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*スギナ視点*
俺は、何をしているんだ。
ニベウスの為に強くなるって、もう落ち込む暇も無いって決めたばかりじゃないか。
目の前で大切な人が拐われたのに、無気力になってる場合じゃないだろ!
「そのご様子だとご実家には帰られてないんすか? アドロック教官は長子っすよね?」
「私なんかより、弟がしっかり軍人としてやっていけてるから十分よ。実家からは縁を切られたも同然だし......これからは今までの罪を償うつもり」
「罪って、教官何かしたんすか?」
「えぇ......ちょっと、投げやりになっていたと言うか......」
身内話しをしているおっさんと憲兵は時間と状況を忘れてしんみりとしていた。この憲兵の人、本当に仕事する気ないんだな。
「......あのさ!」
「ん......?」
俺は思いきって、憲兵に声をかける事にした。
憲兵は俺に「まだ居たの?」と言いたそうな視線を送るが、構わず続ける。
「魔術憲兵が来たら、本当にニベウスを助けてくれるのか?」
「え? まぁ、あいつら優秀だから大丈夫じゃない? いつも何だかんだ言って事件解決してるし、今回も大丈夫っしょ」
え......?そんな適当な感じなのか?
少し不安になってきたぞ。
「ちょっとナグル! そんないい加減な説明があるの!? 仮にも憲兵でしょ!」
唖然としている俺の横で、おっさんが憲兵をしかりつけた。憲兵は反省してるようには見えないヘラついた顔で頭を掻いている。
「いやー、説明とか苦手なんすよねー」
「先ずはこの子を安心させてあげる言葉をかけるのが先決でしょ? いい加減な事を言って不安がらせては駄目じゃない」
本当は、今すぐにでもニベウスを探しに行きたい。助け出したい。
この間までの俺だったら、迷わずそうしようと動いただろう。でも、今の俺は自分にそれが出来る力が無い事を知っている。
むやみに行動しても、周りに迷惑をかけるだけで時間の無駄だ。それなら、大人の力を信じてニベウスが無事に救出されるのを祈るしかないんだ。
いや、やれる事はある。
ニベウスが戻って来る事を信じて、それまでに俺がしなくてはいけない事。
「おっさん」
「お、おっさん?」
俺は、強くなると決めた。
他の誰でもない。ニベウスの為に。
だから俺は、ニベウスが帰ってくるまで絶対に強くならなきゃいけないんだ。他の誰にも負けないくらい、ニベウスを守れるくらいに。
「俺を、弟子にしてくれ!!」
「え......?」
おっさんが目玉が飛び出そうな程大きく見開き口を開いて絶句した。対峙している憲兵が口元を押さえているけど、どうしたんだろう。気分でも悪いのか?
悪いけど、今は憲兵に構っていられない。俺は強くなる為の手段をどうしても手に入れなければならないんだ。
「おっさん、軍人の先生だったんだろ!? もしかして、ゴロツキ達にも訓練とかさせてたんじゃないのか?」
「いや、私は......そんな事は......」
明らかに目が泳いでいる。嘘だな。
「頼む! 俺、ニベウスを守るって約束したのに、弱いせいで何も出来なかったのが悔しいんだ......! 俺を強くしてくれ」
「嫌よ」
はっきりと断られた。おっさんはそっぽを向いて俺の話しを聞き入れる様子は無い。
「私は罪を償って生まれ変わると決めたの。あなたに付き合ってる暇はないわ。他を当たって頂戴」
「頼れる人なんて居ない......今すぐ強くなるには、おっさんの力が必要なんだ! 頼む!」
必死に頭を下げた頭上で、おっさんが大きくため息をついたのが聞こえた。
呆れを含んだ声色で、おっさんは俺に語りかける。
「あなたねぇ......強くなった所でどうするの? あの子を助けに飛び出す? それとも、あの子が帰ってくる頃までに立派な騎士にでもなろうとでも考えたのかしら」
ギクリと、俺の身体が強ばった。
確かに、ニベウスが戻って来るまでに何者からも守れるくらい強くなろうとは考えた。
おっさんに見透かされた俺は、下げた頭を上げる事も出来ずに固まる。
「それなら諦めなさい。あの子を守る役目なら、本当ならフェルムットさんが担うべき役目。それなのに、あの子を守りきれず拐われてしまったわ......助けられたとしても、きっとプリヒュ教会には戻っては来ないでしょうね......もっと、安全な場所に移されるはずよ......」
おっさんの言葉に、俺は衝撃を受けた。
戻って来ない? じゃあ、本当にニベウスとは、もう会えないのか?
「そんなに落ち込まないで......あの子はきっと助かるし、あるべき場所に帰るだけよ。あなたも、その気持ちを別の誰かに使う時がきっと来るわ」
別の、誰か。
ニベウスじゃなくて、別の人間が、この、熱く沸き上がる気持ちを与えてくれるのか?
これ程、誰かの為になりたいと思ったのは初めてなのに、もう、見ず知らずの人の為には頑張れない。
俺はもう、英雄を目指してもいないし、いずれ現れる誰かを待てる程気は長くない。
俺の全部が、ニベウスの物なんだ。
戻って来るとか、会えなくなるとか、関係ない。
俺が、誰の為に生きるかの話しだ。
「なら、会いに行く」
ニベウスは言ったんだ。
警備隊にならないか、って。
俺がいいんだ、って。
「どんなに遠くに行っても会いに行く。馬が無くても歩いて行く。歩けなくなっても這って行く」
それだけが、その事実だけが、俺に力をくれるんだから。
「次に会う時は、俺がニベウスを守る役目を必ず貰う」




