05 誰だって勝てないものはいる
そんなこんなで仲良くなるまで学園への出入りを禁止されて早くも1ヶ月が経過していた。
「本当に入れませんわね……。」
「まさか、嘘発見器まで導入してくるとはな……。」
雷魔法によって黒焦げになった2人は唸る。
驚異の達成率によって早々にお使い課題をクリアした2人はあの手この手で学園に入ろうとした。
が、全て弾かれた。
まず学園全体を覆う2人の登校を阻むための結界がいつの間にか張られており、不法侵入することが出来なくなった。
しかもこの結界、本当に誰がどう張ったのかは分からないが、それなりに魔法に自信のあるララでさえ、解除が出来ない複雑な作りになっていた。
ならばと仲良くなった演技で乗り切ろうとすれば嘘発見器の登場だ。
「教師を騙そうとするなんて最低です!」
嘘発見器は彼らの一挙手一投足、言葉の全てに反応し、けたたましい爆音を奏でたと思えば、先生の嘘泣きと共に、2人の脳天に落雷が落ちた。
「というか、あの先生怖いモノ無しですか……?
仮にも貴方王族ですわよね。」
並大抵の人間ならば大怪我どころの騒ぎじゃ済まなそうな威力の雷がものの見事に2人の脳天に直撃したのだ。そのあまりにも恐れ知らずな一撃に自分たちの身分をうっかり疑いたくなってしまった。
隣にいる男は、ララの認識違いがなければこの国で1番偉い家系だったはずなのだが。
「一応、俺もそう認識してるんだがなぁ。
もしかしたら違うのかもしれないな。」
「相変わらずでなによりだよ。」
しみじみと呟いたウィルを見て、ララの前にひょっこりと現れたルナが呆れたように言った。
「あら、ルナ!久しぶりですわね。」
「おい、イーグレット。なんとか先生の事説得できないのか?」
「無理無理、救学の英雄を止められる勇者なんてこの学園に居るわけないでしょ。」
王族で無理なら止めれるものなどいないだろう。
だって彼はこの国で1番偉い家系なのだから。
ということで、一縷の望みはバッサリと切り捨てられた。
「大体さぁ、仲良くなるだけでいいんだから簡単じゃん。なんで1ヶ月ももだもだしてるのさ?」
「馬鹿だなぁイーグレット。
十年のお付き合いでコレなんだから、たった数ヶ月で仲良くなんて無理に決まってるだろ?」
「ええ、その通り。不可能なものを求めたところで無意味なんだから、諦めて先生も閉じた門を開くべきですわ。」
なにやってんだかと呆れるルナの言葉に、
ララとウィルは当然のように不可能だと言い切った。
「そっかぁ。じゃ、次会う時は卒業式だね。」
「「あ、待って冗談!冗談だから!!!
頼むから行かないで!!!!」」
そんな2人の言葉を聞いたルナは、なんの未練も同情も、そして2人を振り返ることもなく、学園へと消えていった。そんな背中に2人の叫びが虚しくこだまするが、当然何かが返ってくることはない。
「あの2人、私からすると似たもの同士なんですけどねぇ。」
「たぶん同族嫌悪ってやつですよー。」
その様子を学園の中から見ていたようで、ルナに先生がため息をつきながら言った。
「でも、放置してたら本当に卒業まで学園に入れませんよアレ。」
どうするんですー?とルナが声をかける。
「さて、どうしましょうかねぇ。
好感度上昇の魔法でも使ってくっつけるとかどうです?お互い良い人もいないみたいですし、手っ取り早いですよ?」
「それ、ごりごりに犯罪じゃないですか。」
当然のことながら、相手の自由意志を損なうような魔法を故意に使用することは重罪である。
「バレなきゃ、犯罪は成立しないですよ?
それにトップがYESと言えばそれは合法です。」
「教職がそんなこといっていいんです……?」
にこりと笑う先生に思わずそんな疑問がルナの口から漏れ出た。
「やだなぁ、冗談ですよ!
