27. 聖竜の仲良し四姉妹
フュノが指定された合流場所は、一面の焼け野原だった。
桃竜コハルと黒竜セントが戦った跡地だ。
この情景だけで、その戦いがいかに壮絶だったのかが分かる。
四方を見渡す限り、木も山も何もない。
生命の気配が一切無くなった土地の忠心部分に、焼け野原に似つかわしくない、可愛らしい桃色のテーブルセットが並べられていた。
フュノはそれに見覚えがあった。
『聖なる大地』の聖竜王の城で、コハルが愛用していたテーブルセットだ。
呼び出された割には姉達の姿は見えず、フュノとテーブルセット以外、本当に何も無い。
他に何もする事がないので、フュノはとりあえずそこに座る事にする。
視界に広がる壮絶な戦いの跡。
ナツキとシュウカもまた、別の場所で戦いに敗れ『聖なる大地』へ戻ったと聞いた。
姉達と別れた後、タルマウスとポチを捕まえて、ゼロンを追いかけて、楽しい時間を過ごしていたフュノは、その惨状に、少しだけ罪悪感を覚える。
……実際、何回かは死にかけたし、一度死んだけれども。
それと同時に、ここは戦場なのだと、改めて緊張感も湧いてくる。
(お姉様達……ちゃんと、わたしの話を聞いてくれるかしら)
危険かもしれない。やはり、ゼロンに一言伝えてきた方が良かったのかもしれない。
でも、聖竜同士のいざこざに、魔竜のゼロンを巻き込むわけにもいかない。
「――フュノ」
ふんわりと、柔らかい声がした。
焦げた匂いの中に、突然、華やかな香りが広がる。
「お姉様達」
フュノは立ち上がると、後ろを振り返る。
そこには想像通り、コハル、ナツキ、シュウカの三人が揃っていた。
珍しく、三人とも竜ではなく人型だ。
フュノの姿を確かめると、姉達は何やら目配せをしながら、全員椅子に腰かけた。
四姉妹全員が久しぶりに向かい合って座った所で、コハルは宙からティーセットを取り出すとテーブルへ綺麗に並べる。
『聖なる大地』側からティーセットだけ持ち運んだのだろう。フュノにはできない芸当だ。
「お久しぶりですわね、フュノ」
にっこりと笑ったコハルだが、その笑顔にフュノは身震いをする。この姉は、こんなに、表面だけで笑うような竜だっただろうか。
「はい、コハル姉様達もご無事そうで。良かったです」
ナツキもシュウカも、フュノを値踏みするかのようにじっと眺めている。久しぶりに姉妹全員が揃ったというのに、妙に息苦しい。
挨拶もそこそこに……次の策は、とコハルが切り出す。
「わたくしが黒竜を。フュノは茶竜を追い込んだようですけれど?
ナツキとシュウカが『聖なる大地』で回復を済ませたように、きっとその魔竜達も『魔の大地』で回復をしているはずですわ」
『フュノが茶竜を追い込んだ』と言われた事に、一瞬フュノの理解は追い付かなかったが――ポチから、『フュノが殺されそうになった後、ゼロンがヒャクマに致命傷を与えた』と聞いた事を思い出し、合点がいった。
まさか、この姉達に、そんな事実は思いも寄らないだろう。
「……はい」
茶竜を追い込んだという事に対して、フュノが否定をしなかった。ナツキが腕を組むと、わざとらしく咳払いをして、話を切り出す。
フュノの中で、違和感が渦巻く。
何だか、姉達の挙動が芝居掛かっている気がしてならない。
「そう。フュノ、あんた強くなったのね?
前はどうしようもなく足手まといだったけど、一人前に強くなったのなら、今みたいに一対一じゃなくて、もう一度、全体総攻撃に戻った方が良いと思うけど?」
シュウカも畳みかけるように、フュノに問う。
「茶竜を倒したなんて、すごいじゃナイっ?
何か、新しい能力でも使えるようになったのかナ?
……一体何が、使えるようになったのかナ?」
「ちょっと、待って、待ってください」
フュノがパタパタと全身で手を振って皆を否定する。
芝居がかっていて不自然な会話だけど、フュノが姉達から何かとてつもない勘違いをされている事だけは、よくわかる。
茶竜も倒してないし、力も上がってないし、何の能力も増えてない。
この先、戦い続けても、これまで通り足手まといである事に変わりがない。
「ち、違います、違いますよっ」
テーブルに身を乗り出してまでフュノを問い詰めていた三人だったが、フュノが否定をしたことで、咳払いをして椅子に座りなおす。
(どうしよう、お姉様達がおかしい……)
聖竜である姉達に、ゼロンの事は言わない方が良いだろう。
とにかく、聖竜王候補を辞退する事は伝えて、すぐにでも脱落させてもらった方が良い。このままだと、また争いに巻き込まれてしまう。
フュノは、首元の鈴を握りしめる。
「わたし、何も強くなってないです。
お姉様達の足手まといであることに、変わりないです」
三人は、フュノの言葉に一瞬驚いた様子を見せたが。
お互い目配せをするだけで、フュノに続きを促す。
「お姉様たち、ごめんなさい。わたし、これ以上は無理です。
この先、竜の姿にも戻らない事もお約束します。
だから……だから、ここで……」
コハル、ナツキ、シュウカが視線だけで慌ただしく会話をする。
これは、もしや――。
深く考えすぎただけなのでは?
「ここで、わたし、聖竜王候補を、辞退します」
フュノは、はっきりと言い切ると、強く目を瞑った。
生まれた時から、ずっと共に、聖竜王を目指してきたお姉様達。
何を甘い事を言うのかと、叱られるかもしれない。叩かれるかもしれない。
――だが。
「……ぷっ」
聞こえてきたのは、笑いを堪える声。
そしてそれは、次第に爆笑へと変わる。
「……お、お姉様?」
フュノには状況が理解できない。
だが、三人は自分達の心配が無駄だったことが可笑しくて、笑いが止まらない。
「ああ、おっかしい!フュノ、竜に戻らないんじゃなくて、戻れないんじゃないの?」
「もしかして、銀の竜に何かされちゃっタ?
ぷぷぷ……もしかして、呪い?それとも封印?
竜に戻れないなんて、フュノ、何も怖くないじゃン!?」
「ふ……わたくし達としたことが。
全て、無駄な気苦労だったようですわね」
竜達は、自らが『竜』という存在であることに、絶対なる誇りを持っている。
自ら竜の姿を捨てる事は、まず普通に考えて、ありえない。
それを前提とした時、フュノは『竜に戻らない』のではなくて、『竜に戻れない』という結論になる。
あの銀の竜に、何かしらの強い封印を施されて、竜に戻る術がない、と考える方が自然だった。
「いや、あの、あの、そんなことは……」
コハルは立ち上がり、混乱極まるフュノのおでこをコツンと叩く。
「ああもう、どのタイミングでお前を殺してやろうかと、ずいぶん悩みましたのよ。
ナツキ、シュウカ?もう、今で、いいですわね?」
「お姉様!ここで殺っちゃいまショウ!」
「フュノ、アンタは知らなかったのでしょうけど。
後継者争いには『辞退』なんて存在しないのよ。あはは!」
「お……お姉様?」
フュノが姉達を警戒する間もなく。
コハルとナツキ、シュウカ、聖竜全員がフュノへと襲いかかる。
何故、合流場所が『聖なる大地』ではなく、『狭間の大地』だったのか。
何故、こんなに何も無い焼け野原が指定されたのか。
フュノがそれを理解できた時は、既に、手遅れだった。
読んでいただきましてありがとうございます!
フュノさんにげてー!!




