36.大団円
「ううぅっ、フュノ、こ……こんな日が来るなんてェ」
「フュノ、綺麗!」
純白のドレスに身を包んだフュノを見るなり、タルマウスは膝から崩れ落ちた。
ポチが全力で尻尾を振ってフュノに飛びつこうとしたが、現魔竜王がポチの尻尾を掴んでそれを制止する。
「だめだめ、ポチ君。綺麗なフュノちゃんにベッタリ毛が付いちゃうからね。
ちょっと本気で部屋から出て行ってちょうだい」
『魔の大地』で、フュノはめっきり現魔竜王からも可愛がられていた。
今日は、結婚式。
息子しかいなかった現魔竜王にとって、義理ではあるがフュノは初めての娘となる。
我侭で自由な息子たちとは比べものにならないほど素直で、ゼロン並みの力を持ち、『テイム』という希少能力まで持つ。
これ以上可愛い娘は存在しない。
フュノが聖竜達から受けた仕打ちを聞いて激怒し、『聖なる大地』へ戦争をしかけると言い出した時はゼロンに全力で沈められていた。
◇◇◇
『狭間の大地』に残して来たゼロンの国では、ヒャクマが次期王となった。
フュノは、ヒャクマを一度ボロボロにしてしまった罪悪感と、『テイム』により支配下にあるので、もうあまり過去の事は気にしていないと言ったのだが。
ゼロンの方がヒャクマを未だに許しておらず、国の整備が終わり、次の新たなる王を任命するまでは、という条件付きで『魔の大地』に戻る事を許さなかった。
最近は、憂さ晴らしに聖竜達の後継者争いに乱入しているという噂も聞く。
リオクはその狡猾さを武器に、ゼロンの参謀となり、タルマウスの相棒となった。
リオクに全くその気はないようだが、タルマウスはリオクの事を相当気に入ってしまったようで、日々何かしらアピールをしては「完全に無視されたわァ」と嘆いている。
セントはそのスピードと黒色の身体を生かして、偵察隊として『魔の大地』を飛び回っている。黒い身体は暗闇の空に溶けて、その姿を捕らえる事は中々難しい。巷では、『黒竜を探せ』というゲームが流行り始めている。
『テイム』をされているので、魔竜達はフュノに逆らえない状態ではあるが。後継者争いという呪縛から逃れて、生き延びた事を純粋に喜び、その生を楽しんでいる。
ちなみに、タルマウスとポチには、本人達の希望もあって、改めて『テイム』を掛けた。
特に『テイム』があってもなくても、もうこの関係は何も変わらないのだが。三人にとって、それはとても大事な縁となっている。
二人に『テイム』をする時、どさくさに紛れて現魔竜王も『テイム』を掛けられたいと飛び出してきたが。現魔竜王の方がフュノより力は強く、無事に未遂で終わった。
◇◇◇
その日、『魔の大地』では、国を挙げた盛大な結婚式が執り行われた。
最初は純白のドレスに身を包んだ人の姿。次は青いドレス、その次は銀のドレス、と数回のお色直しの後。最後に、二人は竜の姿へと戻る。
『魔の大地』に生きるモノ全てから祝福を受ける中、銀色と青銀色の竜は揃って仲良く空を飛び交い、大地の民達へその幸せな姿を大いに見せつけた。
結婚式に続き、魔竜王の戴冠式が執り行われる。
現魔竜王からゼロンへと『大地』の全てが渡され、正式にゼロンは新たなる魔竜王となった。
その瞬間『魔の大地』全土で、銀色に輝く魔素が吹き荒れた。『魔の大地』は、新しい魔竜王を心から祝福し、前魔竜王を最大級に労った。
その様子にタルマウスとポチは感動して号泣し、前魔竜王はやっと肩の荷が下りたと速攻で深酒をして酔いつぶれていた。
この日だけは『魔の大地』へ入る事を許されたヒャクマと、セントとリオクの兄弟達は、揃ってゼロンとフュノへ祝福の拍手を送った。
◇◇◇
「うぅ、つかれた……」
フュノは寝室でゆったりとした服に着替え終わると、ドレスからの解放感を噛み締めて全身を伸ばす。『魔の大地』へ入ってからというもの怒涛の日々だったが、それもこれで一旦終わりとなるだろう。
