伝えてみる
ぶち殺してとマリちゃんは言った。
なにか遠回しな言い方ではなくて文字通り、言葉通りの意味だと思う。
でもニョロちゃんの話では先代の金龍はマリちゃんに立場を譲ったはずで…それを「ぶち殺して」と表現した…?いやいや、いくら私でもさすがにそれはおかしいってわかる。
じゃあいったいどういう事なんだろうか。
「えっと…その…前の人ってマリちゃんの親なんだよね…?それを…?」
「え!メアちゃんなんでアレがアタシの親だってわかったの!?すごくない!?」
「あ…えっと…そう!私は賢いので!あとほら、私とマリちゃんはもうお友達でしょ?私って友達の事ならなんでもわかるからね!」
「えーまじすごーい!え?メアちゃんとアタシってもう友達系?ともぴっぴ?」
「ぴっぴ?…おーいぇーぴっぴぴっぴ!ふぅぅうううう!」
「うぇーい!まじぴっぴー!」
「「ふっふー!」」
「…」
謎の盛り上がりを見せる私とマリちゃんに、何も言わずに黙しているノロちゃん。
うん、カオスだね!
「そっかそっかぁメアちゃんとアタシってもうともぴっぴなんだね!じゃあメアって呼び捨てで呼んでいい系?」
「いいよん」
「ありがとー!えへへ!ともぴっぴができたー!いやぁ実際のところさーメアからはなんか懐かしい気配みたいな?のを感じてたんだよね。それでお茶に誘ってみた的な」
「ほぉ…」
それはあれだろうか…ニョロちゃんの気配のようなものを感じ取っている的なあれなのかな…?
そう言えばマリちゃんの爪の色…思えばそれは確かに蛇状態のニョロちゃんの体表の色に似ている。
という事はやっぱりマリちゃんはニョロちゃんの事を悪くは思っていない…?
でもニョロちゃんは親が自分を殺そうとした時に片割れが親と一緒にいたと言っていた。
…どういう事なんだろう?
むむむ…もうここはとことん聞き出すしかない。
唸れ私の会話力!!
「マリちゃんってお姉ちゃんとかいた?」
「うん!?え?ちょっとメアってマジで凄ない?そんなことまでわかんの!?」
「私にかかればね!それでその…仲はどうだったの?よかったとか悪かったとか…」
「んー…どうなんだろう。今となってはよくわかんないんだよねー」
「わかんないって言うのは?」
「…これ、ともぴっぴのメアだから話すからね?他には内緒だかんね?」
「うん」
「アタシさ気が付いたら「ねぇね」と一緒にいたの。生まれてからずっと一緒…それでねぇねが先に起きてたからアタシは妹で、ねぇねが…ねぇね」
マリちゃんが両手の人差し指をピンと立ててくっつける。
双頭の蛇…ニョロちゃんの話通りだ。
「それで私とねぇねは…その時は仲が良かったの。何をするでも一緒で、何を食べて何を見て、何かを感じて…全部を共有して眠るときも少し首を動かせばねぇねがいて…アタシはそれがとても安心できた。でもアレが…アタシたちの生みの親がそれを引き裂いて邪魔をしてきたの」
離れていく右手と左手。
たぶんそれが…先代が二人を真ん中から引き裂いたという出来事だろう。
「それ以来はずっと一人で…寂しかったけど、でもねぇねは優しかった。アタシがくっつこうとすれば抱きしめてくれたし、これがおいしいって言えばねぇねも一緒に食べてくれたし、逆にこれがおいしかったよって言ってくれた。別れたら別れたで楽しいことはいっぱいあったの」
「うん」
「だからねぇねともっとお話をしたかった。もっと遊びたかった。でもアレが…生みの親が邪魔をしてきた。なんか訳の分かんないこと言いながらアタシとねぇねを引き離そうとしてきて…それがうるさくてキモくて邪魔だった。だからアタシは無視してずっとねぇねと一緒にいたの。でも…あの日…アタシがお水を飲んだ時、少しだけ変な味がしたと思ったそのまま動けなくなったの」
「動けなく…?」
