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彼岸回帰録~巻き戻った世界が人外魔境だった件~  作者: 瑠衣
序章

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5話 学校と旧友

 中学校へ登校するのは、十三年ぶりだった。


 大人として生きていた自分が、再び制服を着て通学路を歩くことになるなど、誰が想像できただろう。


 肩に掛けた学生鞄の重みも、首元を締める詰襟の感触も懐かしい。

 道の先には、記憶に残る校舎の屋根が見えていた。


 けれど、その足取りは自然と慎重になる。


 昨日、化け物に襲われたばかりだ。

 いつまた現れるかわからない以上、外を歩くことへの不安は拭えなかった。


 行き交う生徒達の声を聞きながら、周囲へ目を配る。


 今のところ、あの鼻を刺す腐臭はない。

 異形の姿も、黒い煙のようなものも見当たらなかった。


 学校はもうすぐそこだ。


 このまま、何も起こらなければ——。


「よっ、はーやとっ」


 声と同時に肩を叩かれ、心臓が大きく跳ねた。


「うわっ⁉︎」


 反射的に振り返る。


 そこには、懐かしい顔があった。


「驚かせるなよ、浩透」

「お、おう。悪い。そこまで驚くとは思わなかった」


 浩透は面食らったように目を瞬かせた。


 九重浩透。


 小学校から付き合いのある、いわゆる腐れ縁だ。


 無造作に跳ねた黒髪に、琥珀色の瞳。

 気怠げな雰囲気を纏っているが、実際は面倒見がよく、昔から何かと俺を気に掛けてくれていた。


 記憶にある姿よりも、当然ながら幼い。

 けれど、少し眠たそうな目つきも、力の抜けた佇まいも、あの頃と何も変わらなかった。


 もう二度と会えないと思っていた。


 高校時代に亡くなった浩透が、今、目の前に立っている。


 わかっていたはずなのに、実際に姿を見ると胸の奥が詰まった。

 言葉を返すだけで、声が震えてしまいそうになる。


「心臓が止まるかと思った」

「大袈裟だな。わりい、わりい」


 浩透は困ったように頭を掻いた。


 その何気ない仕草に、記憶の中の浩透が重なった。


 見つめすぎれば不審に思われそうで、俺は浩透から視線を外した。


「それより、もう体調はいいのか?学校に来てるってことは、熱は下がったんだよな?」

「うん。もう大丈夫。ほら、この通り元気だよ」


 心配させないよう、両腕を軽く広げてみせる。


 昨日、化け物から逃げ回ったせいで足にはわずかな疲労が残っている。

 けれど、熱はない。学校生活を送る分には問題ないはずだ。


「そうか。ならよかった」


 浩透はほっとしたように表情を緩め、俺の隣へ並んだ。


 二人で学校へ向かって歩き始める。


 何度も繰り返したはずの登校風景。

 当時は何とも思わなかった時間が、今はかけがえのないものに感じられた。


「それにしても、お前が何日も寝込むなんて珍しいよな。ばあさんから高熱が続いてるって聞いた時は、さすがに心配したぞ」

「俺だって、たまには風邪くらい引くよ」

「三日も寝込んでおいて、たまにで済ませるなって」


 苦笑しながら答えたものの、浩透はまだ納得していないようだった。


「無理してないだろうな?」

「してないって」


 浩透は疑わしそうに俺の顔を覗き込んでくる。


「また調子が悪くなったら、すぐに言えよ」

「わかってる。浩透も、ばあちゃんと同じようなこと言うんだな」

「俺もお前のばあさんも、心配して言ってるんだ。こういう時くらい、素直に聞いとけ」


 少し鬱陶しいほどに世話を焼いてくるところも、昔のままだ。


「うん。気をつけるよ」

「それならいい」


 隣を歩く浩透の姿に、あの日の記憶が蘇る。


 あれは、不幸な事故だった。

