーどうもどうも」
「ああこれはご丁寧に。覚えていてくれて嬉しい限りで…しかし改めて挨拶をさせていただこう。私がこの国の中枢…「金神教会」にて神父と言う役職を頂いている者です。改めてお見知りおきも」
「はい~私はしがない旅のぷにぷにですん」
「ぷに?…彼女からはメアと呼ばれていましたね。私もそう呼ばせてもらっても?」
どうぞと頷いてひとまずケーキを口に運ぶ。
頭を使いそうな感じなので当分補給である。
「おやおや、ものすごい量のお皿ですね。一体いくら注文したのか…領収書を見るのが恐ろしいですね」
「むぐむぐ…マリちゃんが奢ってくれたので」
「彼女の懐はつまりこの国の金そのものですからな。あぁいえ、彼女の金を国のカネと言っているのではありませんよ?国の金を彼女が自身の懐の中身として使っているという話です」
「…それは知らなかった。怒ってる?」
「いえいえ、あれで彼女じつはそこまでお金を使わないのですよ。貯めこむばかりで使おうとしない…そんなのは不健全だ。金とは使うためにあり、貯金というものは目的のためにするときのみ許されるのです。ですから今回の散財はむしろ好ましいと思っているほどですよ。ほっほっほ」
「…なんかこの前とは話し方が違うね?あ…違いますね?」
「公の場ではないですし、無理に敬語でなくともよいですよ。あの時は民たちの前でしたからな。国のトップ…この金の国にて最も金を手にしている者としてそれなりの態度でいる必要があるのですよ。そして現在はあなたという個人に相対するための態度でいるという事です」
「ほほう」
器用な事ですな。
私なら口調が混線しておかしなことになりそう。
「…さて、それでは挨拶を済ませて多少は気心が知れたという事で本題に入らせてもらいましょうかな。あなた方は何者です?」
「通りすがりのちびっ子ですが」
「はっはっは。ただの通りすがりの子供が、金龍様と接触してしかも名前を聞き出すほどに打ち解けたと?余興にしても雑な笑いの取り方というほかありませんね」
「そんな事言われても」
何かを問い詰められているとき、相手がどれだけ確信を持って詰めてきていたとしても認めなれば真実として確定しない。
母がせーさんに口喧嘩で負かされそうになっていた時によくやっていた手法である。
「まぁいいでしょう。正直なところあなた方が何者だろうとそこまで興味はないのです。この国にて重要なのは金になるかどうか…それ以外は全て取るに足らない雑音でしかない。ただ雑音の中には黄金が奏でる音色に割り込み不協和音とするものがある。今回のあなた方がそれだ」
「よくわかんないですん」
急に話が難しくなったので当分補給。
もぐもぐ…ケーキおいちい。
ノロちゃんにも定期的にあーんをして食べさせておくことも忘れない。
「…あなたが口にしているそのケーキに突如として辛みの強い香辛料をぶちまけられたら困るでしょう?」
「うーん?もぐもぐ…それはそれで…もぐもぐ…ありですん!」
甘さと辛さは調和する。
どうやら神父おじさんは甘い、辛い、甘い、辛い、甘い、辛いで無限ループが組めるという事を知らぬらしい。
こう言うのを「浅い」というのだろう。
食の道と言うのは深淵であり無限…そこに限界も制限もないのだ。
「はっはっは、思いのほか手強い相手だ。どうやら遠回しな言い方では伝わらないようなのでこちらの要求を伝えさせてもらっても?」
「どうじょ」
「何も言わず仲間を全員連れてこの国を出て欲しいのです。それが無理でも最悪あの黒蛇の魔族だけは一刻も早く連れ出してもらいたい。あくまで旅行客と言い張るのならこちらの有責被害という事で賠償金を払ってもいい…どうでしょう?」
「どうしてそこまで?私みたいな黒髪ならよくある話だけど、にょ…黒蛇だけがダメな理由はなに?もぐもぐ」
「それを話すことができないから条件と要求だけを伝えているのです。呑んではいただけませんか?断ると言うのならこちらとしても強硬的な手段に出なくてはならなくなる」