聞けば息が苦しくなって動けなくなり、全身が痺れたようになってあまたが重く、ガンガンと痛んで吐き気も止まらなくなったと。
私は感じたことないけれど、その症状は…ニョロちゃんが持っている毒のようだと思った。
「倒れてたらアレがやってきてアタシにこう言ったの」
──あぁ間に合わなかった。
──止められなくてすまない。
──あの汚らわしい黒蛇があなたから当代の金龍の立場を奪うためにお前を殺そうとしたんだ。
──あの黒蛇はお前の事を邪魔に思っている畜生なんだよ。
──安心しなさい。あなたの仇は私がとってあげるから。
「言われてみればアレはねぇねの毒だった。今は聞かないけれど、昔はアタシも幼くてその毒の効果を中和しきれなくて…ぐるぐるしてぐちゃぐちゃになった意識の中でアタシはねぇねに嫌われてるのかもしれないって思った」
「それは…」
そんなことはないはずだ。
だってニョロちゃんはヴィオさんに妹が馬鹿にされたと思って怒るくらいには妹のことを好きだったはず。
そして何より…ニョロちゃん自身も妹に邪魔に思われていたのかもと言っていた。
お互いがすれ違っているような気がする。これはいったい…?
「そして気が付いたらねぇねはいなくなっていた。アレはアタシに「お前を殺そうとしたことを問い詰めたら逃げて行った」と言った。でもアタシ…ぼんやりとしてたけど夢に見てたの。アレがねぇねを後ろから刺して崖から突き落としたのを。夢だったかもしれないけど…現実だったかもしれない。全然わかんなかったけど…アレのせいでねぇねがいなくなったのは分かった」
マリちゃんは両手を強く握りしめていた。
あまりに力が入りすぎているのか、腕の筋肉がミチミチと嫌な音をたて、血管は今にもはち切れそうなほどに膨らんでいる。
「マリちゃん落ち着いて」
「…アタシ…ねぇねがアタシの事を嫌いならそれでよかったの。だってねぇねがアタシを嫌いでもアタシがねぇねを好きな気持ちは変わらないから。ねぇねがアタシを殺そうとしたのならそれはそれでいいなって…でもアレはそんなアタシからねぇねを奪った。だから体調がよくなって起き上れるようになった後…「邪魔者は消えたよ。これからは親子二人で暮らしていこう。そして行く行くは誰にも認められる金の龍に」とか言って近づいてきたアレを殺した。そして今ってわけ」
実際はすんなりとはいかなくて手こずったけれどね。と無表情でマリちゃんは言う。
たぶんだけどそれは龍同士の…本気の殺し合いにまで発展してしまったのではないだろうか。
なんとなくだけどそんな気がする。
でもこれで少しだけこの話の輪郭が見えてきた。
たぶん先代の金はニョロちゃんとマリちゃんを仲たがいさせたかった…ううん、マリちゃんにニョロちゃんの事を忘れて欲しかったんだと思う。
自分から生まれた黒蛇と言う汚点を消し去り、正当な後継者だけを産んだと人に見せつけるために。
それは…とてもひどい話だ。
もし先代が生きていたのなら私がお礼参りに行ったかもしれないレベルで。
でももし本当にそのせいで二人が勘違いしたままだと言うのなら、なんとかその二人の誤解を解いてあげたい。
「マリちゃん。きっとそのねぇねはマリちゃんの事大好きだったはずだよ。私分かるもん」
「…そうかな。そうだといいな。でもアタシの事なんでもわかるともぴっぴのメアのいう事だから…きっとそうだよね…?」
「うん絶対そうだよ。それにそのねぇねはまだ生き────」
「こんなところにおりましたか。探しましたぞ」
私の言葉を遮って誰かがお菓子の乗ったテーブルに手を突いた。
その声には聞き覚えがあって…まずい事になったかもしれないと手の持ち主に視線を向ける。
そこにいたのは私の想像通り…この国の神父おじさんだった。