 どうして、あの日、あの場所に一緒にいなかったのか。

 何度悔やんだかわからない。


 けれど、時間が巻き戻ったのなら、浩透が死ぬ未来も変えられるかもしれない。


 今度こそ、必ず——。


「どうした?」


 不意に声を掛けられ、我に返る。


「え?」

「急に黙ったからさ」

「ああ、ごめん。まだ少し寝惚けてるみたいだ」


 適当に誤魔化すと、浩透は呆れたように肩を竦めた。


「ちゃんと起きてから学校に来いよ」


 今はまだ、何も話せない。

 どうすれば浩透を救えるのかもわからない。


 それでも、再び与えられたこの時間を、決して無駄にはしたくなかった。


 軽口を交わしているうちに、校門へ辿り着く。


「おはようございます!」


 校門前に立つ生徒達の元気な挨拶が、朝の空気に響いていた。


 こちらも挨拶を返しながら校内へ入る。


 春先の冷たい空気。

 次々と登校してくる生徒達の足音。

 土と若葉の匂いに混じる、校舎特有の乾いた埃の匂い。


 そのどれもが、記憶の底に残る中学校そのものだった。


「そういえば、今日の数学、小テストをやるらしいぞ。お前が休んでた間に進んだ範囲だから、あとで教えようか?」

「小テストか……。範囲だけ教えてくんない?昨日、休んでたところは一応見直したから、多分大丈夫だと思う」

「わかった。教室に着いたら見せるよ」


 校舎へ入り、下駄箱の前で上履きに履き替える。


 学校までの道順は覚えていた。

 だが、校内の構造となると、記憶はかなり曖昧だ。


 自分の教室がどこにあったのかさえ、すぐには思い出せない。


 不自然に思われないよう、浩透の少し後ろを歩く。

 廊下には、生徒達の話し声が絶え間なく響いていた。

 教室の扉が開くたび、机を動かす音や笑い声が漏れてくる。


 当時は騒がしいとしか感じなかったはずなのに、今はその一つ一つがひどく懐かしい。


 何気なく通り過ぎた掲示板。

 窓から見える校庭。

 廊下の端に立て掛けられた掃除用具。


 忘れていたはずの景色が、次々と記憶の中に蘇ってくる。


「——それでさ……って、お前、聞いてるか?」

「え?ああ、ごめん。少しぼんやりしてた」


 すっかり話を聞き逃していた。

 軽く謝ると、浩透は眉を寄せた。


「おいおい。やっぱり、まだ本調子じゃないんじゃないか?」

「そうかもしれない。もう一度話してくれる?」

「仕方ねえな。だから、昨日の国語で——」


 浩透は最初から話し直してくれた。

 その声に耳を傾けながら、今度は聞き逃さないよう隣を歩く。


 やがて教室へ着いた。

 扉を開けると、朝の賑わいが一気に押し寄せてくる。


 窓から差し込む日差しが、規則正しく並んだ机を照らしていた。

 教室のあちこちで生徒達が集まり、笑い声を上げている。


 教室にいるのは、見知った顔ばかりだった。


 名前を思い出せる者もいれば、顔に見覚えがあるだけの者もいる。

 記憶の中では大人になっていた同級生達が、まだ幼さの残る制服姿でそこにいた。


「桐生くん、もう大丈夫なの?」

「四日も休んでたから心配したぞ」

「熱、かなり高かったんだって?」


 席へ向かうまでに何人もの同級生から声を掛けられ、そのたびに大丈夫だと答える。


 皆にとって、俺が休んでいたのはたった数日だ。

 けれど、俺にとっては十三年ぶりの再会になる。


 胸の内にある感慨を悟られないよう、できるだけ普段どおりに振る舞った。


 問題は、自分の席がわからないことだった。


 記憶を頼りに教室を見回すが、どうにも思い出せない。


 机の側面には、名前の書かれた札が取り付けられていた。

 一つずつ確かめ、ようやく自分の名前を見つける。


 窓際から二列目。

 前から四番目の席だった。


 鞄を机の横へ掛けていると、自分の荷物を置き終えた浩透が近づいてきた。

