04 無理難題は暴力を以て為す
そんなこんなで2人は今、ダンジョンにいる。
「仲良くなるまで帰ってこなくていいってどんな課外授業だ。」
「知りませんけど。」
救学の英雄により、成績優良問題児の2人は無期限の課外授業を命じられていた。
内容は、今より仲良くなる事。
ついでにリストに上げた品物をどんな手段でもいいので入手し、学園に持ち帰るようにも言われている。普通に集めようとすると1ヶ月はかかるだろう課題だった。まぁ要するに、程の良い厄介払いをされていた。
これは市井に出て交渉や競り等で手に入れてこいという商業に関する課題であったのだが、なぜこんなところにいるのかというと、剣の天才であるウィルと魔法の天才であるララの2人からすれば、一々交渉だの、流通を調べるだの手間と時間がかかって面倒な事をするよりも
「「自分で取りにいった方が早い。」」
という結論に至ったからだ。
ダンジョンとは、魔力濃度の濃いエリアのことを指す。
基本的に空中の魔力濃度は一定だが、たまに異様に濃い場所があったりする。
魔力の源泉が存在しているとか、魔王が潜んでいるとか、様々な説があるが、原因はまだ解明されていない。
そういった魔力の濃いエリアには、魔力が結晶化した魔石であったり、魔力から生まれる魔物と呼ばれる生物や、魔力濃度の差で変異した動植物等、さまざまな未知が存在している。
一般人がうっかり迷い込めば、人死も出かねないのでそういった場所は、国が管理する区域となっている。
正式名称は”国家指定立入制限地区高濃度魔力域”だが、冒険者や商人、研究者などが、一攫千金だったり修行や未知の研究等々、様々な思惑を持って踏み入れるロマンスポットとなっている為、ファンタジーに感化されたもの達がダンジョンと呼びはじめ、その呼称が一般化した。
入るためには何らかのライセンスが必要だが、結構緩いので学生でも貴族でも普通に取ることができる。
ただし、研究者ライセンスであれば、護衛を1人連れる等の制約があったり、取得ライセンスによっては持ち込めるものが違ったり、魔力濃度の濃さによっては入れなかったりと制約も変わる。
勿論、生態系破壊の観点から狩猟制限や入場制限等も存在するので、それなりに自由ではあるが、法律厳守がモットーだ。
「ダンジョンは浪漫スポットなんていうけれど、
その分規則も多くて、うっかり破って罰金なんてのもザラでしょう?そのくせ命を落としても自己責任っていう一筆は書かされるのだから、博打スポットの方がよっぽど正しい呼称なのでは?」
「じゃあ、今日からここはダンジョンじゃ無くてカジノだな。規則でがんじがらめなとこも似てるしな。」
「あら、カジノって行ったことないのだけれど今はそんなに厳しいんですの?」
「最近国営化したみたいでね、大変らしいぞ。規則規則で雁字搦めなんだとか。何でも国が管理すれば良いってもんじゃないと思うけど、親父がそういうのやりたがるんだよなぁ。兄貴が嘆いてたよ、仕事ばかりで嫁といちゃつけやしないって。」
ちなみに第一王子であるウォルは、去年式を上げたばかりの新婚だ。国を挙げて盛大に式をしたからよく覚えている。
「それはまぁ、御愁傷様な事で。
どこぞの三男坊が故人の追っかけをやめてお仕事のお手伝いでもして差し上げたらよろしいのでは?」
「学生の本文は勉強だからな。
バイトで成績下げてりゃそれこそ兄不幸だ。」
「貴方の場合、永久就職ではございませんの?
それこそ試用期間みたいなものでしょう。」
「冗談じゃねぇ。何が悲しくて華の青春に仕事なんか持ち込まなきゃいけねーんだよ。」
「……貴方の愛すべき御兄弟はやっていたようにおもいますけど?」
「そこはそれ、俺は俺。」
………………しばしの沈黙。
ララは呆れたようにウィルを見た。
この男の授業態度は下の下だし、青春だって8割はティアの追っかけに消費されている。
面倒だから嫌だ、が多分真実だ。
「貴方と話してると頭が痛くなりますわね…。」
とはいえ、仲良くなるためには彼との交流は必須だ。
ヴィルとティアの話をすればどうせ喧嘩になるのだから禁止という事で交流を深めていたのだが、
今のところ上手くいっている気がしない。
……根本的な相性が絶望的に悪いのだろうか?
