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Last Sovereign of Eldia ―六王戦記― 小説版  作者: seizo


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第5話 【ドルムント】鉄槌の親方

【王暦元年 秋/ドルムント連邦】

東の丘陵に連なる鉱山都市の国。十年前、ヴァルガ帝国から独立した。

 東の丘陵には、朝から晩まで槌の音が鳴りやまない。


 山肌に無数の坑道が口を開け、その麓に、煙突の林立する鉱山都市が連なっている。ドルムント連邦の都ドルム。大陸の鉄の半分はこの丘から掘り出され、この町の鍛冶場で打たれていると言われていた。


 その朝、第三坑道で落盤が起きた。


「三人だ! 奥に三人取り残されてる!」


 坑道の入り口に、煤だらけの鉱夫たちが群がっていた。崩れた岩の隙間から、かすかに助けを呼ぶ声が聞こえる。だが、下手に岩を動かせば、さらに天井が崩れかねない。


「どけどけ、道を開けろ!」


 人垣を割って、ひとりの大男が現れた。


 赤茶けた髪に、胸まで伸びた豊かな髭。分厚い肩に、使い込まれた戦槌を担いでいる。頭には、黒ずんだ鉄の冠。冠といっても、鉱夫たちが冗談半分に打って贈ったもので、ところどころへこんでいる。


「お、親方!」


「親方が来たぞ!」


 ドルムント連邦の長、バルク。人々は彼を「鉄槌公」と呼ぶが、本人がそう呼ばせたことは一度もない。町の誰もが、ただ「親方」と呼んでいた。


 バルクは崩れた岩の前にしゃがみ込み、指で岩肌を叩いて音を聞いた。それから、ひとつの大きな岩に手をかける。


「この岩が、上の重さを全部受けてやがる。こいつをずらさずに、横の小せぇのから抜いていけ。支柱を三本持ってこい!」


 鉱夫たちが一斉に動き出した。バルクは自ら岩の下に肩を入れ、支柱が立つまでの間、天井の重みをその背中で受け止めた。額に、太い血管が浮かぶ。


 半刻後。最後のひとりが、岩の隙間から引きずり出された。煤と血にまみれていたが、息はある。


 坑道の前に、歓声が上がった。


「ガハハ! 岩の下で昼寝たぁ、いい度胸だ!」


 バルクは助け出された若い鉱夫の頭を、大きな手でがしがしと撫で回した。若者は泣き笑いの顔で、何度も頭を下げていた。


 ◇


 十年前まで、この丘はヴァルガ帝国の領土だった。


 帝国は北の雪国だ。麦は育たず、冬は長い。そのかわりに、この丘から掘り出される鉄で武器を作り、南の国々と戦ってきた。


 戦が長引くほど、鉄はいくらあっても足りなくなる。帝国は鉱夫たちに、休む間もなく掘ることを命じた。支柱を立てる暇もない坑道で、毎月のように人が死んだ。


 当時、この丘の守りを任されていた帝国の将が、バルクだった。


 身寄りのない少年兵だった彼を拾い、将にまで取り立てたのは、皇帝グラムその人だった。バルクは皇帝を親父のように慕っていた。その戦い方も、兵の率い方も、すべてグラムから学んだのだ。