 腕には、何冊ものノートを抱えている。


「数学の小テストは、ここから次のページの最後までだ」


 浩透が教科書を開き、該当する範囲を指でなぞる。


「二時間目だから、わからないところがあったら休み時間にでも聞いてくれ」

「ここからか。ありがとう。これなら大丈夫かな」


 教科書を閉じようとしたところで、浩透が抱えていたノートを机の上へ重ねて置いた。


「それと、これ。お前が休んでた分のノート。俺のでよければ使ってくれ」

「これ、今日の授業にない科目まであるじゃん。全部貸してくれるの?」

「ああ。四日分あるから、それなりの量だけどな」


 ノートを一冊手に取る。


 授業の内容だけでなく、教師が口頭で補足したことまで細かく書き込まれていた。

 自分のために、わざわざ科目ごとに揃えてくれたのだろう。


「助かる。空いてる時間に写すよ」

「急がなくていいぞ。週明けに返してくれればいいから」

「ありがとう」

「気にすんな。じゃあ、またあとでな」


 浩透は軽く手を振り、自分の席へ戻っていった。


 昔から、こういうところは妙に気が利く。


 一時間目は英語、二時間目は数学だ。

 ひとまず、その二冊から先に写しておこう。


 新しいノートを開き、浩透の文字を書き写していく。


 内容そのものは、中学二年生の範囲だ。

 一度学んだことではあるが、十三年も前となれば忘れているものも多い。


 英語の例文を書き写し、数学の公式へ目を通す。

 社会人になってから使う機会のなかった知識が、少しずつ記憶の底から浮かび上がってくる。


 しばらくすると、教室の前方に教師が現れた。

 朝のホームルームを知らせる鐘が鳴る。


 懐かしい音を耳にしながら、俺は顔を上げた。


——


 帰りのホームルームが終わると、教室は一気に騒がしくなった。


 椅子を引く音。

 部活動へ向かう生徒達の声。

 机の間を走り抜ける足音。


 気づけば、一日は驚くほど早く過ぎていた。


 久しぶりに受ける中学校の授業は、不思議な感覚だった。


 既に知っている内容もあれば、すっかり忘れていたものもある。

 教師の顔や口癖をきっかけに、当時の記憶が蘇ることもあった。


 数学の小テストは、特に問題なく解けた。

 ほかの授業でも困ることはなかったが、休み時間も使ってノートを書き写していたせいで、右腕には鈍い疲労が残っている。


 それでも、借りていたノートはすべて写し終えた。


 席を立ち、科目ごとに揃えたノートを浩透の机へ置く。


「浩透、ありがとう。全部写し終わったよ」

「お、もう終わったのか?」


 浩透はノートの束へ目を落とし、驚いたように俺を見た。


「休み時間も使ったからな。助かったよ」

「病み上がりなのに、無理して終わらせなくてもよかったんだけどな」

「このくらいなら平気だよ」


 そう答えると、浩透はわずかに眉を寄せたものの、ノートを鞄へしまった。


「ならいいけど。次は休まないように気をつけろよ」

「善処するよ」

「そこは言い切れ」


 呆れたような声に、思わず笑みが漏れた。


「俺、委員会に行ってくるわ」

「ああ。今日はマジでありがとな」

「おう。じゃあな」

「またな」


 浩透は片手を上げ、教室を出ていった。

 その後ろ姿が扉の向こうへ消えるまで見送る。


 十三年ぶりに交わした、何気ない会話。


 かつて当たり前だった日常が、こうして戻ってきた。


 今度は、浩透を死なせない。


 けれど、そう決意したところで、何をすればいいのかはわからなかった。


 高校時代、浩透に何が起きたのか。


 事故に遭ったことは知っている。

 だが、詳しい状況まではわからない。


 今の俺が知っているのは、それだけだった。


 未来が同じように進むとは限らない。