「困りましたわね、私達仲良くなんてなれるんですの……?」
「今のところ、無理そうだな。」
はぁ、とため息をつく。
着々と収集すべきものは集まっているが、肝心の問題が解決されないのでは意味がない。
「そもそも貴方、王子のくせに口悪くないです?
兄君のウォル様やヴェル様は普通でしたわよね。」
「…うるせぇな。こういう性分なんだよ。
王族とか、そーいうの性にあわねーんだ。」
「生まれた時から王族のサラブレッドが何言ってるんですか。」
「……まぁそうなんだけどなぁ、これが難しいんだから仕方ない。でもまぁ、言葉に気をつけてた時もあったんだぜ?」
「そうなんですの?」
「憧れの人がお姫様だからな。
高嶺の花だったから、少しでも近付きたくて綺麗な言葉とか所作を目指してたんだよ。」
「……へぇ、それはそれは。」
憧れのお姫様なんて、どうせティアのことだ。
どこまでもブレないウィルにちょっと感心してしまう。
憧れの故人のためにそこまでするとは……。
「でもやってみるとな、性分を隠すのに必死で全然喋れなくなって、仏頂面で寡黙なヤツになった。」
「へぇ、私と会った時は今の通りでしたよね?」
彼との出会いは7歳の頃、仕事の都合で父と共に王城へ赴いた時だ。交流が本格的に増えたのは、図書館で鉢合わせてからのことなのでこの時はそこまで話すこともなかったが、当時から普通に口は悪かったように思う。
「……まぁ、無理なもんは無理だと諦めるのも早かったというだけだ。」
「そうなんですの?きちんとした場所では口調も所作も完璧ですわよね?出来そうなものですけど。」
「そりゃお前、常日頃皆んなが理想とするお人形さんでいたら心が腐るだろ。」
「随分な言い草ですわね。」
よくもまぁ、生まれも育ちもロイヤルファミリーでここまで口が悪くなるものだと逆に感心してしまう。
「……貴方本当に、王族ですの?」
「流石に失礼だぞ……?」
「え、えぇ、そうですわよね。
ごめんなさい。」
ぽろりとこぼれた疑問だったが、流石に失礼だったとすぐに謝罪する。
「そもそも言葉遣いって遺伝じゃありませんものね。環境によって構築されるものというか…。
だから不思議なんですけれど。」
「俺からすると、そういう性質としか言いようがないんだがな…。強いていうなら、俺は魔法より剣の方が適正があったんだよ。それで小さい頃から騎士団の訓練に混ざってたんだが、その影響はあるんじゃないか?」
「騎士団に混ざってたからといって……って、まさか貴方、金獅子の方に混ざってましたの……!?」
ウィルはまぁなと頷きララの言葉を肯定した。
国営の騎士団は大きく分けて2つある。
王国騎士団「銀翼」と「金獅子」。
どちらも王国が管理する騎士団に違いはないが、銀翼に入隊するには爵位を持っている必要があり、逆に金獅子は一般市民でも入団が可能となっている。
銀翼の仕事は主に王族や貴族の護衛であり、特権階級の社交の場に出ることもあるため、ある程度の作法を身につけた身分が確かな人間でなければならないため、入隊には爵位持ちの家出身であることが必須条件になっているのだ。
それに対して金獅子は軍用試験や訓練をクリアし、資格ありと判断されれば、身分の制限なく入団することが可能なため、腕っぷしに自信のある荒くれ者も多い。
身分と実力で上下が決まる銀翼に対して、金獅子は力こそ全て。1番強いやつが1番偉いのが金獅子なのだ。
「貴方、それよくお父様が許可しましたわね。」
要するにあまりにも魔境。
ちょっと頭はおかしいが、一応王子なのだ。
流石の国王もそんなところに我が子を放り込むとはどうしても思えない。
「そんなの、勝手に行ってたに決まってる。
許可なんて出るわけがないだろ?」
「貴方、馬鹿なんですの……?」
「仕方ないだろ?