生徒を教え導く立場でそんな事しませんよ!」
「そっかぁ……。」
なんかこの人、法の縛りが無くなればやりそうなんだよなぁと思わなくもない。あまりにも2人がどうしようもなかったら、本当に王から許可を取ってきそうで怖い。
ルナと先生がそんな会話を交わしている頃、当の本人たちはとあるカフェで作戦会議をしていた。
「俺たちはさ、お互いを知らないと思うんだよ。」
「と、いいますと?」
「顔を合わせればお互いの好きな人の事ばかりだっただろう?つまり、俺たちは推しの話を語るばかりで、お互いの事は殆ど知らないわけだ。」
「つまり、今日はお互いのことを知って距離を縮めようと?」
「そう言うことだ!」
名案だろ?とでもいうようにドヤ顔をキメるウィルだが、それってとても初歩的な話なのでは……?とララは思った。まぁ、そんな初歩の初歩を今までやってこなかったわけなのだが。
「他にやることもないし構いませんけれど、それで仲良くなれたら苦労はしませんわね……。
で、何をお話します?」
「そうだなぁ、普段休日は何をやってるとかか?」
特に拒否する理由もないため構わないと思い、トークテーマをどうするか問えば、ウィルは無難なテーマを答えた。
「そんなのヴィルの物語が増えてないか図書館にいくでしょう?劇の公演があればそれを見にいきますし、新しい絵画があれば、収集のためにダンジョンへ潜って小銭稼ぎですわ。」
趣味と言われれば、当然コレだ。
なんなら学業以外の時間、ほぼほぼをヴィルに費やしていると言っても多分過言ではないだろう。
「お前、ヴィルのことしか頭にないのか…。」
「うるさいですわね!人の趣味にケチつけるなんて無粋ですわ!そもそも、そういう貴方はどうなんですの?」
若干引き気味のウィルの態度に腹が立つ。
ちょっと重いのは認めるが、誰に迷惑をかけているわけでもないのだから、いいじゃないか。
「俺か?俺は、ティア様について書かれている書籍や、公演をチェックするだろ。んで、描写が足りてない作品に対しては必要部分を明記するよう嘆願書を書いて、修正が入るまで送り続けてるな。」
「いや、王権使って物語の改ざんって貴方……。
流石にそれは…………。」
じゃあお前はどうなんだ?の問いに帰ってきた答えは人のことをとやかく言えるようなものではなかった。
「失礼な、流石に匿名でやってるよ!
俺は熱心な一般愛読者アルフレッドだ!」
「いやいや、王命でもないのに物語に修正入るまで嘆願書送るのも充分化け物ですわよ…。
そもそも、作者の方の表現の自由ってものがあるでしょう。」
「何を言うか。ティア様の事は俺が1番わかっているんだから仕方ない。」
「それが気色悪いんですの!
そもそもティアの事を1番わかっているのはティア本人でしょう!!!」
本人的には、なんだか恥ずかしいのでとてもやめてほしい行いだ。
ここ数年、救国の騎士関連の物語に修正がちょこちょこと入っていたのだが、真実がコレとは……。
いたたまれないし、深淵の扉を開けてしまったような気がして正直聞かなければ良かったなぁと思う。
ウィルの行動を見ていると、なんだか重いと思っていた自分の推し方が可愛らしく思えてくるから不思議だ。
「……仕方ないだろ。ティア様は悪女って事になってるんだ。美化されたヴィルと違って、嫌な書かれ方をされる事も多いし。多少は我慢できるけど、悪意を持って書かれた内容にはどうしても納得できない時があるんだよ…。」
「うっ…………。」
そう言われると、悪意で語られたヴィルの事を思い出してしまい押し黙ってしまう。
実際、それで国を壊そうと実行した身だ。ウィルのことを咎めるのは何か違うような気がしてきた。
勢いで国崩しをやったティアに比べたら、偽名で嘆願書を送りつけるくらい、可愛い方なのかもしれない……?
