祈り
その知らせは、あっという間に宮廷を席巻した。「ヴァスラディ将軍が現れた」。カトリンを連れてアルディオスへ向かう途中、通り道だったので帝都に寄っていたサラの耳にも、その知らせは届いていた。
普段は政治には一切興味を示さないサラだったが、珍しく報告者を問い詰めていた。
「それで、どうなったのかもう一度教えて?」
いつものふざけた調子はなかった。こういうときのサラは怖いと知っている部下たちは、一切関わろうとしなかった。
「そ、それが……突然……薬を飲んで自害を……」
「それは間違いないの?」
「は、はい……教会の方でも対応に苦慮していると……」
「……そう、なんだ」
サラは深くため息をついた。その目は疲れ切っていた。
「セヴァンと面会する。向こうに伝えておいて」
「い、いきなりですか……!?」
「私なら会ってくれる。早く行って」
「は、はい……!」
部下が走り去っていくのを見届けると、サラは力なく椅子に腰掛けた。
「はぁ……あのバカ。カトリンになんて言えばいいんだよぉ……」
サラは爪を噛んだ。綺麗に整えられた爪が、あっという間にガタガタになっていく。
「……魔王の墓で、ってことは……やっぱりそういうことだよねぇ……」
背もたれに首を完全に預けた。もう体に力を入れるのすら嫌だった。
「はぁ〜……やだやだ。悪魔族のくせに湿っぽいんだからぁ……」
サラは目を閉じて、しばらく黙りこくった。そして、誰にでもなくポツリと呟いた。
「……お茶菓子選んであったのになぁ……」
・・・・・
『魔王と魔将の封印場』に、カトリンはやって来ていた。やはり、そこは鎖で雁字搦めにされた何もない地面だった。
「師匠……」
力なく腕を体の横に落として、その地面を見つめた。体を動かす度に、香水の甘い匂いが微かに広がる。
「私……大きくなったよ……学校も、首席で卒業したんだ。……師匠の……お陰なんだよ?」
カトリンは返事する者など誰もいないそこへ話しかけ続ける。
「師匠の構え方、ずっと忘れないよ……。師匠と一緒に飲んだお茶の味、ずっと覚えてるよ……。でも……師匠の声、段々忘れ始めてるんだよ……」
カトリンは肩をぷるぷると震わせた。
「ねぇリリットさん……もう一回喋ってよ……。私……まだちゃんとお別れしてない……!」
カトリンは分かっていた。誰もその声に返事をしないと。
カトリンは大きく鼻をすすった。
「……私ね、リリットさんのこと、ずっと大好きだよ。だからね……」
チラリと碑文を見る。そこには相変わらず「二度と生まれてきませんように」と書かれていた。
「リリットさん……リリットさんが……二度と生まれてきませんように……」
我慢していたはずの涙が、こぼれ落ちる。だが、リリットに悲しい顔を見せたくはなかった。だから、泣きながら笑った。
「ずっとずっと……永遠に……ここにあなたたちが二人でいられますように……」
カトリンは、ひたすらに、そう祈った。
カクヨムで連載していましたが、今回こちらの方にも連載してみます。
これ以降ep.41までは一日に二話のペースで連載します。




