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クムルサレアの果てた後  作者: 北里有李
第一章 もう生まれませんように

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祈り

 その知らせは、あっという間に宮廷を席巻した。「ヴァスラディ将軍が現れた」。カトリンを連れてアルディオスへ向かう途中、通り道だったので帝都に寄っていたサラの耳にも、その知らせは届いていた。


 普段は政治には一切興味を示さないサラだったが、珍しく報告者を問い詰めていた。


「それで、どうなったのかもう一度教えて?」


 いつものふざけた調子はなかった。こういうときのサラは怖いと知っている部下たちは、一切関わろうとしなかった。


「そ、それが……突然……薬を飲んで自害を……」


「それは間違いないの?」


「は、はい……教会の方でも対応に苦慮していると……」


「……そう、なんだ」


 サラは深くため息をついた。その目は疲れ切っていた。


「セヴァンと面会する。向こうに伝えておいて」


「い、いきなりですか……!?」


「私なら会ってくれる。早く行って」


「は、はい……!」


 部下が走り去っていくのを見届けると、サラは力なく椅子に腰掛けた。


「はぁ……あのバカ。カトリンになんて言えばいいんだよぉ……」


 サラは爪を噛んだ。綺麗に整えられた爪が、あっという間にガタガタになっていく。


「……魔王の墓で、ってことは……やっぱりそういうことだよねぇ……」


 背もたれに首を完全に預けた。もう体に力を入れるのすら嫌だった。


「はぁ〜……やだやだ。悪魔族のくせに湿っぽいんだからぁ……」


 サラは目を閉じて、しばらく黙りこくった。そして、誰にでもなくポツリと呟いた。


「……お茶菓子選んであったのになぁ……」



・・・・・



 『魔王と魔将の封印場』に、カトリンはやって来ていた。やはり、そこは鎖で雁字搦めにされた何もない地面だった。


「師匠《リリットさん》……」


 力なく腕を体の横に落として、その地面を見つめた。体を動かす度に、香水の甘い匂いが微かに広がる。


「私……大きくなったよ……学校も、首席で卒業したんだ。……師匠《リリットさん》の……お陰なんだよ?」


 カトリンは返事する者など誰もいないそこへ話しかけ続ける。


「師匠《リリットさん》の構え方、ずっと忘れないよ……。師匠《リリットさん》と一緒に飲んだお茶の味、ずっと覚えてるよ……。でも……師匠《リリットさん》の声、段々忘れ始めてるんだよ……」


 カトリンは肩をぷるぷると震わせた。


「ねぇリリットさん……もう一回喋ってよ……。私……まだちゃんとお別れしてない……!」


 カトリンは分かっていた。誰もその声に返事をしないと。


 カトリンは大きく鼻をすすった。


「……私ね、リリットさんのこと、ずっと大好きだよ。だからね……」


 チラリと碑文を見る。そこには相変わらず「二度と生まれてきませんように」と書かれていた。


「リリットさん……リリットさんが……二度と生まれてきませんように……」


 我慢していたはずの涙が、こぼれ落ちる。だが、リリットに悲しい顔を見せたくはなかった。だから、泣きながら笑った。


「ずっとずっと……永遠に……ここにあなたたちが二人でいられますように……」


 カトリンは、ひたすらに、そう祈った。

カクヨムで連載していましたが、今回こちらの方にも連載してみます。

これ以降ep.41までは一日に二話のペースで連載します。

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