58 そっくりでした
敦子はその夜実家に連絡した。
「かあさん、敦子だけど。今週土曜日そっちに帰るね。月曜日と火曜日の二日有給とったから」
「そうなの?じゃあちょっと長くいれるわね。土曜日に帰ってくるのね。気を付けて帰ってくるのよ」
「わかった」
それから敦子は玉山にも連絡した。
『今週は実家に帰ります。月曜日と火曜日有給とったので、たぶん帰りは火曜日です』
その夜遅く玉山から返信があり、敦子が気付いたのは翌日の朝だった。
『気をつけて。また来週会おう』
翌日金曜日、会社を終わった敦子は、大きな書店にいくことにした。
敦子の地元の神社の事が何か書いてある本はないか探しに行ったのだ。
いろいろ探してみたが、残念なことに神社の事を書いてある本はなかった。
せっかく来たのでぶらぶらしていると、近郊にあるおすすめランチの本とかわいいポーチのついた付録つき本があったので買っていくことにした。
おすすめランチ本を手にとってみた時には、思わず玉山の顔が思い浮かんでしまい、急に恥ずかしくなって誰も見ていないのに顔が熱くなってしまった。
思いがけずいい収穫にホクホクしながら家路を急いだ。
家に帰り、あるもので夕食を済ませて、実家に行く支度を始めた。
今日買った付録付き本からポーチを取り出す。
かわいい上になかなかの収納力で、化粧品を入れていくことにした。
ふと棚に目をやると、あのネイルがあった。
これはなぜか箱にしまわずに棚の上に置いてあったのだ。
何気なく手に取ると、キラッとまた何か光った気がした。
今度はしっかりネイルのビンを傾けてみたが、やはり何も見えなかった。
敦子はこのネイルもポーチにいれた。
翌朝土曜日は早く起きて、手早く掃除や洗濯をしてから、実家に向かった。
早くアパートを出たので、昼前には実家近くの駅に着いた。
駅に着くと弟聡の車があった。
「ねえちゃん、おかえり」
「ありがとう。聡が迎えに来てくれたんだね」
「うん。おやじ、この前見つけた巻物に味をしめて、今日もまたお蔵に入ってごそごそやってる」
「ふ~ん、大変だねえ」
敦子は他人事のように言ったのを聞いて、聡が笑った。
「ねえちゃんも手伝わされるぜ。今日人手が増えるって親父喜んでたからさ」
「いやだ~。あんなかび臭いとこ入りたくない~」
俺も!と聡もいい二人で笑った。
家に着くと玄関に母親が出てきた。
「おかえり」
「ただいま。お父さんはやっぱりお蔵?」
「聡に聞いた?そうなのよ、もうしょうがないわよねえ。今日も煤で真っ黒よ」
お蔵にいる父親はほっておいて、弟、母親、敦子の三人でお昼ご飯を食べることにした。
三人がお昼ご飯を食べて、のんびりテレビを見ていると、埃だらけの洋服姿の父親がお蔵から戻ってきた。
「敦子帰ったのか」
「うん、ただいま。おとうさん、すごい埃だらけじゃん、早く着替えてきてよ」
母親からも叱られた父親は、着替えとシャワーを浴びにすごすごとお風呂場にいったのだった。
敦子が駅で買ってきたお土産を三人で食べていると、さっぱりした父親がやっと戻ってきた。
父親は、1人遅れてお昼ご飯を食べることとなった。
そのことでまた母親にお小言をもらっているのをしり目に敦子は、弟の聡に聞いた。
「この前の巻物あれからなにかわかった?」
「全然、あんまり字が読めないんだよね。崩し文字だったりかすれていてさ」
「今その巻物どこにあるの?」
聡は客間にあるよといって敦子とふたり、巻物を見に行った。
巻物は、頑丈そうなしかしとてもふるびた箱に入っていた。
聡が箱を開けると中にまた箱があった。
そしてその箱を開けるとまた箱が。
結局最後の箱を入れて、巻物は5つもの箱に守られて入っていた。
