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まずはお友達から始めましょう  作者: 蜜柑


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07 きっかけなんて些細なもの

「1日2日で進展するわけでもないのだから、

 たまにはお兄様の事手伝ってあげても良いのではなくて?」


 学園から追い出されてから恒例となったお茶会へ来る前にあった出来事を聞いたララはウォルに同情した。


「やだね、面倒くさい。

 大体、親父はバリバリ現役だぞ?勝手に仕事増やしてくるのも親父だ。本来なら王子である俺たちがその仕事を肩代わってやる義理はねーんだよ。

 それをウォル兄はお人よしだから断れねーで残業ばっかしてんだ。必要な分だけやってれば定時で終われるし、休日だって作れるのに馬鹿なんだよ。」


 そんなララのウォルへの同情をウィルは断固拒否した。

 

「国政に携わった事がないからわからないんですけれど、そういうものなんですの?」


 かつてティアだった頃も、国政は兄や父が全て行っていて、仕事といえば貴族の集まりや、大衆の前に出る事がほとんどで書類仕事等々はからきしやってこなかったため、詳しくは知らない。


「それなりに国が平和だからなぁ。

 祭事の前とか、決算時期とか、不測の事態が起きた時とかは、寝れずに奔走なんて事もあるけど常時忙しくする必要は本来ないよ。ウォル兄が泣きを見てるのは、親父がしょっちゅう思いつきで政策案を出すからだな。」

「……それは大変ですわね。」

「しかも親父は優秀なのがタチ悪くてな。

 ポンコツが碌でもない案を持ってきたなら、何かと理由を付けて知らんぷりできるが、思いつきのくせに、確実に国が良くなる案を出してきやがる。

 そして、その具体案もな。

 だからみんなやらざるを得なくなるんだよ。」

「でも、いくら良い改案でも、そんなに沢山仕事を持ち込めばウォル様もいつか潰れてそれこそ国が回らなくなるのでは?」


 そうララが問えばウィルは苦い顔をして言った。


「だから、親父は優秀なんだよ……本当に。

 限界量もきちんと理解した上でウォル兄に仕事を押し付けてるんだ。無茶させてるように見えてウォル兄がこなせる限界スレスレしか仕事を与えてないんだよ。

 それに俺やヴェル兄が逃げる事も織り込み済みだ。今は許されてるだけで、学生という身分が無くなった瞬間に大量の書類の山に埋められるのは目に見えてる。」

「す、凄い方なのね…。

 あれ、じゃあ、卒業したら貴方もきちんと働くって事ですか?仕事には興味ないのかと思っていましたが……。」

「まぁ、どうせ親父の手腕からは逃げられないし仕方ない、ってのは建前として王族としての責任はちゃんと果たすつもりでいるよ。」

「あら、意外ですわ。」

 

 ウォルは勿論、休暇はきっちり残業はしない主義のヴェルでさえ学生時代にも仕事は受け持っていたという。

 そんな2人に対してウィルが仕事をしているところは見たことがない。常々、またウォル兄が残業で大変そうだーなんて他人事のように言って、手伝おうともしないし、なんなら働きたくない主義だと公言していたことから、国政になんて興味がない放蕩息子とばかり思っていたので驚いた。


「俺は学生は学生、社会人は社会人ってきっちり分けて考えたいだけだよ。

 人生は長いんだ。学生の頃から仕事仕事ってそんなので青春を無駄にしたくないんだよ。」

「だったら、嘆願書なんて送ってないでもっとマシな青春贈るべきなのでは?」

「それは青春じゃなくて果たすべき義務だ。」

「そんな気色悪い義務聞いた事ありませんわ。」


 少なくとも私の辞書には載っていない。

  そのおかしな趣味こそ、青春を無駄にしているのではないかと思うのだが、本人的には違うらしい。正直、そんなことするくらいならば仕事をしていた方がよっぽど有意義で生産性があると思う。


「趣味にかまけられるのも今だけなんだから、ほっとけよ……。」

「確かに、よそのご家庭のことを他人がとやかく言うものではありませんね。」


 三男坊がティアにかまけてて国が傾きましたなんてことになれば他人事ではなくなるが、優秀な国王が現役な以上、特に問題はないだろう。


「なぁ、お前はこの国のことをどう思う?」


 なんて事を考えているとウィルが唐突にそんな事を聞いてきた。

 

「どう…とは?」

「俺たちはさ、お前らレオナール家から国を奪った。

 それに見合った国を築けていると思うか…?」


 いつも不真面目な態度のウィルがそんな事を真剣に問うものだから驚いた。

 

「それ、私に聞きます……?

