別れ
「おぉ、久しぶりだねぇ。いやぁ〜すっかり大きくなったなぁ。子供っていうのはすごいねぇ」
馬車のステップを一歩一歩降りながら、サラは真っ先にカトリンを見つけると、ひらひらと手を振った。カトリンは、サラの変わらない様子に苦笑するしかなかった。
「ん〜? しかも魔力量が馬鹿みたいに増えてるなぁ。あいつ、どんだけ厳しい修行したのぉ?」
「あはは……」
「しかも常に魔力強化してるねぇ。ほとんど一流だぁ。アルディオス行っても勉強することないんじゃなぁい? でも同じ歳の頃の私よりは、練度が低いかなぁ、あっはっは〜」
サラは何でもないかのようにそう言うと、後頭部を掻きながら笑った。
「アイツから免許皆伝ももらったことだし、これから一緒に行こっかぁ。アイツにも一応挨拶したいんだけど、いるぅ?」
馬車の前にいたのはカトリンだけだった。サラに会いたがる村人たちを押さえて、何とかカトリン一人になったのだ。それは、この話をするためだった。
「……いません」
「いない? なんでぇ?」
カトリンは、一息には話せなかった。大きく息を吸ってから話を続ける。
「リリットさんは……最後に、私と戦いました。目隠しを外して、みんなの前で」
「……みんなの前って?」
サラからふざけた調子がなくなる。
「私を、村のみんなの前まで蹴り飛ばして、それで『ヴァスラディ将軍だ』って……名乗って……。きっと……私が、みんなに怖がられてたから……」
「ふーん……」
サラは遠くを見つめた。リリットの小屋があるであろう方を、じっと静かに見ていた。
「いっちょ前に導き手気取りか。やりようなんていくらでもあっただろうに。アイツなりに考えたんだろうけどね。でも結局、自分が消えるのが一番キレイだと思っちゃったんだろうな」
サラは皮肉げに、低い声でそう言った。
「師匠は、ちゃんと……」
カトリンは言い返そうとしたが、それ以上言葉が続かなくなってやめた。サラはそんなカトリンを見てニコリと笑った。
「せっかく茶菓子持ってきたのになぁ。帝都の高〜いヤツ。からかってやろうと思ってたのに。ちぇ〜」
サラは小石を蹴る。小石は大して飛ばずに転がっていった。
「……でも、師匠は私のために……」
「分かってるよぉ。アイツなりに精いっぱいやったんでしょ? またいつか会えるといいなぁ。あ、そうだ。私たちで茶菓子食べちゃおっかぁ? 滅多に食べれないぞぉ。宮廷筆頭魔導師サマが直々に用意したんだから、食べときなぁ。さ、ほら、馬車に乗って。お父さんお母さんとはお別れ済ませた?」
「あ、はい……」
「アイツとは違ってまた会えるもんねぇ。挨拶は軽めで大丈夫だよぉ。ここから馬車で二ヶ月はかかるかなぁ。長旅だけど、私が旅路を保証するから安心して行こうねぇ」
サラは先に馬車に乗り込むと、隣の座席をトントンと叩いた。
「さ、おいで」
カトリンはステップを一段ずつ登ると、サラの隣に座った。ふわりと甘い匂いが漂う。
「ん? 嗅いだことある匂いだなぁ……」
「あ……これは……師匠から最後にもらった香水で……」
サラは面白そうに笑った。
「あ〜私があげた奴だぁ。アイツ、貰い物を人にあげるなんて薄情なんだからぁ」
「あはは……」
カトリンはまた苦笑した。
「……師匠には、甘すぎるって」
「……ふぅん、そっかぁ」
サラは窓から外を見た。雲は少ない。陽が照って暖かい、旅日和だった。
「……会いたかったなぁ……」
サラは、寂しそうに笑っていた。
「どこにいるんだろうねぇ……」
カトリンは答えなかった。




