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一家全員、処刑確定!? 悪役令嬢の妹のはずでした   作者: うり北 うりこ@ざまされコミカライズ開始


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守りたいもの⑤


  ***


「お久しぶりです」


 そう言いながら、頭を下げる。

 目の前には、父の仕事仲間であり、私の茶飲み仲間でもある国の重鎮三人が座っている。

 私の横にはアリウムが腰掛け、その後ろにはカルナ様が立つ。


「久しいな」

「元気だったかの?」

「公爵は変わらずかな?」


 以前と同じ優しい笑みに、肩の力が抜ける。


「はい。私も父も元気にしています。本日はお時間をいただき、ありがとうございます」

「ミルベラ嬢の頼みだからな」

「事前に分かっていれば、スイーツを用意したのだが。何もなくて、すまないね」


 三人は目尻のシワを深くさせながら話す。


「さて、用事というのは何かな? お茶会なら、手紙をくれれば良いだろう?」


 けれど、その一言で雰囲気は重くなる。

 眼差しからは温かさが消え、室内の温度が下がった気がした。冷たくなった指先を握り込む。


「お察しかと思いますが、飢饉対策について殿下にお話したのは私です」

「ミルベラ」


 咎めるようなアリウムの声に小さく首を横に振る。


「もうとっくに私がしていることを調べられているはずですから。いくら可愛がってくれていようと、私情を挟む方々ではありません」

「自ら話すのと、調べられたのでは、事実の重みが違う」

「そうでしょうか。出る答えは同じなのですから、そこの重さは変わりませんよ。変わるとしたら、私への印象くらいなものです」


 あとは、覚悟を決めやすいことくらい。


「皆様のお力をお借りできないでしょうか。お願いいたします」


 頭を下げれば、部屋に沈黙が落ちた。

 目の前の三人から向けられる視線が突き刺さる。


「ミルベラ嬢、顔を上げなさい。まず結論から言うが、今の状況で我々が力を貸すことはない」

「……それは、絶対ですか?」

「そうだ」


 まぁ、そうだよね。

 三人は、飢饉が起こるなんて思っていないだろうし。起こるとしても、遠い未来だと考えているだろう。

 けれど、ここで諦めるわけにはいかない。


「飢饉は、いつかは必ず起きます。天災や疫病、害虫……、過去の記述を少し探しただけでも、すぐに出てきました。それなのに、対策は不十分なままです」

「国の施策を問題視するのかな?」


 ──っ。心臓が縮むかと思った。

 感情を見せない三人の視線から逃げたいけれど、逸らしたら話を聞いてもらえなくなる。そんな気がしてならない。


「違います。できることは、今からでも始めるべきではないでしょうか」

「ほぅ。それが今回の飢饉対策というわけかの」

「はい」

「案は良かった。だが、備蓄をするには人も金も場所も必要だ。品質保持一つとっても容易ではない。無駄にすれば、国庫への損失は莫大となる」

「加えて、成果が見えなければ、殿下の失政と見なされるでしょうな」


 わかってる。

 飢饉が来なければ、それは成功ではなく、無駄遣いと批判されるだろう。

 けれど、来る可能性が高いのだ。


「とにかく性急すぎる。それが分からない殿下とミルベラ嬢ではないよな?」

「……はい」

「ならば、もう少し手順を踏みなさい」


 悔しさに唇を噛む。

 何か、何か説得する強い理由さえあれば……。


「急いだことに関して、ミルベラは関係ないよ」


 …………え?

 驚いてアリウムを見れば、涼しい顔で言葉を重ねている。


「案を出したのは、たしかにミルベラだ。けれど、押し進めたのは俺の独断だからね」

「何を言って……」

「だから、この全責任は俺が負う。それで何も問題はないだろう?」


 なん……で…………。

 さっき謝ってくれたばかりなのに。

 それなのに、もう自分を盾にして私を守ろうとするの?


 ギュッと握りしめた自分のこぶしが目に入る。

 真っ白で、強く握り込んだことで小さく震えている。


「私が、アリウムに無理を言いました」

「ミルベラ!?」


 強く肩を摑まれ、アリウムの方を見れば、驚きに見開かれた藤色の瞳が私を捉えていた。

 不安げに揺れるそれに、口の端を上げる私が映っている。


「責任の所在が必要なら、私がもらいます。これでもいちおう、悪女なので」


 もう評判は落ちている。

 どのみち上手く行かなければ、私を悪としたがる人が増え、それが世論となるのだ。

 ならば、最初からすべて受け取ってしまえばいい。


「誓約書、守ってくださいね」


 私の行いは家に責任を問わず、私個人の問題として扱う。

 あの約束があるから、何があっても、公爵家に罪は向かわない。

 誓約書のおかげで腹をくくれる。


「……守らない。ラットゥース公爵家に責任は問わないが、ミルベラの問題としても扱わない」

「話が違います」

「そんなことはない。これは、俺が国家として主導していることだ」


 アリウムが言い終わる前に、私は重鎮たちへと視線を戻す。

 国としての損失だけじゃない。

 急な備蓄は他国とのバランスを崩す可能性だってある。そこに責任が発生するのは当然だ。


「……私の命で全責任を取ることは難しいですか?」


 三人が渋い顔をする。


「結論から言えば、ミルベラ嬢の首一つでは足りんな」

「そもそも、公爵令嬢一人に責任を取らせることが無理だしのう」

「責任を取ると言うのであれば、ラットゥース公爵家か、殿下とだろう」


『ラットゥース公爵家は、処刑された』

 小説の一文が、頭をよぎる。


 選べばいい。

 迷う必要もない。

 最初から家族だけは絶対に守ると決めていたのだから。


 あぁ、息がうまく吸えない。

 吸っているはずなのに、苦しい。


「わ、私は──」


 早く、言わないと。

 公爵家は関係ないことだって。

 アリウムと背負うと──。


「だから、俺一人で責任を取ると言っているだろ。俺なら、命をかける必要もない」


 温かい手が背中に触れ、息ができた。

 アリウムが触れているところから体温が広がっていく。


「ですが、殿下は信用を完全に失います。王位継承から外れる可能性も少なくありません」

「問題ない。俺が自分で選んだことだ」


 迷いなく、アリウムは言い切った。


 アリウム、ごめんね。

 何であなたが一人で背負おうとしてくれるのか、やっと分かったよ。


「待ってください」


 ほんの少し声が震えた。


 守ろうとしてくれるのに、私はあなたを選べない。

 ごめん……。ごめんなさい。


 だけど、あなたを一人にはしない。


「私も一緒に背負います。アリウムと二人で」


 アリウムは、王族としての立ち場を賭けてくれた。

 なら、私は命を賭ける。


 私とアリウムの命の重みは違う。

 私の命より、アリウムの王族としての立ち場の方が重い。

 比重なんて取れないけど、それでも私に出せる一番大きいものが(これ)だから。



 


 

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