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「あのぉ、良かったら......何か手伝いましょうか?」
ザ・気が利く男作戦。
ベンチを吹いているリディに近づいてしゃがんだ俺は、彼女の手元を覗き込んで作業を確認した。
麻の布で乾拭きしている。
これなら俺でも出来そうだ。
「結構です。これは私の仕事ですので」
キッパリ断られたンゴ。
ベンチを拭きながら俺と徐々に距離を取ろうとするリディ。ちょ、悲しみ......。
「でも、お世話になるんで役にたちたいんですけど......」
めげずに食い下がると、リディは手を止め煩わしそうに俺を一瞥し、小さく溜め息を吐いた。
溜め息に、こいつ邪魔だなぁ......。と、リディの気持ちが籠っている。
き、傷つくわぁ......。
「それでしたら、フェルムット神官に昼食を届けてはくれませんか?」
思ってた以上にリディから嫌われているのにショックを受けていたら、お使いを頼まれた。
てっきりどっか行けこの野郎的な事を言われるかと思ってたのに......!
かしこまり!頼まれ事は喜んで承りましょう!!
「分かりました!神官にお昼ご飯を......」
......ん?そういやさっき朝飯食ったばかりだから、昼にはまだ早すぎじゃね?しかも届けるって......。
「あの、フェルムット神官は今どこに居るんですか?」
「今日はポールト夫妻宅の雨漏りを直しに行くとおっしゃっていたので、そちらにいらっしゃるかと。場所は子供達が知っていますから、一緒に届けに行って下さい」
出先にお昼を届ける。
つまりお弁当ですね?愛妻弁当ですか奥さん?
いや、脳内でも茶化すのはよそう。
リディは仕事の一環としてやっているのだろうし、せっかく彼女が与えてくれたお使いだ。真面目にこなして少しずつ信頼を獲得しよう。
「分かりました。お弁当はキッチンですか?」
「オベントウ?何ですかそれ?」
この世界では持ち運ぶ昼飯はお弁当とは呼ばないらしい。てか、そもそもお弁当って概念自体、日本が作ったってのを何処かで聞いた気がするな......。アニメだったのは確か。
「気にしないで下さい。ちょっと言ってみただけなんで」
「......そうですか。昼食はキッチンに置いてあります。緑色のハンカチで包んでいますので、そちらを持って行って下さい」
「了解です!」
張り切った返事をした俺はキッチンに向かい、作業台に置かれていた弁当を持って裏口に出た。
空き地では、スギナとボーンが飽きずに魔術訓練をしている。
よくやるなこいつら。
「フェルムット神官にお昼ご飯届けに行くけど、一緒に行くか?」
声をかけると、一斉に子供達の視線が集まった。
手を突き出したまま固まる二人に対し、お花を摘んでいたアンジュと本を読んでいたトニーは直ぐに反応する。
「行くーーー!」
「ぼ、僕も行く!」
摘んでいた花を手離したアンジュと本を閉じて腕にかかえたトニーは、遠足に出掛けるテンションで俺に駆け寄った。
訓練(笑)をしていたスギナは腕を組み、ふむと意味深げな表情で俺が持っている昼飯に視線を送った。
「リディに頼まれたのか?」
「うん」
「そうか......」
腕を組んだまま、俯いて思案し始めたスギナは、「よし!」と勢い良く顔を上げると、いつもの様に偉そうな態度で俺達を指差した。
「リディから直々に任務を託されたのなら仕方がない!ニベウス、アンジュ、トニーの三人は訓練を抜ける事を特別に許す!命に代えてでも任務を全うせよ!!」
特別にって、俺は途中で逃げ出したしトニーに至っては端っからヤル気無かっただろうが。
こいつ言いたい科白言ってるだけだろ。
とりあえず、軍人っぽい事をしたいんだろうな。
「しかし、プリヒュ教会専属の守護部隊が持ち場を離れる訳には行かない。いつ奴らが攻めて来るか分からないからな!俺とボーンはここに残るから、リディの任務は三人で果たして来い」
分かったな!!
胸を張って命令するスギナに、アンジュとトニーは「はーい!」と元気な返信をした。
奴らって誰だよ。また適当に言ってるだけなんだろうな。
「では、行ってまいります」
「うむ!気を付けて行けよ!」
口先だけノってやるとスギナは誇らしげな顔で見送った。
スギナって、見た目は金髪碧眼の王子顔の癖に発言のせいでただのイタイ厨二男子になってるよな。あれじゃモテないだろ。
道中、二人と手を繋いで歩いていた俺は、アンジュとトニーにスギナの事をどう思っているか聞いてみた。
二人とも穢れの無い笑顔で。
「面白いから大好き!」
「一緒にいると楽しいよ!」
と、答えた。
なつかれてはいるんだよなぁ、あいつ。
子供にとってはスギナの訓練とか軍隊ゴッコはお遊びで、それが遊び道具の少ない田舎に住むこの子達にとって、珍しい遊び方なのかも知れない。
考えてみれば、スギナ位の年で子供の相手をする奴は珍しいかもな。中身は厨二とはいえ、ちゃんと子供の面倒見てるみたいだし。
こうしてなつかれて居るのも、奴なりに子供達と真剣に向き合っているからこそなのかもな。
「ニベウスお兄ちゃんは?」
「ん?」
「ニベウスお兄ちゃんは、スギナお兄ちゃんの事、好き?」
んー......。
好きって聞かれると微妙だな......。
あのノリはどっちかっつーと苦手だし......。根はいい奴なのは分かるけど。
「嫌いじゃないよ」
「嫌いじゃないのと、好きなのは何が違うの?」
むぅ、説明が難しい質問だな。
嫌いでも好きでもない。
微妙なこの感覚って、言葉で説明するのは難しい。インスピレーションだからなぁ。
「好きになれるかもって意味だよ」
「そっかぁ!」
悩んでいる俺に、眼鏡のトニーが代わりに答えた。
アンジュは嬉しそうに飛びはね、俺と繋いでいる手を大きく振る。
洒落た回答を出したトニーに驚いて振り向くと、何も言わずに微笑み返された。
トニー......恐ろしい子......!