 それでも、何も知らないまま同じ日を迎えることだけは避けたかった。


 鞄を手に取ろうとしたところで、昨日考えていたことを思い出す。


「……そうだ、篠原さん」


 教室を見回す。

 窓際では、数人の女子が机を囲んで話し込んでいる。

 廊下側では男子達がふざけ合い、その横を部活動へ向かう生徒が足早に通り過ぎていった。

 けれど、探している姿はない。


 篠原雪。


 同じ教室にいたはずだが、授業中は意識して見る余裕がなかった。

 帰りのホームルームが終わると、すぐに教室を出たのだろう。


 確か、篠原さんは生徒会に所属していたはずだ。

 仕事があるなら、もう生徒会室へ向かったのかもしれない。

 追いかけてまで呼び止めるのも迷惑だろう。


「今日は無理か……」


 小さく息を吐く。


 昨日の化け物について尋ねるなら、ほかの生徒に聞かれない場所の方がいい。

 機会を改めるしかなさそうだ。


 週末は、なるべく外出しないでおこう。

 家の中まで襲ってくるのかはわからないが、少なくとも昨日のように街中で鉢合わせする危険は減らせる。


 鞄を肩へ掛け、教室をあとにした。


——


 校門の近くまで来た時だった。


「颯斗ーっ!待ってー!」


 背後から、聞き慣れた声が飛んでくる。


 振り返ると、一人の女子生徒がこちらへ駆けてきていた。


 紫がかった長い黒髪が、走るたびに背中で揺れている。

 少し気の強そうな目元には、記憶にある姿よりも幼さが残っていた。


「お、紗奈。久しぶり」


 天鬼紗奈(あまきさな)だ。


 隣の家に住む幼馴染だ。

 物心がついた頃から、家族同然に一緒に過ごしてきた。


 俺にとっては、十三年ぶりの再会。


 けれど、紗奈にとっては、たった数日ぶりだ。


「久しぶり、じゃない!」


 俺の前まで駆けてきた紗奈は、息を弾ませながら頬を膨らませた。


「学校に来るなら、どうして教えてくれなかったの?ずっと心配してたんだからね」

「あ……ごめん。久しぶりの学校で、朝は余裕がなくて」

「隣に住んでるんだから、一言くらい言えるでしょ?」


 言い返す余地もなく、苦笑しながら頷く。


「そうだな」


 紗奈はまだ何か言いたそうにしていたが、やがて諦めたように肩を落とした。


「でも、心配してくれてありがとう」

「当たり前でしょ」


 紗奈は少し頬を赤らめ、そっぽを向いた。


 そのまま俺の隣へ並び、二人で校門を出る。


「今度から、体調が悪い時に無理して学校へ来るのはやめてよね。学校で倒れたら、元も子もないんだから」

「わかってる。もう無茶はしないよ」


 紗奈はじっと俺を見つめ、わずかに眉を吊り上げた。


「信用していいの?」

「大丈夫だって」


 どうやら、倒れる前の俺は熱があるにもかかわらず、無理に登校したらしい。


 その結果、学校で倒れ、三日間も寝込むことになった。


 だが、その理由が思い出せない。


 熱があることに気づかなかったのだろうか。

 いや、三日も寝込むほどの高熱なら、朝から何らかの自覚症状があったはずだ。


 それほど体調が悪いとわかっていながら、無理をしてまで登校する理由があったのだろうか。


 成績に関わる試験。

 提出期限の迫った課題。

 あるいは、誰かとの約束。


 思い出そうとする。


 けれど、事故の前後の記憶と同じように、倒れる直前の出来事には薄い靄が掛かっていた。

 手を伸ばせば届きそうなのに、肝心なところだけが掴めない。


「なあ、紗奈」

「何?」

「俺が倒れた日、何か言ってたか覚えてる?」


 唐突な質問に、紗奈は目を瞬かせた。


「何かって?」

「熱があるのに、どうしても学校へ行くって言ってた理由。俺、何か大事な用事でもあったのかな」


 紗奈は歩きながら、記憶を探るように首を傾げた。


「うーん……」


