幕間 王
遠くで鳥の鳴き声が聞こえる。鳥以外の獣の鳴き声もたまに響いてくるが、獣たちの姿はどこにも見えなかった。
ほとんどジャングルになっている森の中を、男が歩いていく。足取りに迷いはなく、通い慣れた道を散歩しているかのような足取りだった。
やがて、森が途切れて小さな庭園が姿を現した。短く刈り揃えられた芝にそのまま座り込む人影が見える。人影は男の足音に気付いているのかいないのか、じっと座ったままだった。
男はそれのすぐ後ろまで歩いていくと、恭しく膝をつく。地面についた膝が湿っているのが分かるが、男はそれすら恍惚とした表情で受け止めていた。
「我が王、ご報告に参りました」
男が静かに言った。目の前の『王』は一切の身動きをしなかった。だが、男はまるで許可を得たかのようにとうとうと喋り出す。
「気になるものが見つかったのです。ええ、これはこれまで見つからなかった『可能性』…… !」
ちらりと王の様子を伺うと、王はその大きな手に似合わぬほど小さなカップを口に運び、喉仏を上下させる。
男は微笑みを湛えたまま、報告を続ける。
「魔法は駄目でした。…… いやいや王ならばとっくにご存じでしょうとも。私めは分かっております。でも人間は?…… 王よ、人間です。あの汚らわしく矮小な人間でございます。ああ、なんと忌まわしく、なんと可愛らしき、王の創造物であることでしょうか…… 」
男は恍惚としたように邪悪な微笑をさらに深くした。
「…… 不死の魔女と呼ばれる、三百年ほど前に活動していた魔女…… 凄まじい呪術の達人であったのです!ええ、そうでしょうとも!この小さき人間が、私にできぬことをやってのけたのです!ああ…… なんと…… !…… 眷属たちを動かしました。この魔女を追わせています…… クク…… 」
男は王の隣に置かれた縦長の黒い箱をチラリと見た。箱は人間が一人すっぽりと収まってしまうほどの大きさだった。王はその箱の横で、たまにカップを傾ける以外には一切動こうとしない。
「…… 必ずや、王のためになりましょうとも。ええ、そうでしょうとも。私めが必ず王のためにしてみせましょう!…… では、そろそろ行きます。王のために働いて参ります」
男は深く頭を下げると、立ち上がって踵を返した。また森の中を歩く。地面はぬかるみ、足が沈んでいくが、男は気にする様子もなく歩いている。
「…… ええ、お言葉は不要ですとも。ええ…… クックック…… 分かっておりますとも…… 」
その声は森の中に消えていく。
男は尚も微笑を崩さなかった




