間章 王子の心
ああ、失敗した。
人生を賭けた趣味にすら身が入らない程動揺している。
最大限の後悔と共に
はあ、と何度目かもわからないため息をついた。
思い出すのは先刻のこと。
濡羽のような黒髪の感触が手から消えない。
あれは、衝動的だった。
触れてみたいと思ってしまった。
そんな欲望を自己満足にも叶えてしまった。
……あれ程にまで我慢していたというのに。
気が緩んでいる。
昔からずっと好きだったのだ。
彼女にとって、ウィル•アインツェルという存在はあまり好ましくはないだろうけど。
もうすこし、彼女の趣味に歩み寄れたらと思うけれど、どうしても自分はあいつのことを受け入れられない。
ヴィル•アインツェル。
己が嫌悪の象徴、その存在が忌わしい。
誇るべきところも、尊敬すべきところも何もないくせに時代に持ち上げられただけの空っぽの男。
あの男に在るのは残虐に命を踏み躙った歴史だけ。
そんな男なんかさっさと忘れてしまえと思うのに。
彼女はそんな男を好きだというのだ。
その男にそんな好意を向けるなんて勿体無いというのに。
……まぁでもだからって、じゃあ自分にしろみたいな事を言う資格もなく。
この国の第3王子ではあるが、
サボりたがりで、不真面目、不誠実。
そして、人には悪趣味と言われるようなプライベート。
……いや、うん釣り合わなすぎる。
往来での口論のせいで彼女の趣味は大衆にバレているとはいえ、家柄良し、あの容姿に成績、魔法の天才、社交界の花なのだ。
そんな彼女に懸想するには、
自分では釣り合いが取れていない。
それは理解しているのに。
「誰かに取られるのは嫌だ。」
そんな独占欲だけがある。
自分のモノにする勇気も覚悟もないくせに
愚かな話だ。