「まるでマトリョーシカみたい」
敦子がつい笑って言うと、聡も敦子につられて笑いながら言った。
「俺も初めて開けた時そう思ったよ」
いくつもの箱に守られた巻物は、思ったより小さかった。
しかし聡が巻物を広げると、結構な長さになった。
広げられた巻物は、字が書かれておりその上や下に丁寧に絵が描かれている。
字はかすんだりしていたが、絵は色も鮮やかできれいだった。
敦子は、字は読めないので、絵だけ追っていく。
はじめのほうには、滝の絵やその下に祠の絵が描かれていた。
次には竜の絵が。竜から人に変わった姿も描かれている。
そして送られてきた画像よりもっと鮮明な玉山似の顔があった。
そのあとには小さな女の子の絵が描かれている。
どうやらその女の子は舞を踊っているらしい。
次の絵に敦子は思わず息の飲んだ。
そこに書かれていたのは、小池さん似の女の子の顔だった。
そこからは、小池さん似の女の子と玉山似の男の人が仲良く話しているところが。
玉を持った女の子の絵やらきれいな色の玉の絵も描かれている。
そして日照りで作物が枯れる絵、竜が玉をもって天へ上っていく絵。
空が光って雨雲がもくもく湧き出る絵。
最後に雨が降り作物がすくすくと育っている絵で終わっていた。
たぶんその崩し文字には、その絵の説明が書かれているのだろう。
敦子は、読もうと試みたがさっぱりわからなかった。
敦子が必死でその巻物を見ている間に、かたわらにはいつの間にか食事を終えた父親がいた。
「聡から聞いたんだが。これに書かれている人に似ている人が敦子の隣の部屋にいるんだって」
敦子は父親の声がすぐそばから聞こえてびっくりした。
「俺が言ったんだ。俺があんまりびっくりしてたら親父に聞かれてさ」
敦子は、リビングに置いてあるスマホの画像を見せるべく弟と父親を伴いリビングに戻った。
「この人なんだけど」
敦子は、スマホから以前玉山から送られてきたネクタイ姿の画像を父親に見せた。
父親は、スマホを受け取り、じっくり見ている。
「どう?似てる?」
父親は何も言わなかった。
母親も父親の横からスマホを覗き込む。
ふたり黙ったままだった。
「親父、似てるだろう」
聡がいい、その声で先に反応したのは母親だった。
「なに?この人。すごいイケメン。こんな人が敦子のお隣さんなの?」
母親は巻物の人と比較することをすっかり忘れているようだった。
「確かに似てるなあ。まるで本物みたいだ」
父親がやっと声を出した。
「だろう?やっぱりな。俺もそう思ったんだよ」
聡が自分の手柄のように言うのが面白かった。
また4人で客間に戻り、スマホの画像と巻物の絵と見比べた。
父親は、最後までうんうんうなって見ていた。
ただ母親はあまりのイケメンぶりに敦子との接点はないものと思い込んでいて、玉山の事はこれっぽっちも聞かれることはなかった。
その夜敦子は、寝る前にもう一度客間に広げてある巻物を見にいった。
玉山似の絵を覗き込むと絵の中の目が金色にきらっと光った気がした。
「えっ___っ!」
敦子はそれをみて腰が抜けそうになってしまった。
足がこわばって動かないので、ずりずり這いつくばるようにしてやっとのことで客間を出た。
「わぁああああ____!!!」
廊下にはちょうど聡がいた。
聡は敦子の這いつくばって出てくる姿を見てびっくりしたようだった。
「ねぇ__、ねえちゃん何してんの!」
敦子は聡の叫び声に今度こそ本当に腰が抜けてしまった。
「いっ、いまっ、目が光ったぁ___!」
敦子は震えながら、聡にいった。
腰が回復した敦子は、うたがわしいまなざしの聡ともう一度客間にいき、絵をのぞいてみた。
絵の中の目は光らなかった。




