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シリウスが屋敷に帰って来る当日。
今日も今日とて俺はマリアンヌのお人形になっていた。
「今日はお兄様が帰って来るから、うんと綺麗におめかしをしましょうねアネット! きっとお兄様も美しいあなたを気に入って下さるわ!」
なんて、めちゃくちゃ張り切っているマリアンヌに対し、もうどうにでもなーれ状態の俺は完全にされるがまま。今日のドレスは純白のレースが基調のプリンセスドレスで、頭には蝶をモチーフにした髪飾りをつけられている。
ふふん。もう慣れちゃったもんね。何も感じないんだぜ。つーか、俺超似合ってね?
てな感じでいい加減自分の感覚がぶっ壊れそうになった頃。屋敷の呼び鈴が鳴った。
直ぐ様反応したマリアンヌが窓辺に駆け寄り、門前を確認すると飛び上がりながら喜び出す。もしかして、シリウスが帰って来たのかな?
「お兄様だわ! 早く行きましょうアネット! 貴女をお兄様に紹介してあげる!!」
時刻は二時過ぎ。手紙には夕刻を過ぎると書いてあったらしいのに、予定より大分早い到着だ。
叔父さんも実務で出掛けているけど、帰って来たなら仕方がない。俺はマリアンヌに手を引かれながら玄関へと向かった。
玄関に着くと、執事とメイドに囲まれた美青年が立っていた。
隣の奥さんと何やら親しげに話しているけど、年齢的にマリアンヌのお兄さんではなさそうだ。誰だろう。
「お兄様!!」
「え?」
ところがどっこい。俺の予測は見事に外れ、マリアンヌは美青年に飛び付いて行った。
それを美青年は優しく受け止める。
え、じゃあ、あれがシリウス!?
ちょっと年の離れた兄弟って事?
マジでー? 叔父さんに仲良くするように言われた時、完全に自分より年下だと思ってたから気が緩んでたんだけど。んー、でも俺とそんなに歳離れて無さそうだし......話せば大丈夫......かな。
「お帰りなさいシリウスお兄様! お元気そうでマリアンヌはとっても嬉しいです!」
「ただいまマリア。俺も久しぶりにお前に会えて嬉しいよ」
へー、仲の良い兄妹なんだな。俺も妹とはそこそこ仲よかったけどね。
「お兄様! 今日はお兄様にご紹介したい方がいるの」
「へぇ、それは誰かな」
「あちらにいる方よ! アネットと言うの」
アネット、と紹介され、シリウスとバッチリ目が合う。
俺の姿を視覚したシリウスは、パチパチと数回瞬きをして固まった。
うう......今更恥ずかしくなってきた......ですよね、久しぶりに再会した従兄弟が完璧に女装してたらそりゃ唖然とするわ。誰か、誰かこの気まずい空間から俺を救いだしてくれ。
俺が羞恥心に悶絶する中、沈黙を守り続けていたシリウスがイケメンスマイルを浮かべた。
「久しぶりだなニベウス。誘拐されたと聞いた時は肝を冷やしたが、息災そうで何よりだ」
「は、はぁ......」
シリウス、この格好とアネット呼びを華麗にスルーしてくれました。
「もう! お兄様ったら、この子はニベウスでは無くてアネットよ!」
「......? どういう事だ?」
「マリア、もうおよしなさい。疲れたでしょうシリウス。部屋で休むといいわ。後で一緒にお茶をしましょう」
見かねた奥さんがマリアンヌを連れて部屋に戻り、玄関に俺とシリウス、メイド達が残された。
「............」
俺も部屋に帰ろうかな。こんな所で立ち話もするネタも無いし。
「じゃ、じゃあ、また後で......」
「ニベウス」
そそくさと部屋に戻ろうとすると、シリウスに呼び止められた。
なんぞ?
「とても似合ってるぞ」
似合ってるって......え、あ、もしかして、ドレスの事を言ってます?
てか、その事しかないよね。
俺の羞恥メーターが一気にふれきれた。
「......あ、あはは」
スルーしてくれたと思ったら、時間差攻撃でした。
ぎぇええええええええええええいっそころせぇえええええええええ!!!!!
その後、俺は部屋に戻って即効着替えたのであった。
暫くした後、茶会に呼ばれてベランダに出ると、奥さんとマリアンヌが席に着いていた。マリアンヌは俺がドレスから着替えてしまったのに少し機嫌を損ねてしまったが、久しぶりの兄との茶会を台無しにしたくなかったようで、直ぐに気を取り直していた。駄々をこねない辺り、まだ幼いけど立派な淑女だ。
「あまり手紙を寄越さないから、私もお父様も心配しているのですよ? ご学友とはどう過ごしているの? 食事はしっかりとってる?」
「忙しくて手紙を送る暇もなく、申し訳ありません。学院での生活はご心配なく。不都合なく過ごしています」
「そう......ならよかったわ......」
「お兄様のお友達はどんな方達なの? お聞きしたいわ!」
「みな俺には勿体ない方ばかりだよ。いつかマリアにも紹介できる日が来るといいな」
「ええ! とっても楽しみ!」
なんか......マリアンヌはともかくシリウスと奥さんに距離があるような?母親にきっちり敬語使って、奥さん何だか寂しそうだ。複雑な家庭環境なのかな?
まぁ、従兄弟の家庭事情はともかくとして。
......この世界って学校があるのか......!
いいなぁ、俺も本当なら高校生になって青春を謳歌していた筈なのに......。
高校生になったら絶対彼女作るって息巻いてたのが懐かしい......。
俺も学校、通いたいな。
「ニベウス」
「は、はい!」
「そう畏まらなくていい。従兄弟だろ?」
学園生活に思いを馳せていたら唐突に名前を呼ばれた。思わず身を固くすると、シリウスが朗らかに笑って緊張を解してくれる。これが年上って奴か。身内で上が居なかったから少し新鮮だな。
「妹から色々聞いた。良く親身になってくれているようで感謝する。兄として礼を言おう」
「い、いえいえ! それこそ気にしないで下さい。従兄弟なんですし」
「そうか、ありがとう」
そう言ってまた優しそうに笑うシリウスは本当に良いお兄さんだ。正に理想の兄像ってやつ?
こんな格好いい兄が居てマリアンヌは幸せだな。羨ましい。
ん? でも、さっきから俺達のやり取りを見ていた奥さんが信じられない物を見る目でこっちをガン見してるんだけど......? 何ぞや?
「あの......何か?」
「い、いえ......」
慌てて目をそらした奥さん。
ちょ、何やねん! 余計に気になるンゴ。