「着いたよー!あ、フェルムおじちゃーん」
トニーの意外性に戦慄していたら、目的地に着いたようだ。
木造の古い一軒家は納屋のようにも見える。
その屋根の上でフェルムット神官が作業をしていた。
「ん?何でお前らがここに......お......」
司祭服を脱ぎ、黒いタンクトップとよれよれのながズボンを掃いたフェルムットは、煙草をくわえながら金槌を降り下ろしている。
アンジュの呼び声に振り向いたフェルムットは、トンカチを屋根に置き煙草の煙を吹かした。
家の周りは畑に囲まれ、農作業をしていた二人の老夫婦もアンジュの声に反応した。腰を屈めた二人は家の前に到着した俺達の元に、のそのそとした動きで歩み寄る。腰が曲がっている老夫婦は、歩くのもしんどそうだ。
麦わら帽子を被った老夫婦は、俺を見たとたん目を見開いてあんぐりと口を開ける。
「んまーーー!フェルムットさん!あんたいつの間にこんな美人を嫁に貰ったんだい!?」
「お前さんにはリディさんがおったろうに......!いやはや、若いとはいいのぉ......」
こ こ で も か 。
今のところ初対面で俺を男って分かったのアンジュだけ何ですけど。つーか誰が誰の嫁だって?ふざけるのはよし子ちゃん。
「ソイツはウチで新しく預かってる訳ありの子だよ。つーか、リディは俺の嫁じゃねぇって何度も言ってんだろうがジジババ」
フェルムットの弁明を聞いてるのか聞いて無いのか、おじいさんとおばあさんは皺だらけの顔を俺に寄せほぉだのへぇだの感嘆の息を漏らしている。
そんなに珍しいですかね、この顔。
「あのね!ご飯届けに来たんだよ!」
二人の手を繋いでいたため、手が塞がっていた俺の代わりに弁当を持っていたアンジュが、緑色のハンカチに包まれた昼飯を掲げてフェルムットに見せようと背伸びをする。
「おー、そうか。ありがとうな」
そんなアンジュの姿にフェルムットは煙草をくわえたまま、優しく微笑んだ。
気だるそうな態度しか取らない人だと思ってたけど、あんな優しい表情も出来るんだな。
「飯の支度までさせといて、いつまで嫁に取らん気だ!いい加減リディさんもいい年だろに。可哀想じゃのぉ......」
「度量の無い男と居ると女は損をするもんですよ......。二言目には仕事だからと言い訳して......情けないねぇ......」
フェルムット、老夫婦にフルボッコにされる。
屋根の上で頭を抱えるフェルムットの肩を叩きたくなった。絶対怒られるだろうけど。
「あー、もうお前ら帰れ。ソイツは適当に置いとけばいいからよ」
「はーい」
返事はしたものの、何処に置けば......。
「そんな直ぐに追い返さんでも、折角来たんだから家で休んで行きなさい」
おばあさんが優しそうに笑って家の戸を開けるが、いきなり三人でお邪魔するのは失礼なんじゃないか?
長居するつもりも無いし......。
「いいんだよ婆さん。こいつら早く帰さねぇと、どっかの堅物女が変に心配すっから」
「そうかい?なら仕方ないねぇ......」
おばあさんは残念そうに肩を落とすと、開きかけた戸を閉めて家の裏に周って姿を消してしまった。
気を悪くしてしまっただろうか。
「飯はそこいらに置いてけ。なぁに、誰も取りゃせんさ」
おじいさんは戸の横に置かれている木箱を顎てしゃくり、畑に戻って行った。
言われた通り、弁当を木箱の上に置いて帰る事にする。
「それじゃあフェルムット神官。屋根の修理頑張って下さい」
「頑張って下さい!」
「バイバーイ!!」
手をひらひらと振って金槌を持ち直したフェルムットは、背を向けて作業に戻った。
眺めてても仕方ないし、二人の手を繋いで帰路につこうとした時、おばあさんが小袋サイズの麻布を持ってやって来た。何やら重そうに持っている。
「これ、持ってきなさい」
「え?」
二人の手を離して受けとると、ずっしりと重い。
中には大きなじゃがいもが詰まっていた。
「こ、こんなにたくさん......悪いですよ」
重いし......。持って帰るの大変......。
「フェルムットさんにはいつも世話になっとるから、ほんのお礼だよ......」
しわくちゃな顔を更にくしゃくしゃにして笑うおばあちゃん。善意で渡されたのを突き返すのは気が引ける。
俺にじゃなくて、フェルムットへの礼の品なら尚更だ。
フェルムットは作業に集中していてやり取りに気付いてない。微妙に距離も離れてるから会話も聞こえてないようだ。
「分かりました。責任をもって教会に持ち帰ります」
「おやまぁ、しっかりした子だねぇ」
このちょっとした事で褒められる体、田舎の親戚のおばあちゃんと話してるみたいだ。思わずほっこりする。
「それじゃあ、帰ります。芋、ありがとうございました」
「またいつでもおいで〜」
優しいおばあちゃん。
プライスレス。
手を振って見送ってくれるおばあちゃんに、俺達も手を振り返して教会に戻った。