 やがて、何かを思い出したらしく顔を上げる。


「そういえば、体力測定がどうとか言ってた気がする」

「体力測定?」

「うん。あの日、体育の授業で体力測定があったでしょ。結局、颯斗は倒れたから延期になったけど」


 予想外の答えに、思わず眉を寄せる。


「まさか、それを受けるためだけに学校へ行こうとしたの?」

「そうだよ」


 あっさりと肯定された。


 俺はそこまでして、体力測定を受けたかったのだろうか。


 後日、一人で受けるのが嫌だったのか。

 それとも、単に学校を休みたくなかっただけなのか。


 どちらにしても、三日も寝込むほど無理をする理由としては弱い気がした。


「みんな、心配してたけど呆れてもいたよ。体力測定くらい、後日でも受けられるのにって」

「……それは申し訳ない」


 居たたまれなくなり、視線を逸らす。


 そんな俺を見て、紗奈はくすりと笑った。


「まあ、颯斗って昔から変なところで頑固だしね」

「否定できないな」


 だが、紗奈はすぐに真剣な表情へ戻った。


「でも、おばあちゃんに心配を掛けるのだけはやめなよ」

「うん」

「颯斗が倒れたって聞いて迎えに来た時、すごい顔をしてたんだから。泣きそうなくらい慌ててた」


 昨日のこともある。


 目を覚ましたばかりで勝手に家を飛び出し、ばあちゃんを不安にさせた。

 あの時は、今の街を自分の目で確かめることしか考えていなかった。


 再び会えたばあちゃんを、二度と失いたくない。


 そう思っているのに、俺の行動がばあちゃんを苦しめている。

 これからは、自分一人の都合だけで動くべきではない。


「……わかってる。もう心配させないようにするよ」

「ちゃんとわかってる?」


 念を押すように見つめてくる紗奈に、今度は迷わず頷く。


「わかってるよ」

「ならいいけど」


 紗奈はようやく表情を和らげた。


 それからは、学校のことや近所のことを話しながら歩いた。

 俺が休んでいる間に起きた出来事。

 駅前にできた店。

 近所で飼われ始めた犬。

 どれも他愛のない話ばかりだった。


 こうして紗奈と並んで歩いていると、十三年という時間が嘘のように感じられた。


 大人になってからも、幼馴染としての付き合いは続いていた。

 だが、仕事を始めてからは互いの生活も変わり、顔を合わせる機会は少なくなっていた。


 毎朝のように会い、一緒に帰ることが当たり前だった日々は、いつの間にか遠い記憶になっていた。


 今は、その日常が目の前にある。


 やがて、自宅の門が見えてきた。


「じゃあ、私はこっちだから」

「うん。じゃあ、月曜に」


 紗奈は自宅の門へ向かいかけたものの、何か思い出したように振り返った。


「そうだ。週末はちゃんと休んでよね」

「ああ、家で大人しくしてるよ」

「約束だからね?」

「分かってるって」


 ようやく納得したのか、紗奈は小さく笑った。


「じゃあね、颯斗」

「またな」


 軽く手を振り、隣の家へ入っていく紗奈の背中を見送る。


 相変わらず、世話焼きな幼馴染だ。

 けれど、その変わらなさが嬉しかった。


 紗奈の姿が門の向こうへ消えたところで、俺も自宅へ向かう。


 幸い、今日は化け物に遭遇しなかった。

 何事もなく学校へ行き、懐かしい友人達と話し、無事に帰ってくることができた。


 それだけで、昨日までの出来事が悪い夢だったように思えてくる。


 けれど、夢ではない。


 過去へ戻ったことも。

 昨日、あの化け物に追われたことも。


 すべて現実だ。


 篠原さんには話せなかった。

 飛翠さんとも、今日は会えていない。


 答えは、まだ何一つ見つかっていなかった。

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