57 巻物が見つかりました
敦子が部屋に戻ると、テーブルに置いてあったスマホが光っていた。
見ると着信があり、実家からだった。
敦子はすぐ電話した。
すぐ母親が出た。
「もしもし敦子?今どこにいるの?」
「自分の部屋だよ。なんか用事でもあったの?」
「こんなに遅くまでどこに行ってたの?」
敦子は時計を見た。夜の10時を過ぎている。
電話は玉山の部屋にいるときにきていたようだ。
隣に行くだけだったので、スマホを持っていくのを忘れていた。
ただ玉山の部屋にいたというのはいいづらくてごまかすことにした。
「ごめんお風呂に入ってた。それからいろいろやっていて気が付かなかった」
「そお~。まあよかったわ。つながらないから心配したじゃない」
心配してくれているのが電話口でもわかって、敦子はちょっとほっこりしたのだが、母親がなかなか要件を言わない。
ついじれてしまいきつくなってしまった。
「で、なに?なんか用事あったんでしょ」
「 あっそうそう、この前湖で水柱が上がったことあったでしょ。あれからお父さん、お蔵にある神社に関する巻物とか資料をずっと探していたのよ。そしたら今日やっと巻物が見つかってね。お父さんとふたりで見たんだけどね。さっき聡が帰ってきて、その巻物見たのよ。そしたらびっくりしていて。慌てて電話したの」
「何に?」
ずいぶん要領を得ない話なので、ますます敦子はじれてしまった。
「巻物に竜が描かれているんだけど、その竜が変身して人間になるところも書かれていたのよ。その男の人の顔がね...聡が言うには、敦子のアパートのお隣にいる人に似てるっていうの。えっ~、聡が今代わるって」
「ねえちゃん?俺。今母さんが言った通り、巻物に書かれている絵の人が、ねえちゃんのお隣さんに似てるんだよ。俺びっくりしちゃって。まああんな顔そうそうそういないじゃん。それにしても竜の化身に似てるってすごくない?ねえねえ、聞いてる?」
「あっ、うん、聞いてる。そんなに似てる?」
「うん、似てるってもんじゃないよ。本人みたい。今、画像送るから見てみてよ。いったん切るよ」
敦子は、弟の聡と電話を切った。
しばらくして巻物の中の玉山似の男の人が書かれているところを映した画像が送られてきた。
すぐ開けてみると、絵なのに玉山に似ていた。
敦子の心臓がとくんと波打ったように感じた。
巻物の絵は、もう何百年も前のものなのに、まるでその時代に玉山がいたかのように酷似している。
敦子は、やっぱりいつも見る夢と何か関係があるんじゃないかと思った。
また電話が来た。
「ねえちゃん見た?似てるでしょ。俺一回しかあの人に会ってないけどすぐわかったよ」
「そうねえ、確かに似てる。ねえ、その巻物何が書かれているの?」
「なんか神社の縁起みたいだよ。物語のようになってる。古いものだから字が読みにくいんだけど。時々字がかすれていたりするところもあってさ」
「そうなの、ほかの人には、玉山さんに似てるってこと言わないでね。いい?」
「うん分かった。親父もあの巻物、まだ人に見せるのはって言ってたからさ。ただ見た時、あまりにびっくりしてねえちゃんには報告しておこうかと」
「そう、ありがとう。またその巻物見にそっちに帰るかも」
「わかった。じゃあお休み」
「お休み。母さんによろしくって言っておいて」
敦子は電話を切ってから、しばらく送られてきた画像を見ていた。
まるで玉山が書かれているようだった。
しばらく眺めていたが、もう夜の11時を過ぎていることに気が付いて、慌ててお風呂に入り寝ることにした。
お風呂の中でも、またあの画像について考えてしまっている自分がいた。
玉山にいってもいいだろうか。いやいったほうがいいのかもしれない。
もしできるなら玉山にも、その巻物を直接見てもらいたいと思った敦子だった。
また月曜日の朝が来た。
いつものように仕事が始まった。
敦子は、いつ玉山に言おうかと思っていたが、玉山からの連絡もなく敦子も忙しくてなかなか連絡できなかった。
敦子がなんて言おうか考えているうちに、水曜日の夜玉山から連絡が来た。
『今週は土日出張に行くから会えない。寂しいよ』
敦子は、そのメールを見てふと思った。今週有休を取って実家に帰ればいいのではと。
ありがたいことに、今年はまだ一日も取っていない。
総務からも取るように言われているので、とることにした。
今週土曜日から帰ることに決めた。
まず仕事の様子を見て二日くらい取れるといいなと思った。
ちょうど来週は少し仕事が暇になる。
翌日の木曜日に上司にいうことにした。
「来週月曜日と火曜日有給でお休みしてもいいですか」
「いいよ、まだ滝村さん有給消化してなかったよね。片付かない仕事があったらまた言ってくれればいいから」
ありがたい上司の言葉があり、敦子は土曜日から実家に帰ることにした。
その日の昼休みに、いつものふたり奈美と結衣にいった。
「土曜日から実家に帰るね。月曜と火曜有給とることにしたんだ」
「そうなの。そういえばあっちゃんまだ有給とってなかったね。いっぱいあるんじゃない?」
奈美はちょこちょこ取っているので、もうあまり有給が残っていないらしい。
結衣はといえば、この夏休みの前後に有休をとったばかりだった。
恋人である井上と旅行にいってきたのだ。
「何かあったの?」
ちょっと心配そうに結衣が聞いてきた。
敦子は、まさか巻物を見に帰るとは言えないので、仕方なくうそをついた。
「うちにお蔵あるんだけど、その掃除に人手がほしいんだって。だからお手伝いに帰ろうかなっと思って」
結衣はその話を聞いてほっとしたようだったが、奈美が言ってきた。
「あっちゃん、なにか掘り出し物見つかるかもよ~。いいなあ、うちにはお蔵なんてないもんなあ」
お蔵という言葉に、ずいぶんいいイメージを持っている奈美だった。
「うちはそんないいものはいってないよ。それにもしそんな金目のものがあったら、とっくにご先祖様が売ってそう」
「あっちゃんちって昔何やっているおうちだったの?」
結衣が興味深そうに聞いてきた。
そういえばみんなに言ってなかったかと思い敦子は言った。
「昔神社の神主さんだったみたい。でも小さな神社で、今は無人になってるとこだから」
その言葉にすぐ反応したのは奈美だった。
「じゃああっちゃん、なんか不思議な体験したこととかある?それともちょっとだけ霊能力があるとか?」
「ないよ、そんなもの」
「そうなの?よく言うじゃん、巫女さんとか神主さんとかは霊力があるとかねえ。ねえ結衣ちゃん」
不思議なこと大好きな奈美と結衣は、急になぜかパワースポットの話を始めてしまい、敦子はそ知らぬふりをしてランチを食べるのだった。