56 夢の話をしました
玉山は敦子のあまりの驚きに一度言葉を失ったが、ぽつぽつ話し始めた。
初めてその夢を見たのは、中学生の時の事。
ただその時には、自分が竜になって空を飛んでいたり水の中を泳いだりするといった夢だった。
見たといっても5、6回見ただけのどこかファンタジー世界のようで、本や映画で見たことが夢になっただけだと思っていたこと。
大人になるにつれ夢を見たことも忘れていったこと。
ただまた夢を見始めたのは、会社に入って海外赴任をしてからだったこと。
以前と違うのは、その夢の中に女の子が出てくるようになったこと。
ただその夢はひどくあいまいで、朝起きるとぼんやりとしか覚えていなかったこと。
鮮明になってきたのは、日本に帰ってからだったこと。
「夢の中で自分が竜から人間の姿になるんだ。夢の中だからそれを不思議にも思わないんだけど、水に映った人間の姿をした自分の目を見た時、目が金色に光っていてそれにびっくりして飛び起きたこともあったよ」
玉山はそう締めくくった。
敦子は玉山の話を聞きながら、自分がよく見る夢とひどく似ていることに気が付いた。
「その夢に出てくる女の人って、顔は小池さんに似てませんでしたか」
敦子に言われて、玉山はぎくっとした。
「確かに似ていたんだけど、別に小池さんを意識していたわけじゃないよ」
玉山は必死に敦子に訴えるように言ってきた。
たぶんこの前の敦子が言った『小池さんを見る目が優しい発言』を思い出しているのだろう。
「分かってます。ただ聞いてみただけです」
敦子が笑いながら言ったので玉山はほっとしたようだった。
しかし急に玉山が思案顔になった。
「どうしてあっちゃんは僕の夢のこと知ってるの?」
「私も多分同じ夢を見ているからです」
今度は玉山が口もきけないほど驚いていた。
「それにその小池さん似の人って、夢の中では私だと思うんですよね~」
敦子はただ感想を漏らしただけなのに、玉山は口から魂が抜け出そうなほどショックだったようだった。
敦子は玉山の意識が回復するまで、カップにあった残りのコーヒーを飲んでいた。
玉山はといえば、敦子がコーヒーをゆっくり味わって飲み切ってしまうころやっと回復したようだった。
「そうなんだ~。だからか」
玉山は一人納得しているようにうんうんうなずいていた。
「どうしたんですか。何かわかったんですか」
「小池さんを初めて見た時は、正直心がひかれた気がしたんだ。だけど話をするうちにすぐこの人じゃないってだれかがいうんだ。前にも言ったと思うけど」
敦子はその言葉になぜか心が温かくなった気がした。
「まさか私も竜也さんと同じ夢を見ていたとは思いませんでした。その夢って滝が出てきませんでしたか」
「うん出てきた。あれってどこなんだろう」
「あれはですね~、私の実家のそばにある滝ですよ。前に水柱が上がったっって話した湖のそばにある滝です」
玉山はまたまたびっくりしていたようだった。本当に実在するとは思わなかったのだろう。
しばらく2人は夢で見たことをお互いに話し合った。
「やっぱり同じ夢のようだね」
玉山が感心したように言った。
「すみません。小池さんのようにかわいくなくて」
敦子はやっぱり心のどこかで少し小池さんの事を根に持っていたのか玉山に意地悪を言ってしまった。
「なに言ってるんだよ。僕はあっちゃんがいいんだ」
玉山があまりに真剣に敦子の目を見ていったので、言われた敦子はすごく恥ずかしくなってしまった。
「ごめんなさい」
敦子がそうわびて下を向くと、玉山が不意にテーブルをまわって敦子のもとに来た。
そして急に抱きしめられていた。
耳元で玉山の声がした。
「同じ夢を見るなんて僕たちやっぱり運命でつながっているんだね」
敦子は抱きしめられながら腰が抜けそうになった。
今度は敦子の口から魂が抜けそうだった。
玉山はしばらく敦子をぎゅうっと抱きしめていたが、少ししてから敦子の顔を見た。
そしてびっくりしたようだった。
敦子の顔が真赤でゆでだこのようになっていたからだ。
「あっ、ごめん」
敦子の顔を見て玉山も自分が無意識にやっていたことを改めて思い出し、急いでテーブルを回って自分の席に戻った。
敦子はしばらく呆けていたが、やっと心が落ち着いてきた。
今度は玉山がコーヒーを飲んで気を落ち着けていたようだった。
「やっぱりあの神社が何か関係ありそうですね。あと滝も」
「そうだね。そういえばその神社の由来って何だったかな」
敦子はこの前聞いた神社の由来を話した。
玉山は真剣に聞いている。
「この前あのネイルも故郷に関係あるって言ってたよね。夢となにか関係あるのかなあ」
「そういえば私が夢を見始めたのは、あのネイルを使ってからのような気がします」
そうなのだ敦子が夢を見始めたのは、あのネイルを買ってきた時からかもしれない。
玉山とこうやって会っているのもあのネイルのおかげだ。
玉山がもし空を飛んでいた敦子を見ていなけばこうやって親しくなれなかったのかもしれない。
敦子がぽつんとそうこぼすと、玉山が言ってきた。
「それは違うよ。あんなことがなくてもきっと僕はあっちゃんと出会っていたんだと思う」
玉山がそう言い切ったので敦子の心が温かくなった。
「そういってもらえると嬉しいです」
敦子があまりに嬉しそうに言ったせいか玉山がなぜかそわそわしだした。
「どうしたんですか」
敦子が急にそわそわしだした玉山を見て聞いた。
「またあっちゃんを抱きしめたくなっちゃったんだ。さっきの発言があまりにかわいくて」
そういう玉山は自分で自分が言った発言に照れてしまい、そっぽを向いてしまった。
「昨日箱根の神社に行ってふたり目が光りましたけど、やっぱりパワースポットなんですね。あそこって」
敦子が急に関係ないことを言い始めたので、玉山もそちらに気を取られて敦子の方を向いた。
「確かにそうだね。なにが僕たちに反応したのかなあ」
玉山はじっと敦子の目を見ていた。
昨日の桜色に光った目を思い出しているのだろう。
「私の目って夢の中でも光ってました?」
「いや、光ってなかった気がする」
敦子はほっとした。
いつの間にか先ほどのなぜか甘い雰囲気が消えている。
先ほどは玉山が変な発言をするので、すごく恥ずかしくて居心地が悪くなってしまっていたのだ。
恋愛したことのない敦子には、あの雰囲気はちょっとまだ恥ずかしい。
敦子がふと時計を見るとだいぶ遅い時間になってしまっていた。
「遅くなってしまいましたね。これ洗っちゃいますね」
そういってマグカップをキッチンに持って行こうと席を立った。
「いいよ。洗っておくから。夜遅くなっちゃってごめんね。明日仕事なのに」
「いいんですか。あるがとうございます。でもこういう時お隣だと楽ですね」
「また連絡するよ」
敦子は自分の部屋に戻ることにした。
挨拶する時また抱きしめられたらどうしようとか、ドキドキしてしまったが何もなかった。
それが少しだけ残念に思った敦子だった。