窓枠には青い光球が飾られており、室内はその青い光にボンヤリと照らされている。この光球が最近ゼロンのお気に入りらしいのだが、それが何なのかはよくわからない。
一度ゼロンに尋ねたてみたが、「内緒」と笑うだけだった。
フュノは寝室からつながるベランダに出て、夜風に当たる。
『魔の大地』は常に闇が広がる、真っ暗な大地なのだと聞いていた。だが実際は、そこで暮らし、生活をするモノ達の明かりが星のように瞬いて、とても幻想的で美しい。
外ではまだ祝福の祭りが続いており、風に乗って踊りの音楽が聞こえてくる。
タルマウスは、この先三日三晩はこの祭りが続くと言っていた。
「――フュノ」
その聞きなれた声に、フュノが振り返る。
そこにいたのは、少し疲れた顔をした、愛おしい人。
「ゼロン様。さては、タマちゃんに怒られましたね?」
ゼロンは笑って頷くと、フュノの横に並んで、一緒に夜風に当たった。
泥酔した前魔竜王が、先日ゼロンと『魔の大地』で一戦まみえた事を武勇伝のようにフュノへ語ってくれた。
横でそれを聞いていたタルマウスは「聞いてないわよォ!」と顔を真っ赤にして怒り、ゼロンを探しに行くと言って姿を消していた。
「ああ……。隠していたのに、とうとうバレてしまった」
そう言うと、ゼロンは懐かしそうに目を細めて、遠くで流れる音楽に耳を澄ませる。
ゼロンはこの曲をよく知っているのだろうか。
小さい頃からこの景色を見て、ここで育ってきたのだろうか。もしかすると、あの光の先に仲の良い友達がいるのかもしれない。
フュノには、まだまだゼロンについて知らない事が多い。
ふと、フュノがゼロンを見つめる。
ゼロンもフュノに気付き、「どうした?」と首を傾ける。
未だにゼロンが横にいてくれる事が、信じられない時がある。この先誰かに取られてしまうのではないかと不安にもなる。
「ゼロン様。わたし、多分、しつこくて、とっても嫉妬深いと思います。
結婚したこと、後悔するかもしれませんよ?」
ゼロンは、そのフュノの言葉が嬉しくて、口元を緩ませる。
フュノが知らない所で、ゼロンの方が、フュノを目一杯束縛している。
「大丈夫。きっと、ボクの方が嫉妬深いから」
ゼロンは手を伸ばし、髪の隙間からフュノの耳に触れる。
――パチリ、とフュノの耳元で、小さく何かがはまる音がした。
「……あれ……?……今……んん?」
違和感に気付き、フュノが耳に手を当てる。
その耳には、小さな鈴がついていた。
「……!!ゼロン様……、こ、これは、まさか」
この大きさ、この感触の鈴には覚えがある。
あの時、フュノが意識を失う最後まで、聖竜達から守りたかった『契約の鈴』。
「新しいのを見つけてきちゃった」と、ゼロンが笑う。
「ふふ。それじゃあボクと新しい契約をしよう。
フュノ。今後はずっと、ボクだけのフュノでいてね?」
ゼロンはそう耳元で囁くと、フュノの耳に口づけをした。
フュノはくすぐったそうに笑い……「はい」と頷き、涙を隠すように、ゼロンの胸に顔を埋めた。
銀の鈴が『ちりん』となり、契約が成立する。
暖かい風が2人を包み、ゼロンがフュノの頭をそっと撫でる
「フュノ、愛しているよ」
フュノは顔を上げると、その柔らかい金色の瞳に微笑みを返す。
「ゼロン様。わたしも、愛しています」
二人はお互いの気持ちを確認し合うと――ゆっくりと唇を重ね合わせた。
~おしまい~
ここまでお付き合いいただきまして、本当にありがとうございます!
これにて終了です。めでたしめでたし。
もし気が向いたら、ブクマ・評価頂けると嬉しいです!
どうなるかと思いましたが、とりあえず最後までやり遂げることができました~!