 何百年も前のレオナール家が王族だった時の事なんて知りもしないのに何か言える事なんてありませんわよ。」

「ま、それもそうか。

 俺も元々あった土壌に立ってるだけだしなぁ。」

「そうね──」


 レオナール家が王位を持っていた頃、この国はもっと豊かだった。豊穣の加護があって、国を覆う結界は魔力に満ちていて強固なものだった。

 それと比べるのであれば、確かにこの国は貧しくなったのだろう。

 でも、この国は少数を見捨てない。

 誰かの犠牲で成り立っていない。

 一度誤った道を選んでしまったレオナール家が王のままであれば、玉を失ったこの国を存続させる事はできなかっただろうと思うのだ。


「でも、私この国が好きですわ。

 それはアインツェル家が王として全うしてきたからではありませんか?」


 それがララとしての答えだった。

 全ての歴史を辿ってきたわけではないから、アインツェル家がどれほどの努力をしてきたのか、それを窺い知る事はできないけれど。

 それでも、ララはこの国を素敵だと思う。

 この国に生きて、そう思う。


「……私、ティアの事なんて何もわかりませんけれど。彼女がこの国をみたら死ぬほど悔しいんじゃないかしら?」

「はぁ?」

「だって、彼女は国を滅ぼそうとしたのよ?」


 にこりとララは笑ってそう言った。

  実際、こんな国ならば滅んでも良いと思って珠玉を壊したのだ。なのに国は滅ぶどころか、数百年経った今も平和なまま。

 “悪女ティア”ならばきっと、平和なアフロディ王国を見たら悔しくて悔しくて堪らないだろう。

 

「…………それは。」

「私、アフロディ王国は残らないと思っていたのよ。」


 ぽつりと、あの時思った本音をこぼす。

 

「どういうことだ?」

「歴史の話よ。

 アフロディ王国は内陸国で近隣諸国の中継地点に位置する国でしょう?だから狙われる事も多い国だった。

 その脅威から守っていたのは世界に未曾有の飢饉が迫っても止まない豊穣の加護と強固な結界による恩恵が大きかった。他国との外交に問題があっても、自国で資源を賄える程の豊穣があったわ。

 だけど、ティアはその2つに打撃を与えた。」


 あの玉がどういう影響を及ぼしているかなんて、当時の自分は知らなかったけれど。


「幸い、結界はすぐに修復されたらしいけれど、絶望的な状況だったはずだわ。結界の揺らぎは他国に筒抜けだもの。他国からすれば攻める絶好の機会だわ。それが数百年経った今でも豊かに平和に存続してるのよ?凄い事だわ。」

「最近は、戦だ何だのをする時代じゃ無くなったのもあるけどな。騎士団なんてのも名ばかりで国防というより、警察みたいなモンだからなぁ。」

「それは、良い事でしょう?

 血生臭い事なんて起こらない方がいいに決まってるもの。」

「まぁ、そうだな。」

「それに、国を転覆させようとした元王家すら

 存続してるなんてすごいことよ?

 私、虐めも迫害も一度だって受けた事ないわ。

 悪の王家レオナールなのにね。」


 この時代に生を受けて初めに驚いたのはそこだった。

 レオナールという名が未だに残っていた。

 そして、その名に対する差別も遺恨も感じずに生きることが出来ている。


「だから、私幸せですわよ。

 この国に生まれて、ララ・レオナールとして生まれて良かったと心から思っています。

 それは、貴方たちアインツェル家の功績では無いのですか?」

「……さぁな、知らねーよ。

 レオナール家は当初下流貴族に落とされて、それでも名を残し、今は上流貴族だ。

 それはアインツェル家の功績じゃなくて、レオナール家自身の努力なんじゃねーのか?」

「あら、普通ならば努力する土壌すら奪われるものよ。かつての王家なんて不穏分子残したくないじゃない。努力する事のできる足場を残してくれたのは貴方達じゃなくて?」

「ふぅん、そういうモンか。

 俺たちの祖先は頑張ったんだなぁ。」

「そうね、私たちの祖先は頑張ったのよ。」


 なんだか変なことで熱くなったとふふっと笑みが溢れた。

 それを見たウィルの手が頭に触れた。


「ま、今幸せなら良かったよ。」


 ふっと彼が笑った。

 それは、今まで見た彼の中で1番穏やかな笑顔だった。

 どこまでが本気かわからない彼の中の、本心に触れたような。

 夕日が2人を真っ赤に染める。

 気付けば今日が終わる時間だ。

 いつものように、お別れをして。

 彼がその場を去って暫くして。

 頭を撫でられたことに気付く。

 どうしてか、あり得ないほどに

 心臓が跳ねている。


 ────おかしい、どうして。

 

 彼はどこをとっても彼とは似ていないのに。

 なのにどうしてか、その不器用な笑い方は似ていると思ったのだ。

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