08 一度かかったフィルターを外すのは難しい
「「…………………………。」」
結論から言えば、関係は悪化した。
何を喋れば良いのかわからない、切り出すタイミングがわからない、話しかけて良いのかわからない。
気まずい。
そんな思いを抱え、はや1時間。
どうする事も出来ずに2人は無言で向かい合っている。
いつものお店にいつもの料理。
違うのは距離感だけ。
「なぁ、お前それ好きなの?」
沈黙に耐えかねたのはウィルだった。
「えぇ、悪い?」
「いや、別に。」
「「…………………。」」
いつもならば、思ったより庶民的なものが好きなんだなとか、それは貴方もでしょう?とか嫌味の応酬がつづくのだが、今日は何故か途切れてしまう。
「家じゃオムライスは出ないもの…。」
「ま、庶民の味だわな。」
「ええ、そうね。」
「「………………。」」
なんなのかしらこの歯切れの悪さと間は……。
「俺も、鴨だの牛だのをナイフとフォーク使ってちまちま食うより、骨のついた鶏肉を手掴みでいきたい派だな。」
そう言ってウィルはフライドチキンを手掴みで頬張った。
「王家ならマナーとかうるさそうですのに。」
「まぁな。でも堅っ苦しいのは苦手なんだよ。家じゃ流石にちゃんとするけど…。せっかく持ち手があるのにわざわざナイフブッ刺す意味もないだろう?」
「骨を持ち手と表するのはどうなのかしらね。」
とは言いつつ、所作は綺麗なんですのよね……。
マナーなんてめんどくせぇというけれど流石は王族、テーブルマナーが染み付いていて、フライドチキンを手掴みで食べているというのにどこか気品がある。
…………って肉食べるのに気品って何です?
目に変なフィルターでもかかったのか。
そもそもこの店は行きつけの店で、彼とは何度も通っていて、何度もチキンを食べているところも見ているというのに。
今更そんな所を気にして、一体なんだというのだ。
最悪だ。
次会えばいつも通りと思ったのに。
言葉はうまく出てこないは、ウィルの一挙一動が気になって仕方ない。
普段なら5分で終わる会話に30分もかかっている。
「王家のサラブレッドの癖に。
本当貴方、価値観が全然王族っぽく無いですわね。」
「……そうだな。元々柄じゃ無いんだよな王家とか。勉強するより、剣振ってる方が楽しいし。」
「可笑しな方ですわね。」
「悪かったな……。」
いつものようなやりとりをしているはずなのに
やはりどこかぎこちない。何一つ上手くいかないまま1日が終わりそうだ。
「このままじゃ、不味いよな。」
この微妙な空気に喝を入れるようウィルがそう言った。
「まぁ、そうですわね。」
今の状況が続けば本格的に、学園の地面を踏む事なく卒業してしまいそうだ。
「試験が終わったら、祭りがあるだろう?」
「ありますわね。」
次の試験は丁度1週間後だ。
それが終われば夏季休暇に入り、この国1番の祭事である『星夜祭』が行われる。
アフロディで起こった革命を祝した祭りだ。
「行かないか?」
「それは、2人で……ですか?」
「まぁイーグレットとか他のやつを誘っても良いが、一応仲良し作戦だからな。相場は2人だろう。」
「そういうものですか。」
「……多分な。」
「じゃあ、そういう事でいいですわよ。」
星夜祭はそのルーツを考えた時に、自分が楽しんで良いものなのかわからなくてあまり参加した事がなかった。
「私は、祭りを楽しんでもいいのかしら。」
だからつい、そう溢してしまった。
「この国の民なんだから当然良いに決まっているだろう。」
「そう、なのですか?」
「祭りを楽しむのに資格が必要なわけないだろ?」
何を変なことを言っているんだと首を傾げるウィルに、悩んでいることがなんだか馬鹿らしくなってきた。
「では、お言葉に甘えて楽しもうと思いますわ。」
「おう、じゃあよろしくな。」
なんだか今日は一日中、何処かぎこちなくて
あまり上手く出来なかった日だったけれど
なんだか、終わりは悪くない気がした。
────ああ、でも。
「なんだ?」
「私達、どうやって試験受けるんです?」
「あっ。」
4ヶ月経った今も門は開かない。
人生初の赤点が眼前に迫っていた。




