59 お話を聞きました
翌朝敦子は、幼馴染の大木美代子に連絡した。
『昨日から帰ってきてるんだけど、神社の事で林君に連絡取りたいんだけど連絡先教えて』
同級生の林の連絡先を聞きたかったのだ。
林にこの前聞いた神社の由来の事についてほかに聞きたいことがあった。
大木美代子からの返信は早かった。
『OK!また時間があったら家によってね!』
林の連絡先を教えてもらい、林に連絡する。
『この前教えてもらった神社の由来の事です。林君が神社の由来を聞いた郷土史家の人の連絡先教えてくれない?』
林も返信が早かった。
『一応先方に連絡をとったら、その方お亡くなりになってました。線香をあげに行こうと思ってるんだけど、一緒に行く?』
敦子は、もしかしたら神社の資料とか家に残っているかもと思い、一緒に行くことにした。
近くの公園で待っていると、林の乗った車が来た。
「待った?」
「ううん、今着たところ」
林は時間に正確だった。
ちょっと早く来ていた敦子はほっとした。
ふたりで郷土史家のお宅に向かった。
途中、お仏壇にお供えするお菓子を買っていった。
「まさかお亡くなりになってるとは思わなかったよ。夏前に行った時にはお元気そうだったら」
「何歳だったの?」
「たしか88歳だったかな。お歳のわりにずいぶんしっかりされていてね。昔は校長先生をやっていらしたらしいんだよ」
「そうなんだ。大先輩だったわけね」
ふたりそんな話をしている間に、目的地であるそのお宅に着いた。
インターホンで林が名前を言うと、すぐに玄関を開けてくれた。
1人の女性が出てきて、部屋に案内してくれた。
ただ林と一緒にいる敦子を見た時には、すこし驚いた顔をしていた。
部屋に通されると、奥に仏壇があった。
そばに写真もあり、そのお顔は柔和な感じの方だった。
買ってきたお菓子をお供えしてふたりで仏壇に手を合わせる。
そして座布団を勧められて林と敦子は座った。
林が言った。
「今日は突然お伺いしてすみません。実は横にいる人は、私の同級生で、神社にゆかりのある者でして。今日一緒にご焼香させていただきたいと思いまして」
「初めまして。滝村敦子と申します。今日は突然すみません」
それから林は、この前湖での水柱が上がった話をして、今またあの神社の事を少し調べていると説明をした。
「そうなんですか。わざわざありがとうございます。父も喜びます。どうぞ」
そういってお茶とお菓子を出してくれた。
それから郷土史家の娘さんは話してくれた。
林が学校の授業で地元の歴史を学ぶ目的で電話をした時からの事だった。
「父はお電話を受けてから、見違えるように元気になったんですよ。正直その前までは、歳のせいかすっかり元気がなくなってしまっていて。お電話いただいた時にも、はじめお断りしようかと思っていたんですけど、父に話したらぜひお会いしたいといって。それから古い資料やらいろいろひっぱりだして準備していました。実際林さんがいらっしゃったときには、10歳ぐらい若返ったんじゃないかと思えるぐらいに元気になっていて」
女性はその時の事を懐かしく思い出したのか、ちょっと声が震えていた。
「ただ不思議なのは、林さんが帰った後、よかった、よかった!っていうんですよ。私が何がよかったのって聞いたら、ちゃんと伝えることができたからって、それは嬉しそうに笑っていて。でもね、その足で林さんに見せていた資料全部、家の前の畑で燃やしちゃったんです」
「えっ____っ!!!」
「じゃあ資料はもうないんですか...」
敦子はただびっくりしただけだったが、林は資料がもうないことにとても残念そうだった。
「そうなんです。私も父に全部燃やしちゃったの?って言ったら、父がなぜか嬉しそうにもういいんだよって笑っていったんです。だって定年してからずっとかかわっていた郷土史なんです。それをあっけなく燃やしちゃったんで、びっくりしました。
それから2、3日たって、父が昼寝をする前にキッチンにいた私にいったんです。『ありがとう』って。その夕方です。父が亡くなったのは。かかりつけの先生に来ていただいたんですけど。先生もびっくりするぐらい穏やかな顔をしていて...」
そこで女性は耐えきれなくなったのか、嗚咽を漏らした。
しばらくそんな状態だったが、泣いてすっきりしたのか、また話を続けてくれた。
「これはさすがに家族にしか言ってないんですけど、父が昼寝をするといって自分の部屋に戻った後なんですが。もうその頃暑くなっていたから、のどが渇くんじゃないかと思って、お茶をもって行ったんです。 そしたら部屋の中から声が聞こえて。父が誰かとしゃべっている声がするんですね。ただ私が部屋に入ったら、父以外誰もいなくて。父に聞いたら誰ともしゃべってないって言ったんです。私その時には、父が携帯で誰かとしゃべっていたのか、それとも部屋のテレビの音だったのかしらと思って気にしなかったんですけど。
父が亡くなってしばらくたって、あの時誰かと話していたんじゃないかと思って、気になって父の携帯の通話記録見たんです。そしたらあの日は、父は誰とも話してないんです。それに父の部屋に行ったとき、テレビもラジオもついていなかったし。不思議なんですよね~。それに今思うと携帯から相手の声が、廊下まで聞こえるなんて変ですよね。ただ父と話していた声の主さんは、若そうな感じでいい声でした。
あと父が言ったんです。
畑で資料を燃やして戻ってきた父が、たぶん資料の件で女性が来るだろうから、これだけ渡してほしいって。これです」
そういって女性は、敦子に小さな包みを差し出した。
それは習字に使う半紙に丁寧に包まれていた。きちんと封もしてある。
敦子はそれを受け取り、半紙をきれいにはがして中を見た。
中にあったのは小さなノートだった。
「失礼します」
そういって敦子はノートを開いた。
それはどうも郷土史家の男性が、資料を集めるときに協力してもらった人の氏名・年齢や聞いた日時、内容がメモしてあった。
そして一番下には、亡○○年と書かれていた。
たぶん協力をお願いした人がなくなった年なのだろう。
ぱらぱらとめくっていく。
どのページも同じようだった。
気づけば林も女性もそのノートを覗き込んでいた。
「よかったわ、資料なのね。これを父から渡されたとき、すごく中身が気になったの。でも父は、資料の一部だからっていうだけなのよ。
しかも女性に渡してほしいっていうから誰なの?って聞いたの。そしたらね、たぶん来るはずだけど、もし来なかったら、来るまで持っててくれっていうのよ。知らない人だっていうの。びっくりでしょ。
あの時には、ボケちゃったのかと思ったわ。でも今日本当にいらしてびっくりしたの。それにね、ほっとしたの。女性って聞いた時、もしかして愛人の子か愛人さんが来るのかしらと思ってたから」
そういって女性は笑った。
そのあとゆっくりお茶とお菓子をいただいて、お礼を言い家を後にした。
林と車に乗り込むと林はなぜか神妙な顔をしていった。
「さっき見たノートだけど、ちょっと気になることを見つけたんだ。もう少し見せてほしいんだけど。ファミレス寄っていい?」
林はぱらぱらとちょっと見ただけなのに、何を見つけたんだろうか敦子はすごく気になったのだった。