「…もうしてない?昨晩は大変だったよ」
ほんとうはそこまで大変ではなかったけどね。
睡眠が妨害されたのは事実ですのでね。
「その言い方を見るにやはり彼らは撃退されてしまった…ということなのでしょう。なるほど、なかなかの武力をお持ちのようですね。しかしそれならばこちらにも手は無数にある…伊達に国のトップを務めているわけではないですかね。それでどうでしょう?私が下に出ているうちに納得していただけないでしょうか」
「うん、わかりました。出ていきますん」
もちろん嘘だ。
正確には(目的を達成したらすぐに出ていきますん)という意味だけども。
やっぱりこういう頭がよさそうな人との化かし合いみたいなのは私の分野ではないです故…飽きたともいう。
ここはやっぱり友好的に出て雑談に持ち込み、時間稼ぎをするのが楽だという判断。
「…なるほど、やはりこちらの提案を呑むつもりはないようだ」
「え?了承したと思ったけど…」
「はっはっは!その程度の嘘を見抜けないようではこの国では生きていけませんよ。わかりました、ではここは一旦退散しましょう。次に会ったときは敵同士…それ相応の対応をさせてもらいますよ」
「え、もう少しお話をしてくれても…」
神父おじさんは立ち上がり、お腹を揺らしながら去って行ってしまった。
…どうも選択肢を間違ってしまった感じがする。
私にしては珍しいバッドコミュニケーションだ…こんなところにも調子の悪さが出てしまっている。
これはみんなに合流したほうがいいかも…?どうしようか?とノロちゃんに相談しようとした時、店員さんが紅茶を持ってきてテーブルの上に置いた。
頼んでないけど…と言おうかと思ったけれど、どうも神父おじさんが頼んでいたものらしい。
頼むだけ頼んで飲む前に帰ってしまったと…もったいない。
「仕方ない。私が飲みませう」
「いや!もうしわけない!注文していたのを忘れていましたよ」
私が紅茶に手を伸ばした時、神父おじさんが小走りで戻ってきて息を切らしながら紅茶を手に取った。
「いやはや、かっこつけて別れたばかりなのにしまらずに申し訳ない。しかし食べ物は無駄にしない主義なので、これだけはね」
おぉ…その主義はとても共感ができる。
もしかしたら仲良くなれるかもしれないと思える程度には好感が持てますな。
そうして紅茶を飲み干した神父おじさんは一礼して今度こそ去っていった。
私もテーブルの上のお菓子を食べて次の行動に出なければね。
もぐもぐ。
もぐもぐもぐもぐ。
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ。
…ん?何か今…妙な違和感が…お菓子の味に変な味が混ざっていたというか…。
少し前にも味わった事のある味…たしか紫神領で…そうだ…あの毒だ。
なんでお菓子に…?え?本当に人間の世界ではやってるの…?大丈夫?ほんとに?
私は平気…だ…け…ど…?
「あれ…なんか…おかしいような…」
「伴侶様…?」
お腹がぐるぐるする。
そのぐるぐるがぶわっと身体に広がっていく感じがして…次の瞬間に強烈な頭痛と吐き気を感じ、私はたまらず倒れた。
いや…倒れたのかどうかすらわからない。
意識が朦朧として自分が立っているのか座っているのか倒れているのかすらわからない。
「な、なに…これ…」
「伴侶…様…!これはまさか…金龍…の毒…だめ…っ…!今の伴侶さまでは…!」
「うぅ…?」
ノロちゃんが珍しく声を荒らげて何か言っているような気がするけど聞き取れない。
本当に何が起こって…だめだ…とにかく…ノロちゃんだけでも逃がさないと…。
「確かに言いましたな?次に会ったときは相応の対応をすると。ただ紅茶を飲みに戻ると思いましたかな?」
最期にそんな声が聞こえた気がして…ぷつりと私の意識は途切れた。




