情報収集してみる
私のおやつタイムも少し落ち着き、新たに運ばれてきたケーキを小さく切ってノロちゃんに「あーん」させつつ改めて私のやるべきことを考える。
まずは私とノロちゃんがおやつを食べているところをニコニコと見守っているこのお姉さんが本当に金龍さんなのかを確かめること。
正直これはかなり難しいと思う。
だって私も正体を明かしているならともかく、知らないぷにぷにちびっこに「あなたは龍ですか?」ときいて素直に答えるなんてありえないだろうから。
だからそれとない会話の誘導がいるわけですが…まぁ見ててくださいよ。ブラックドラゴン界隈で上位二名に入るレベルで口がうまいと評判の私ですからね。よゆうですよ。
「あのお姉さん」
「なになに?」
「えっとー…そう言えばお名前なんですか」
金龍さんだと決めつけていたこと、お菓子がおいしかったことなどが重なって名前を聞いていなかったことに気が付いたので会話をスムーズに運ぶためにまずは名前を聞くことにした。
そう言うの大事。
「アタシ?アタシはマリー金色のマリーちゃんって覚えてね。親しみを込めて「きんちゃん」って呼んでもいいよ?マリーちゃんでも可」
「じゃあマリちゃんで」
あえて少し外すことで「コイツ…ただ者ではないな?」と思わせる高等テクニックを披露。
見た目がぷにぷにだからこういうところで舐められないようにしていくのが重要なのだ。
「おっけー!アタシ、まりちゃん!」
普通に受け入れられてしまったけどまぁいいでしょう。
そこから私たちも普通に自己紹介(ノロちゃんの紹介も私がした)をすませ、いよいよ私の口のうまさが試される時間がやってきた。
ブラックドラゴンは舌戦もできるというところを見せてあげよう。
「マリちゃんは~髪が綺麗だけど―…人間さんなの?」
「え?違うよ?」
「そうなんだー。じゃあ魔族さん?」
「ううん?私ね、龍っていうすごい存在なんだよ!すごいでしょ!ふふん!」
はい、言質取れました。
私にかかればこんなもんっすよ。
「…」
ノロちゃんが何か言いたそうにしていたけど、とりあえずその小さなお口にケーキを押し込んでおく。
「それはすごいねー金色のドラ…龍さんなの~?」
「そう!金色の龍。かっこいいっしょ?」
「めちゃくちゃかっこいい!」
「ふふん!」
というわけでマリちゃんが金龍であることが発覚したところで次はどうすればいいのだろうか。
最終目的はこの人を説得して仲間に引き入れること。
この感じなら話せばわかってくれそうな気はするけど…やっぱり油断はできない。
なぜならマリちゃんは数百年くらいせーさん達と争いを繰り広げている龍なのは間違いないのだから。
「ねね、メアちゃん」
「はぁい」
「まだ食べられる?」
「うん」
「じゃあもっと頼もう!お姉ちゃんいっぱいお金使うよ!」
「そんなに使っていいの?お腹は空いてるけど、いっぱい食べたからもう大丈夫だよ?」
「いいのいいの!アタシお金いっぱい持ってるから!はーい注文ちゅうもーん!おかしぜんぶもってきてー!」
「おほぉ…」
なんともまぁ豪快だ。
これは必要以上に悪目立ちするんじゃないかと心配になったけど、思ったより周りには注目されてない。
なんでだろう?と耳をすませて周囲の様子を探ってみるとどうもマリちゃんは何らかの手段で一稼ぎした運のいい人と認識されているようで、この国ではそう珍しい光景ではないという感じみたい。
夢がありますにゃぁ。
ただこれ以上奢られてしまうことに罪悪感が無いと言えば嘘になるレベルにはごちそうになってしまっている。
今も大切そうに抱えている黒い石がそれほどまでに大切なのだろうか。
「マリちゃん。その石って何に使うの?おじさんは「せんりょう?」にしかならないって言ってたけど」
「ん?これはねネイルに使うの。爪を塗るの。ほらこんなふうに」
マリちゃんが私に爪が見えるように手を伸ばしてきた。
確かにその爪は黒く綺麗に塗られている。
つやつやしててピカピカしてて…爪というよりは黒い宝石のようだ。
ものすごい手間暇がかかっていそうである。
「すごくきれいだね」
「え!そう思う?ほんとに?やっばメアちゃん見るめあるぅー!えへへ、綺麗でしょ?でしょ?もっと言って!」
「綺麗!黒くてピカピカ!よっ!せかいいち!」
「えへへへへへへへ!」
もうこれほどにはないと言うほどにっこにこである。
見た目は結構お姉さんだけど、表情だけ見るならかなり幼く見える。
「もしよかったらメアちゃんにも塗ってあげようか?アタシめっちゃうまいから!綺麗になるよ!」
「私はもう黒いので大丈夫ですん」
「あらほんとだ。メアちゃんも塗ってるの?」
「ううん。うまれつきー」
ブラックドラゴンですからね。爪くらい当然黒いですよ、はい。
「そっかぁ~…うらやましい。あぁでも…やっぱりちょっと色味は違うからどっちにしろかな」
「う?」
「この石で出せる色がね、一番「近い色」なの。ただ黒ければいいわけじゃないから」
大切そうに石を撫でるマリちゃんの表情は今度は見た目相応…いや、それ以上のお姉さんに見える。
表情がコロコロ変わるお嬢さんだ。
「でもこれからどうするの?おじさん次の仕入れに時間かかるって言ってたけど」
「そこだよねー。大切に使わないと…あーそれかあいつらに命令しておじさんを手伝わせるか…」
「めいれい?」
「うん。アタシの家になんか知らないけど人間がいっぱいちょろちょろしてるから。あいつらに頼めば何とかなるかも。ほらアタシこの国でめっちゃ偉いから!」
「偉いんだ!もしかして王女様とか」
「もっと偉いよ!ゴッドだよゴッド!マジ神!」
「マジ神!」
まぁ龍なんだからそれはそうでしょうねと私は思ったけれど、ここで一つ頭の中に疑問が浮かんだ。
ニョロちゃんの話を聞くに先代の金龍はマリちゃんにその立場を譲ったって話だったけど…ならその先代の金龍はどうしているのかな。
もしかして母のようにすでに寿命を迎えたのだろうか。
だとすれば…マリちゃんはその親の事をどう思っていたのか、今現在はどう思っているのか…少しだけ気になった。
「…マリちゃんは…どうやって偉くなったの?」
「ん?どゆこと?」
「えっと…生まれた時から偉かったわけじゃないでしょ?だからどうやって偉くなったのかなって…ほら、誰かから受け継いだとか…」
「…」
再びノロちゃんの何か言いたげな視線を感じるのでとりあえずクッキーをそのミニマムマウスに詰め込んだ。
そしてマリちゃんは「ああそういうことね」と納得したように笑いながら…。
「アタシの前にいた偉そうなのをぶち殺して立場を奪ったんよ」
紅茶を飲みながら何でもないことかのようにそう言い放った。




