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美少年に転生したら男にモテる件について  作者: しらた抹茶
閑話
66/79

3

*第三者視点*



 月が街道を照らす夜道。


 一両の馬車がマーシュマロウ邸を目指し悠然と進んでいた。馬車に乗るはユリウスの息子であるシリウス・マーシュマロウ。彼はどこか釈然としない赴きで、窓口から闇夜に浮かぶ街中をめ付けるように眺めていた。




―――まったく、何故俺がニベウス何ぞの見舞いをしなくてはいけないんだ。




 従兄弟のニベウスとはあまり交遊関係もなく、寧ろ悪徳な噂ばかり耳にしていたシリウスはなるべく関わりたくなかった人間だ。


 幼い頃、数度会った程度で何故見舞いをしなくてはいけない。


 今回の事件の知らせが父からあった際に、口先で心配する素振りをみせたのがいけなかったのかもしれないと、シリウスは何度目か分からない溜め息を吐いた。



 シリウスはニベウスが嫌いだ。



 二つ年下の従兄弟は伯爵の地位を預かる家柄の嫡男でありながら、その役目に向き合う事をせず、努力を怠り家名に泥を塗る真似をしたのだ。血縁であるのが恥だとさえも思う。


 父の思惑はどうあれ、シリウスは自分こそがマーシュマロウ家の跡取りとして相応しいと考えていた。



 学業も優秀で教員の信頼も厚く、眉目秀麗な容姿も相まって学院の生徒達からは羨望の眼差しをむけられている。将来自分が爵位を継いだ際に必要な人脈も作り、品行方正な学業生活には余念がない。


 さて、問題児の従兄弟と再会したらまず何と言って茶を濁した物か。


 自分は暇ではない。


 出来れば早く学院に帰りたいのだ。


 両親の手前、あまり邪険には出来ないだろうが仲良くする気は更々ないのだし、適当に愛想よく振る舞って父の機嫌取りをしよう。


 そう、心に決めた時だった。



 突然馬車が止まった。




「こら! 何をしてる!? 動け!」




 前で御者が馬に鞭を打つ音が聞こえる。


 何があったのだろうか。


 こちらは早く用事を終わらせようとこの夜中にも馬車を走らせていると言うのに、こんな所で立ち往生しては意味がないではないか。




「な、なんだ......ぎゃああああ!!!」


「!?」




 不意に、御者が悲鳴をあげた。


 一拍おいて、何かが倒れる音がする。




「シリウス様はここに」




 向かいに座っていた警備兵が事態の異変に慌てて馬車から降りた。


 不穏な気配にシリウスは固唾を飲む。




「何者だ!? なっ―――ぐっ」




 どさりと、また人の倒れる音。


 何かがおかしい。冷え込む秋夜の風が吹き、気温が急激に下がったような錯覚に陥る。恐れに身構え、口の中の水分が一気に無くなった。


 どれ程時が経っただろうか。


 誰かが自分を襲ってくる気配は無く、緊張に耐えきれなくなったシリウスは馬車からゆっくりと"降りてしまった"。


 街灯も落ち、月明かりだけが頼りの闇夜。



 その暗がりに紛れるように、一人の人間が馬車の前に立ち塞がっていた。




「だ、誰だ......」




 闇が深く、人の風貌を確認する事が出来ない。しかし、その不気味な気配にシリウスは尻込みしそうになる。


 人影が、のっそりと動いた。




「君は......シリウス・マーシュマロウかい?」




 若い、男の声。


 何故自分の名前を知っている。


 ジリジリと近付いてくる人物に、シリウスは焦りを覚えつつも蛇に睨まれたカエルの如く、動く事が出来なくなった。



 逃げなくては。


 それでも、足が動かない。




「ああ......よかった、俺は本当に運が良い......」




 ついに、男がシリウスの目の前までに迫って来た。


 しかし、それでも男の風貌をしっかりと視認する事が出来ない。否、男には顔が無くなっていた。



 影、だろうか。


 足元からは泥のように黒い影が男の足にまとわりつき、じわじわと身体を蝕んでいる。その泥は、顔の半分を漆黒に塗りつぶしていた。


 異形だ。


 人間では無い。



 口から、言葉にならない喘ぎに似た声が漏れる。



 誰か、助けてくれ。



 そんな彼の懇願を聞く者は、誰一人として居なかった。


















 その警備兵は誰かに揺すり起こされる感覚を覚え目を覚ました。


 冷たい石畳が頬を伝って体温を冷やしているのに、警備兵は思わず身震いしながら身体を起こす。




「大丈夫か?」




 自分を起こしていたのは己の雇い主の息子、シリウス・マーシュマロウであったのに気付いた警備兵は、先程までの出来事を鮮明に思い出す。



 不振な人物が馬車の行く先に塞ぐように立っていたのだ。


 警戒しながら何者かを尋ねた途端、意識を失ったのを覚えている。




「申し訳ありませんシリウス様......御身を護衛する立場でありながら、気を失う失態を......ご無事でなりよりです。お怪我はございませんか?」




 辺りの気配を探っても、自分達以外に誰かが出歩いている様子は無い。


 あの不振な人間は何処かへ消えたようだ。




「何ともない。そっちこそ平気なのか?」


「はい......自分も外傷はございません」


「そうか、なら御者を起こして屋敷に向かおう。時間が惜しい」




 そう言ってシリウスは馬車へと戻って行った。御者席には御者が横たわっている。近付いて確認すると、息はしっかりあり自分と同じように気を失っているようだった。


 はて。



 あの不審者は何者で、何が目的だったのだろう。第一に、何故自分は気絶をしたのか。


 疑問ばかりが残ったが、警備兵は御者を起こし再び馬車はマーシュマロウ邸に向かい動き出したのであった。




 その客車で、シリウスが小さくほくそ笑みを浮かべたのを誰も気付かなかった。



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