銀翼はちょっとお堅すぎるんだ」
初めは父親が推薦した通り銀翼の訓練に混ざっていたらしいのだが、礼儀に作法、隊列等々、剣技以外の訓練も多い上に、やれ姿勢がなってないだの、やれ剣の抜き方が綺麗じゃないだの、ウィルが何かするたびに逐一指導が入るのが死ぬほど嫌だったそうで3日で逃げ出したのだとか。
「そして、逃げ出す度に金獅子のネル団長にばったりと遭遇するわけだ。それを繰り返してるうちに金獅子に入り浸るようになってたんだなぁ。」
「へぇ、そんな偶然もあるものなんですわね。銀翼と金獅子の仕事内容って結構違いましたわよね。」
これはもう運命的な出会いだったのだろうかと関心していると、ウィルが微妙そうな顔で歯切れの悪い返答をした。
「いや、あれは偶然というか…。」
「何かあるんですの?」
「いや、なんでもない。
まぁ運命だったんだろうよ。」
「……そうはぐらかされると気になりますわね。」
ついうっかり口を滑らせたのだろうが、はぐらかされるとこちらも気になると言うものだ。
少々問い詰めてみるとウィルは渋々口を開いた。
「初めに言っておくが、ネル団長はまともな人なんだ。実力は確かだし、性格もできた人でな、あの荒くれ者たちをまとめ上げるカリスマ性もある。」
「え、えぇ、存じ上げておりますわ。」
王国騎士団金獅子のネル・ラパンといえば、伯爵家の出でありながら銀翼ではなく、金獅子を選んだ実力主義の騎士として有名だ。
銀翼の騎士団長ソルは凡人が近寄ってはならないような高潔さを感じるのに対して、ネル団長は快活で気さくな人という印象がある。
「あの人は本当に本当に尊敬すべき人ではあるんだ。ただ、まぁ、それはそれとして、ソル団長のストーカーをやっているというだけでな…。」
「え、は?ストーカー?」
思わず思考と手が止まる。
「おい、前来てる来てる!」
ララが撃ち逃し、目の前に飛んできた魔物を慌ててウィルが叩き切った。
「不覚ですわ……。」
「いや、動揺する気持ちも分かる。
言い方が悪かったな。」
難しくないとはいえ、今はあくまでもダンジョン攻略中でしっかりと戦闘中。
油断は禁物だったのに不覚をとった。
「ネルさんはな、ソル団長のファンボーイなんだ。…………ちょっと過激めで面倒臭い感じの。」
「……それは本当にちょっとですの?」
「まぁ、うん、多分、な…。」
「死ぬほど歯切れが悪いですわね……。」
要約すると、一目惚れをしたそうなのだ。
齢14歳にして騎士団長に上り詰めたソル団長は、最年少騎士団長という輝かしい功績を持つ。
その高貴なる振る舞いと美貌に、初めて見た騎士としてのソル団長に、尊敬を超えて崇拝の域に達してしまったネル団長は、それ以降追っかけをしているのだとか。
推しと交流をとる事は恐れ多すぎる上に、不純すぎる気持ちを持ちながら彼の部下になる事も憚られたため金獅子に入隊し、暇があれば銀翼を覗きに行っている……という事らしい。
「あの人はな、団長になると緊急時以外の地方勤務が無くなるから団長になったんだ。書類仕事なら王城内の何処にいてもできるだろ?」
「もしかして、よく執務室から脱走しているって話は……。」
「察しがいいな。ソル団長の仕事を見に行ってるんだよ。」
「……なるほど、それで。
王族の貴方が訓練に交じるってなったらソル団長も当然出てきますわね。」
「そして、そのソル団長に釣られてのこのこ現れたのがネル団長というわけだ。」
「正直、知りたくなかったですわね……。」
自ら首を突っ込んだとはいえみんなの憧れ我が国の太陽ともいわれた男のイメージがガラガラと崩れ去っていくのを感じる。
「一応擁護しておくが、あの人は見ているだけのヲタクでな。推しに理想を押し付けるタイプでもないし、危害を加えることも絶対にないからな。」
「……それは擁護になるのかしらね。」
一線を超えていたら、それはアウトどころの話ではなく普通に犯罪だ。
いや、今もグレーラインではあるのだが…。
相手に認知されないようにこっそり眺めているだけなら、犯罪になることはない……か?
