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35.二つの条件

 『テイム』された魔竜達は、傷を癒すために一旦『魔の大地』へ戻る事となった。

 完全回復したら、今後はそれぞれ新魔竜王ゼロンの補佐として何かしらの役割を担ってもらう事になる。


 聖竜達も逃げるように姿を消し、その場にはゼロンとフュノだけが残っていた。



 ゼロンには、『魔の大地』へ戻る前にどうしても決着をつけておきたい事があった。

 まだ完全ではないようだが、既に『魔竜王』としての力が身についたらしく、先ほどから、常にその気配を感じている。


 ゼロンが、宙に向かって語り掛ける。


「『魔の大地』よ、話がしたい」


 既に『聖なる大地』の気配はないが、その代わりに『魔の大地』の気配を感じていた。

 『魔の大地』が、ゼロンに応じる。


《ふふ。やっと、魔竜王になってくれましたね……ありがとう。愛しい子》


 なかなか『魔竜王』になろうとしないゼロンに、『魔の大地』はやきもきしていた。

 こうして希望通りにゼロンが『魔竜王』となり、会話ができるようになったことに、『魔の大地』も安堵している。


「ボクが『魔竜王』となる代わりに、二つほど条件を飲んでほしい。

 もしそれが叶わないなら、ボクは『魔の大地』に戻るつもりはない」


 突然の条件に、一瞬『魔の大地』は戸惑いを見せたが――ここは素直にゼロンの条件を飲む事とする。


《わかりました。条件を言いなさい》


「一つ目は、フュノを『魔の大地』へ入れる事」


 何かを確認するかのようにしばらく間が開き、『魔の大地』がそれを承諾する。


《…………承知します。

 『聖なる大地』の愛しい子。今は、大地の摂理から外されているようですね。

 問題ありません、『魔の大地』は受け入れましょう》


(『今は』、なのか)


 それをゼロンは聞き逃さなかった。それはこの先、フュノが再び聖竜に戻る事ができるという事を意味している。

 『聖なる大地』が、いつかフュノを取返しに来るかもしれない。


「ゼロン様……、どうでしょうか?」


 フュノは不安そうに、ゼロンを見上げる。

 大地の摂理から外れているフュノに、『魔の大地』の声は聞こえない。

 ゼロンがしばらく無言となった事に、『魔の大地』が拒否したのではと不安になる。


 ゼロンは「大丈夫だ」と言うと、フュノの頭を撫でてその不安を否定した。

 逆に、ゼロンに一つの不安が渦巻く。単なる個人的な束縛のつもりで、ダメなら仕方がないとは思っていたが……こうなると、二つ目も必須条件だ。


「二つ目は、ボクが魔竜王となった後、フュノを『魔の大地』から出さない事」


《『聖なる大地』の愛しい子が、もし、それを望むのであれば》


 フュノにはその意図がよく理解できず、首を軽く傾げてゼロンを見た。

 大地の声が届かないフュノへ、ゼロンが代わって質問をする。


「フュノ、それでもいい?」


 フュノには、この条件にどういう意味があるのかは分からない。


 ゼロンが魔竜王となった後、そもそもゼロンは『魔の大地』から出られなくなる。ゼロンから離れて、『狭間の大地』に戻るつもりは無いし、まして聖竜でもないフュノが『聖なる大地』に入れるかどうかも分からない。


 二度と姉達に会う事は出来なくなるだろうが、姉達だってフュノに会いたくはないだろう。

 むしろ、フュノが『魔の大地』から出ない方が自然に思える。


「はい、わたしは、何の問題もないです」


 フュノは笑顔で頷いた。


《承知します。『聖なる大地』の愛しい子は、『魔の大地』から出しません。

 ……それでは、『魔の大地』で。愛しい子……魔竜王……》


 長い間切望した、愛しい子の魔竜王としての帰還。

 『魔の大地』は満足気な声を残して、その気配を消した。



 希望通り条件が通った事に安堵して、ゼロンが大きく息を吐いた。

 ゼロンの様子に『魔の大地』が条件を飲んでくれたのだと――フュノが目を丸くする。


「え、えっ!?

 もしかして……わたし、本当に『魔の大地』へ入れちゃうんですかっ!?」


「……ああ。……もう、何も心配ない」


 ゼロンは叫びたい感情を抑えこんで、フュノを強く抱きしめる。

 もう離さない。何よりも大切な竜。


「フュノ。一緒に、『魔の大地』へ行こう」


 フュノも全力で、ゼロンに抱き着く。


「……うぅえぇんっ、ゼロン様ぁあっ!だ、大好きですぅっ」



 フュノは、自分が『聖なる大地』に愛されていた事を知らない。

 自分が聖竜王候補だった事も知らない。


 『魔の大地』から出ない限り、それを知る機会は、もう二度と無いのだろう。


◇◇◇


「きゃぁぁあっ!?フュノ!フュノぉぉおぉっ!?」

「フュノォオオオオオ!!」


 城でゼロンの帰りを待ち構えていたタルマウスとポチは、フュノの姿を確認すると、涙を流して全力でフュノに抱き着いた。


「タマちゃん、ポチ!心配かけて、ごめんなさい!」


 フュノもタルマウスとポチを強く抱きしめ返す。


「フュノ、アンタ髪の毛どうしちゃったのぉ?」

「そうだよフュノ、なんだか雰囲気変わったみたい……」


 タルマウスは全力でゴリゴリとフュノの髪の毛に頬ずりをし、オオカミ姿のポチもフュノにピッタリとくっついて、首元から全身の匂いをスンスンと嗅ぐ。


 二人とも極限にフュノを心配したあまり、距離感が大幅に縮んでいる。ゼロンは無言でそんな二人を引き剥がす。


 フュノは自分の髪の毛を一束握ると、陽の光に透かしてみせた。青銀に美しく光る髪の毛が、自分のものだとは未だに信じられない。


「そうなの。わたし、聖竜じゃなくなっちゃったの」

「「……え」」


 タルマウスとポチがハモる。

 二人の驚く様子に、フュノも、ニィと笑う。


「だから、私……『魔の大地』にも、入れるようになったみたい」

「え……えぇっ!?」


 タルマウスが事実確認をするようにゼロンへ視線を送ると、ゼロンも笑って頷いた。


「ああ、本当だ。

 むしろ、フュノは今後『魔の大地』から出られなくなる」

「え?……え?ど、どういうこと?」


 理解が追い付かずに、ポチも大きく首を傾げる。


 ゼロンはただ笑うだけで、その場を濁す。

 その辺りは、フュノにも話していない事が多い。フュノがいない時に説明をした方が良いだろう。

 この先二人には、『魔の大地』に行ってもフュノの世話役をして貰うつもりだ。


「その辺りは追々説明するとして。

 タルマウス、もう一つ言わないといけない事が――」


「え、何よォ。まさか、もうフュノと結婚するとか言うんじゃないでしょうねェ?」


 タルマウスはニヤニヤと、冗談で言ったつもりだったのだが。

 ゼロンがそれに真顔で返す。


「え?あぁ、それはもちろん。

 そうじゃなくて、さっき魔竜王になってきた。

 『魔の大地』へ戻るから、準備を進めておいて」


 『ちょっと買い物に行ってくる』ぐらいのノリで言われた爆弾発言に、タルマウスは珍しく意識を失うと、その場にパタリと倒れた――。

読んでいただきましてありがとうございます!

多分『聖なる大地』は舌打ちしてます。

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