 だからこそ、許せなかった。


「鉄は大事だ。だが、鉄を掘る奴らの命は、それよりずっと大事だろうが!」


 バルクは帝国の徴発令を破り捨て、鉱夫たちとともに旗を揚げた。三年に及ぶ戦いの末、ドルムント連邦は独立を勝ち取った。


 王を名乗れと、皆が言った。バルクは笑って断った。


「王様なんて柄じゃねぇ。俺は親方でいい」


 連邦は、鉱山の町々がそれぞれ代表を出し合って治める国になった。バルクはその取りまとめ役にすぎない。少なくとも、本人はそう思っている。


 ◇


「親方、ちょっといいかい」


 昼過ぎ、鍛冶場の隅で戦槌の柄を削っていたバルクのもとに、兜をかぶった女がやってきた。


 短い金髪に、鋭い青い目。腰には使い込まれた鉄の剣。歩兵隊を率いるヘルガだ。もとは流れの傭兵で、五年前に連邦に雇われて以来、ずっとここにいる。


「カザンの連中が、またケルンの泉を狙ってるって噂だよ」


 バルクの手が、止まった。


 ケルンは、連邦の南にある城だ。城のそばに湧く泉は、乾いた丘陵で唯一、真夏でも涸れることのない水場だった。そしてその南には、カザン部族連合の砂漠が広がっている。


「……ジンの奴か」


「ああ。狼王ジン。部族をまとめて、ずいぶん勢いづいてるらしい」


 バルクは、削りかけの柄を作業台に置いた。


 その目が、壁に掛けられた一本の古い戦槌に向けられる。柄の部分に、深い矢傷が残っていた。


 五年前。ケルンの泉で、連邦とカザンの部族が水場を巡って小競り合いになった。その騒ぎの中で、ひ

とりの若い族長が命を落とした。


 ジンの兄、ハザン。


「親方?」


「……いや、何でもねぇ」


 バルクは首を振った。あの日のことは、誰にも話していない。話すつもりもなかった。


 ヘルガは、それ以上は聞かなかった。かわりに、鍛冶場の隅の酒樽から、勝手に二つの杯に酒を注いだ。


「昼間っから飲む気か」


「親方が昼間っから辛気くさい顔してるからさ」


 ヘルガは杯のひとつをバルクに押しつけ、自分も作業台の端に腰かけた。


「傭兵やってた頃、相棒に言われたんだ。『雇い主が黙りこんだら、ろくなことにならねぇ』ってね」


「相棒?」


「ヴォルフっていう、毛むくじゃらの熊みたいな男さ。十年、背中を預け合った。……五年前、南の戦場で別れて、それっきり」


 ヘルガは杯をあおった。


「死んだと思ってたら、最近、ネフェルの聖堂に拾われて歩兵をやってるって噂を聞いた。熊が神さまに祈ってるなんて、笑っちまうよ」


「ガハハ、そいつは見てみてぇな」


「だろ?」


 ヘルガはにやりと笑った。その笑顔が、どこか寂しそうだった。


「……この大陸じゃ、昨日の相棒が、明日の敵になる。親方も、何か抱えてるなら、早めに誰かに預けときな。重いもんは、ひとりで担ぐと腰をやるよ」


「傭兵上がりに腰の心配をされる筋合いはねぇぞ。俺は親方だ」


「はいはい」


 ヘルガは肩をすくめ、空になった杯を置いて出ていった。


 ひとり残されたバルクは、壁の古い戦槌をもう一度見上げた。柄に残る矢傷を、指でそっとなぞる。


「……重いもん、か」


 つぶやきは、鍛冶場の槌音にかき消された。


 ◇


 夕刻、連邦の将たちが鍛冶場の二階に集まった。


「ケルンの守りを倍にしましょう。トーマの弓兵隊を回せば、泉の周りの見張りは足ります」


 卓の上に地図を広げて、銀色の長い髪をした若い魔導師が言った。ユーリ。まだ二十歳そこそこだが、連邦一の知恵者として、バルクの右腕を務めている。


「泉を守れるのはありがたいけど……あんまり砂漠側に兵を寄せると、北が手薄になるよ」


 無精髭の弓兵の将、トーマが、穏やかな声で付け加えた。


「北にはヴァルガがいる。皇帝が今、南のアルセリアに軍を向けてるって話だ」


「親父が動いたか」


 バルクがつぶやくと、卓の端に座っていた禿頭の大男が、ぴくりと肩を震わせた。浅黒い肌に口髭をたくわえ、頬に刀傷のある騎兵の将、ゴーンだ。


「……親方。帝国軍の騎兵には、兄貴がいます」


「ザギか」


「はい。兄貴は、帝国に残ると言って……俺とは、それっきりです」


 ゴーンの兄ザギは、今もヴァルガ帝国の騎兵を率いている。連邦が独立したとき、兄弟は別の道を選んだのだ。


 バルクは、ゴーンの肩を拳で軽く小突いた。


「兄貴は兄貴の道を行った。お前はお前の道を行けばいい。……ただ、もし戦場で会ったら、遠慮はするなよ。向こうもしねぇはずだ」


「……はい」


 ゴーンは、短くうなずいた。


 バルクは立ち上がり、窓の外を見た。夕陽が丘陵を赤く照らし、無数の煙突から立ちのぼる煙が、空に長い筋を引いている。その下で、今日も鉱夫たちが槌を振るい、子どもたちが坂道を駆け回っている。


「北には親父、南にはジン。……ガハハ、どっちを向いても、骨のある奴ばかりだぜ」


 笑い声が、少しだけ硬かった。それに気づいたのは、ヘルガだけだったかもしれない。


 バルクは振り返り、壁に立てかけてあった戦槌を担いだ。


「泉も鉱山も、ここで暮らす奴らのもんだ。帝国にもカザンにも、誰にも渡さねぇ」


 鍛冶場の二階に、男たちの声が響いた。


「――野郎ども、ハンマーを担げ!」

本作は、ブラウザで遊べるシミュレーションゲーム『Last Sovereign of Eldia ―六王戦記―』の小説版です。

ゲームでは六つの国から好きな君主を選び、武将を率いて大陸統一を目指せます。

レイドたちと一緒に戦ってみたい方は、ぜひ遊んでみてください。


▼ゲームはこちら(PLiCy/無料・ブラウザですぐ遊べます)

https://plicy.net/GamePlay/239959

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