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*スギナ視点*
「あっはははははははは!!!」
突然、今まで黙っていた憲兵が腹を抱えて笑い出した。
なんだこの人、気分悪そうにしてたり笑い出したり......変な人だ。
「ハハハハッ!! き、君面白いッスねーー! いやー真面目な顔で恥ずかしげもなくそんな台詞言えるだなんて......! 尊敬しますわ!」
「面白い?」
「そうそう! 普通なら言えないッスよー......。自分がその人にどれだけ惚れ込んでるだなんて、今時のろけ話でも聞けないのに。君は凄いッスね!」
惚れ込んでる......?
惚れるって、どういう意味だっけ?確か、異性同士の感情だったと思うけど......。でも、確かその人の心意気に惚れたとか、そんな話しも本で読んだ事あるな。
うん、俺はニベウスに惚れてる。
「うん、そうだな。ニベウスはこんな俺を必要としてくれた器のデカイいい奴だ。尊敬もするし、そんな人に選んで貰えたのは俺の支えにもなる。そんな人を守る為にも、俺は強くなりたいんだ」
情に訴えるつもりは無いけど、これが俺の心からの気持ちだ。
......でも、元軍人のおっさんからすると、特定の人だけを守りたいだなんて言ったらなおさら弟子にしてもらえなくなるのかな?軍人は国民と王族を守る為に存在してるからな。
おっさんの方を見てみると、おっさんは何とも言えないような視線で俺の事を上から下までじっくり観察していた。憲兵も、怪訝な表情で俺をみている。
「天然......素なんすかね......?」
「まだ情緒が成長してないだけよ。その歳でここまで純粋だなんてあっぱれね」
何の話しだ?
俺が首を傾げていると、おっさんは改まったように真剣な面差しで俺に向き合う。自然と、俺の背筋が伸びた。
「あなたの気持ちは分かったわ......でもね、さっきも言った通り彼はここには戻らないだろうし、ナグルから聞いたらあの子は貴族って話しじゃないの......後ろ楯の無いあなたが上流貴族の側使えになるのは難しいわよ?」
「構わない。どんな手を使ってでもニベウスの元に行く」
「......どうしてそこまで......って、愚問だったわね、今の質問は忘れて頂戴......」
名門の学校出でもなければ家柄も無い俺が貴族のニベウスに仕えるのが難しいのは分かっている。それでも、俺はニベウスから直々に警備隊に誘われているんだ。
十分な実力を身に付けてさえいれば、活路は拓ける。
「だからって、何も私に弟子入りする事無いじゃない。元は軍人とは言え、街を荒らすゴロツキになんて堕ちた人間よ? そんな人間に師事したとなれば、それこそ入隊が厳しくなるとは思わない?」
えっと......、それって......?
「軍に入隊する時、教会出は身元を調査されるんすよ。親が犯罪者だったら入隊出来ないッスからね〜......。で、過去から現在までの人間関係も全部調査されるから、もしアドロック教官の弟子になったら師匠である教官の遍歴も調べられる可能性もあるって事ッスよ」
言っている意味が分からず、俺が戸惑っていると横から憲兵が親切に説明をしてくれた。
そうか、犯罪歴のある血縁者を持っている人はたとえ捨て子でも入隊出来なくなってしまうのか。それは、師事した人にも当てはめる場合があるらしい。親のいない、俺のようなみなしごなら尚更、人格形成もその人によって作られる可能性が大きいからだろうか。
おっさんの弟子になったら、軍人になるどころかニベウスの警備隊になる機会を失ってしまうかもしれないって事だ。
でも、俺には士官学校に入る金も人を紹介して貰えるような人脈もない。
そんな俺の目の前に、元軍人で、士官学校の教官経験者がいる。
こんなチャンスは絶対にない。
これを逃したら、それこそ俺はニベウスと共に生きる道を失ってしまう。
「......フェルムが言ってたんだ......」
俺が初めてここに来た時。
冷たい秋風に吹かれて冷えきった身体を毛布にくるめて貰って、これからの自分の人生に絶望している俺に、フェルムが煙草を吸いながら言った言葉を思い出す。
そう、アンジュにも言っていた、あの言葉だ。
「お前は親無しだ。だからこそ、生きる為にどんな小さなチャンスも逃すな。泥臭くしがみつけ。貪欲に前だけ見ろ」
フェルムの話しをワードで思いだしながら一つ一つ噛み締めるように口に出す。
絶対に逃してはいけないチャンス。
このおっさんが、俺の人生の要になる。
「俺にとって、おっさんが最大のチャンスなんだ......! 今、ここで引いたら絶対に後悔する!! だから、頼む! 俺を弟子にしてくれ!!」
もう一度、深く頭を下げる。
「…………」
長い沈黙が続いた。
いや、そんなに長くは無かったのかもしれない。それでも、俺にはとてつもなく長く感じた。
緊張で心臓の音が煩く聞こえる。
膝の上にのせた拳から汗がじわりと垂れ、ズボンを湿らせた気がした。
「困った子......フェルムットさんの名前を出すなんて......無自覚なのかしら?」
「え......?」
「何でもないわよ」
おっさんは大きくため息をつくと、何やら考え込んでいるのか少しだけ顔をうつむかせて自分の手のひらを眺めた。
ゴツゴツとした、大きな手だ。
「私ったら......フェルムットさんに相応しい人間になりたくて、自分の為に自首をしようとしていたけど......罪を償うのは、自分の為ではなく、人に尽くして初めて償われるのよね......大切な事を忘れていたわ......」
おっさんが今までどんな事をしてきたのかは知らない。せいぜい、この村に来てからの事しか知らないけれど、俺はこのおっさんがそんなに酷い罪を犯してるとは思えなかった。
おっさんは、自分の手のひらからゆっくりと視線を外し、俺の顔を見詰める。
「牢屋に入るのは、あなたを立派な騎士にしてからでも遅くはなさそうね......」
……それって......もしかして......。
「いいわ、弟子にしてあげる。私の指導は厳しいわよ」
......やった、のか?
俺は......自分の道を切り開けたのか?
おっさんの顔を見返せば、確かに頷いてくれる。
やった、俺はやったんだ!!
「ありがとうおっさん! 俺頑張るよ!!」
「......先ずは言葉使いから教えなきゃいけないようね」
私が立派な紳士にしてあげる。と、おっさんがウインクした後、リディと憲兵の上司が礼拝堂に戻って来た。見張りをサボっていた若い憲兵が叱られたのは言うまでもない。
こうして、俺はニベウスの警備隊になる為の一歩を踏み出したのだった。




