第四十三章: 無色の王子。
朝のギルドホールは、より賑わっていた。
冒険者たちが、行き来していた。そのブーツは、石の床を重く踏みしめ、その声は、決して真に眠ることのない場所の絶え間ないハミングに重なっていた。カエデと私は、ドアをくぐったばかりの時、彼らを見つけた。
アルブルナが、部屋の向こう側から手を振った。アデルグントは、彼女の隣で、依頼板を調べていた。アヴェルヒルダは、近くに立ち、槍を肩に担いでいた。
私たちは、彼らの方へ向かった。私たちが近づくと、アルブルナの顔が、輝いた。
「来たんだね!」
私は、微笑んだ。「行くかもしれないって、言っただろ」
彼女は、笑った。「うん。でも、来てほしかったんだ」 彼女は、板に向かって手をかざした。「ちょうど、依頼を見てたところだ。一緒に受けたい?」
カエデが、私を見た。私は、うなずいた。
「見てみよう」
五人で、依頼板の周りに集まった。様々な色と大きさの紙が、その表面を覆っていた。きちんとしていて正式なものもあれば、色あせて破れているものもあった。私たちは、一緒にそれらをスキャンし、声に出して読み、話し合った。
アルブルナは、中央近くの一枚を指さした。
Cu依頼
魔獣駆除 ― 旅人の道.
数人の旅人が、町の外の道に沿って、人々を襲う魔獣がいると報告している。ギルドは、誰かが重傷を負う前に、魔獣を駆除することを望んでいる。
アデルグントは、彼女の肩越しに読んだ。「簡単そうだね」
アヴェルヒルダは、うなずいた。「似たような依頼は、やったことがある」
カエデは、紙を調べた。「道は、ここから半日ほど歩いたところだ。真昼には、着けるだろう」
私は、他の者たちを見た。「皆、賛成か?」
アルブルナは、にっこり笑った。「もちろん」
アデルグントとアヴェルヒルダも、うなずいた。
カエデは、私を見た。「行こう」
私は、板から紙を取り、カウンターの方へ向きを変えた。
「なら、行こう」
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道は、前方に伸びていた。広く、埃っぽく、収穫され、休息のために放置された畑に、挟まれている。朝の日差しは、肩に温かかった。人形は、私の隣を歩き、そのボタンの目は、前方に固定されていた。
アヴェルヒルダが、私を見た。「あなたの属性は?」
私は、何も言わなかった。
その問いは、単純だった。冒険者は、よく尋ねる。それは、誰かの能力を理解し、戦いで何を期待するかを知る方法だった。しかし、それはまた、重みを帯びた問いでもあった。私の村から妖精界、そして今、この道まで、私に付きまとってきた問い。
ためらった。
アルブルナが、気づいた。「答えたくないなら、答えなくていいよ」
他の二人は、私を見た。その好奇心は、アルブルナの言葉で、和らげられていた。
その時、アデルグントが話した。「私が先に行くよ」 彼女は、手を差し出した。小さな炎が、彼女の指の間で、揺らめいた。「火だ。まだ大したことないけど、学んでいるところだ」
アヴェルヒルダは、槍で地面を軽く叩いた。小さな石が、彼女のブーツの下に持ち上がり、それから、元の場所に戻った。「土だ。戦いで体勢を整えるのに便利だ」
アルブルナは、微笑んだ。小さな水の球体が、彼女の掌の上に形成され、光を捉えた。「水だ。思っているより、用途が広い」
彼らは、カエデの方へ向いた。
彼女は、簡潔に答えた。「風だ」小さなそよ風が、彼女の周りの空気を揺らし、外套の端をざわめかせた。他の者たちは、うなずいた。彼らが自分の属性を受け入れたのと同じように、たやすく。
それから、皆が、私の方へ向いた。
沈黙。
これ以上、その問いを避けられないことに気づいた。彼らは、率直に自分の属性を共有した。彼らは、私の先のためらいを、圧力なく受け入れた。しかし、今、その問いは、空気の中に漂い、私が答える番だった。