「まぁ、今のところはアルフレッドで何とかなってるけど、もし言うこと聞かない奴が出てきたらウィルの名を使わざるを得ないかもしれないけどな。」
前言撤回。
「貴方の名前にも傷がつくでしょう、それは流石にやめなさい……。」
「……別に良いけどな、俺の名前なんていくら汚れても。それで好きな人の名が回復するなら本望だろ。」
「ぐっ…、それは、まぁ、間違ってないわね…。」
悲しいかな。否定したかったが、ララ自身もそれなりに過激派思想の持ち主だ。
彼の行いが一線を超えていることは分かるのに、それを完璧には否定できない自分がいた。
「だろう?だから、これは正統な暴力だ。」
「暴力ってのは理解してるのね。」
これは、思ったよりタチが悪いかもしれない。
「そもそも、彼女のどこにそこまでの魅力を感じたのよ。どの物語でも悪女って事しか書かれていないと思うけど?」
「だから、だろ。
俺から言わせればヴィルの方がおかしい。
あいつは何もしてない、悪戯に剣を振って人死を出した。何も成さずに死んだくせに後の世が追い風になって救世主だなんだ言われてるだけのハリボテの英雄だ。
その点、ティア様は違う。後に悪女と言われても事を成した。俺だけはこの功績を知っている。」
「功績を知っているって…何を見たのよ……。
それに、彼女が成したのは悪逆でしょう。」
「まぁ、確かにこの目で見たわけではないが、そこは歴史的事実から照合して導き出す想像力の力だな!彼女はそうせざるを得なかったんだよ。」
「人はそれを妄想と呼ぶのよ。」
彼とララの愛読書は類似しているのだが、
本当に同じ本を読んでいるのか疑問に思えてくるほどに解釈に乖離を感じる。
……馬鹿みたい。
ティアの行いは、結局自己都合の産物だ。
ヴィルの為にとかそんな綺麗なものじゃ無い。
だからやっぱりその行為は責められる事はあっても褒められる謂れは無い。
だけど、
「私は彼女の行いが功績だとは思わないし、やっぱりティアは正真正銘の悪女だと思っているけれど。
そんな彼女にも1人くらい味方がいたっていいのかも知れないわね。」
己が我儘で国を傾けたのだから、そこにどんな意味があろうともティアの行いはやっぱり悪で、肯定されるべきではないと思うけれど。
それでも、誰か1人くらいは彼女のことを肯定してくれる人が居るのは救いなのかもしれない。
どんな悪人であろうとも愛されてはいけないなんてルールは無いのもね、なんてちょっと思えた。
「当たり前だろ?俺はティア様を愛しているからな!たとえ彼女がどんな悪人だったとしても、この想いは変わらない。
だからこそ、騎士でありながら、守るべき主君に対して安直な復讐で剣を向けたヴィルが嫌いなんだよ。……心の底からな。」
そう、彼は言った。
騎士の在り方というのはそういうものだ。
一度主君と定めたならば、その人物がどれほどの悪であろうとも裏切る事は許されない。
その剣を主にむけてはならないのだ。
最後まで主君の剣となり盾となることが、
騎士としての正しい在り方だ。
……でも、だからこそ
「あら、そうかしら?私からすれば、彼の忠義を裏切ったのはティアでしょ?己が騎士にその在り方を否定させたのはとても罪深いことよ。
だからね、私はティアという悪女が嫌いなの。
あなたと同じく、心の底からね。」
騎士としての誇りを捨てさせたのは、主君の責任だ。
そうさせてしまったことが何よりも罪深い。
「……ふぅんそっか。
やっぱり俺たちは相容れないな。」
「ええ、やっぱり仲良くなんて出来ませんわ。」
そう言ってララはお茶を口に含む。
このままいけば、今回もまたいつもの流れで口論が始まるだろう。
お互いに、互いの推しを否定しあったのだ。
しかもいつものような小競り合いではなくて、本気の嫌悪を含ませた会話だった。
一波乱があってもおかしくはないだろう。
……なのにどうしてだろうか?
この日の会話は、いつもと同じようなものでいつもと変わらないものだったはずなのに、どこかお互いの間に流れる空気が穏やかだったのだから、不思議だ。




