間章 悪女の心
濡羽のような艶のある黒髪が美しいと思った。
振るう剣捌きは正確で無駄がない。
無骨で多くを語る人では無かったけれど、心根の優しい人だった。
向けられた鋭い眼光さえも、あの赤い瞳さえも嫌いになれなかった。
思い出はあまりにも少なくて。
小さな小さな出来事を、大切に大切に宝箱に閉まった。
叶うはずの無い恋だと最初からわかっていたはずなのに。
「この恋は未だ終わっていないのよ。」
告白の返事、まだ聞いてないから。
「だから、まだずっとお慕いしているのよ。」
なんて、引き延ばして引き延ばして、
その恋を終わらせられずにいる。
この恋心に嘘はない。
「…なのにどうして?」
別の男の顔が浮かんだ。
彼とは何一つ似ていない。
少し癖のあるブロンドの髪に蒼い瞳。
口は悪い上に、その舌はよく回る。
私の好きな人を嫌いな人。
顔を合わせればいつも口論になってしまう人。
嫌いな、ハズなのに。
夕日に照らされた顔が忘れられない。
「どうして、私は同じだと思ったのかしら。」
全く似てない2人の顔が重なったのだ。
笑い方が同じだと思ったのだ。
どうして。
性格も、顔も、言葉遣いも、何もかも違うのに。
「おかしくなってしまったのかしら。」
同じだと思ってしまってから、
頭に浮かぶのは、彼のことばかり。
私が好きなのは、ヴィルなのに。
ざわざわとした心を落ち着かせるために
本のページを捲る。
いつだって心をときめかせた、全てを忘れるくらい没頭できるお気に入りの一冊なのに。
今日は1文字も頭に入ってこなかった。