「確かに褒められた行動ではないでしょうね。
でも正直、私も推しを前にしたなら同じことをしそうでソル団長の行動を責められないというか…。」
ヴィルとは護衛と護衛対象という関係だったから、日中はいつも近くに居たこともあって、そういった行為は考えたこともなかったが、そういう立場でなかったらどうだろうか。
…………うん、追っかけをやっている自信しかない。
「そうなんだよなぁ。
正直、同じ推しを持つ身としてはその行動が理解できてしまうからこそ、責められない。
責められないんだ……よなぁ…………。」
女性を男性がストーカーしているのであれば、だいぶ危険な香りがするが、相手は我が国イチの騎士であり同性同士でもある。
被害者からすればたまったものではないだろうが、本人に気付かれないようにこっそり見ている分には許してあげてほしい、と思わなくもない…。
「本人が気付いていないうちは
見て見ぬ振りをするべきなのかしら…。」
「……あぁ、俺も同じ気持ちでいる。
ソル団長の動向を秒単位で把握しているとこは流石に引いたが、決して推しに迷惑をかけてはいないからな。」
「………………ソル団長に同情しますわ。」
頼むからこれ以上、我が国の太陽のイメージを変なものにしないでほしい。好奇心は猫をも殺すとはまさにこの事、余計な首を突っ込んだのは自業自得なのだが、そこはそれ。
「お怪我はありませんか?お嬢様。」
颯爽と現れ、暴漢、魔獣を一凪して助けを求める者に手を差し伸べる黄金の騎士。初恋キラーとも呼ばれた淑女の憧れ。初恋こそヴィルに捧げたララも、ちょっとしたファンではあった。
(だって、まるで物語の中の理想の騎士様って感じで素敵だったんですもの……。)
そんな理想の崩壊、いや、まぁ、それでも騎士としての威光が消えるわけではないのだが。
……………………よしっ!
「とりあえず、暴れて忘れますわ。」
「見事な現実逃避だな。」
たくさん暴れてたら、なんかどうでもよくなって記憶の片隅に消えてくれるんじゃないだろうか?
なんていう、完璧な思考放棄がララを暴走させた。
余計な合いの手を聞き流しながら無心で戦利品を積み上げていく。
「あんまやりすぎるなよ〜
持って帰れなくなるぞ〜」
そんな王子様の制止の声をララは完璧な笑顔で封殺した。だってララは知っているのだ。
ウィルが持ちこんだマジックバックの収納量は長期遠征に行く騎士団員全員の荷物と食料を収納しても空きがある程の超高性能なロイヤルブランドだと。
「いや、まぁ確かに収納は可能だよ?
でもやりすぎると狩猟制限に引っ掛かるから程々に……。」
そんなウィルの静止をララは封殺した。
「あ、お前もしかして俺のライセンスに狩猟制限が無いの分かってやってるだろ!?」
大正解だった。
王族専用のライセンスは特別仕様で、あらゆる制限を無視することが出来るのだ。
今回報酬を持って帰るのはウィルに任せるのだから、このライセンスが適用されるだろう。
「一応言っとくが、このライセンスは緊急時に対応するために制限がほぼ無いだけで、何の問題もない日にそれをやっちゃうと親父にメチャクチャ怒られるんだが、分かって……てやってるよなぁ、やっぱり。
そうだよな、お前からすると特に問題はないもんな。
うん、そうだよな、そうなんだよなぁ。
でもそろ手を抜いていただけやしないでしょうかね……?」
段々と覇気を無くし懇願し始めるウィルに同情する気持ちがないわけではない。
もう課題に必要な分はとっくに終わっている。
ここで止まっておくのが良いのだろう。
お父様
お母様
ヴィル、
そしてついでにウィル。
本当にごめんなさい。
私、悪い女になります。
だって、思いっきり魔法撃つのがこんなに楽しいと思わなかったんだもの!!
気付かせてくれてありがとう、ネル団長。
今すごく充実しているわ!
「なんだかとってもいい気分ですわね!」
「……そりゃ良かったよ。」
多分色々と溜まっていたのだろう。
普段から魔法を本気で使うことなんてあまりない上に、死闘の影響で学園内での魔法の使用は許可が降りない限り、原則禁止されていることによる抑圧からの解放。
理性で抑えてた部分を取っ払って仕舞えば、もう歯止めなんて効かなかった。
「……こうなったら
もうとことんやるか!」
もうどうせ怒られるのならば自分も暴れてやる。
そんな思考放棄でウィルもまた剣を振るう事にした。
2人でしこたま暴れ回った結果、ウィルはこっぴどく叱られた事は言うまでもないし、仲良し大作戦に進展も無かった。
ただし、課題の達成率だけは驚異の638%で文句のつけどころのない出来栄えとなった。