「無色です」 私は言った。
彼らは、困惑した。
「色がないんです」
アルブルナの眉が、ひそめられた。「でも……あなたは、異なる元素を使えるんでしょ?」
うなずいた。「はい。全てです」
アヴェルヒルダは、凝視した。「全て?」
私は、再びうなずいた。
アルブルナの目が見開かれた。「全属性を使える人なんて、聞いたことがない」
アヴェルヒルダの表情が、変わった。彼女は、考えていた。その視線は、遠くに。
「古い伝説がある」 彼女は言った。「王子についての」
私は、彼女を見た。「王子?」
「色を持たずに生まれた」 彼女は、間を置き、その言葉を心に落ち着けさせた。「無色の」
アデルグントは、眉をひそめた。「それ、聞いたことがある。でも、ただの話だと思ってた。子供に聞かせるような」
アヴェルヒルダは、首を振った。「私の祖母は、違う語り方をしていた。彼は、ただの話じゃないと言っていた」 彼女は、私を見た。「伝説によると、彼は、全ての元素属性を使うことができた」
アルブルナは、疑わしそうだった。「それは、ただの伝説だと思ってた」
アヴェルヒルダは、肩をすくめた。「私もそう思ってた」 それから、彼女は私を見た。「今までは」
その言葉は、空気の中に漂った。
何と言えばいいのか、わからなかった。その伝説には、王子がいた。色を持たずに生まれた王子。全属性を使うことができた王子。
まるで、私のように。
その考えは、招かれずに、浮かび上がった。しかし、私は、それを押しのけた。ただの話だ。何かを意味する必要はない。
アルブルナが、沈黙を破った。「彼は、どうなったの? その王子は?」
アヴェルヒルダの表情が、変わった。「誰も知らない。伝説は、そこで終わる。彼は、ただ……姿を消した」
アデルグントが、口を挟んだ。「たぶん、彼は、理解されることを意図していなかったから、伝説になったんだ。物語には、そういうものがある」
私は、前方の道を見た。伝説。無色の王子。
カエデは、私の表情に気づいたが、遮らなかった。彼女は、ただ、私の隣を歩いた。
それから、彼女は話した。「エルスベスは、まだ自分自身について学んでいるところだ。しかし、あなたたちが森で見たものは、本物だった」
アヴェルヒルダは、私を見た。その先の畏敬の念は、より慎重な何かで、和らげられていた。「もし、あなたが無色なら、あなたは、ただの冒険者以上のものだ」
私は、首を振った。「私は、まだ冒険者だ。まだ学んでいるところだ。自分が何になるべきか、まだ見つけているところだ」
沈黙が、続いた。その時、アルブルナが、微笑んで、緊張を解いた。「まあ、あなたが何であれ、あなたは、私の命を救った。それで、十分だ」
アデルグントは、うなずいた。「私もだ」
アヴェルヒルダは、もう少しの間、黙っていた。それから、彼女は言った。「祖母は、無色は伝説だと言っていた。彼らは、ずっと前に姿を消したと言っていた」 彼女は、私を見た。「もし、あなたがその一人なら、あなたがここにいるのには、理由がある」
その理由が何なのか、わからなかった。しかし、彼女が正しいことは、わかった。
私たちは、道を進み続けた。
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前方の道は、最近の襲撃の痕跡を示していた。
壊れた荷車が、道端に横転していた。爪痕が、木々に刻まれていた。深い溝が、樹皮に切られていた。物資は、放棄されていた。ここに裂けた背負子、そこに落ちた水筒。地面は、人間のものではない足跡で、荒れていた。
アデルグントが、先頭に立った。その手は、刀の上に置かれて。アヴェルヒルダは、周囲をスキャンした。槍を構えて。アルブルナの指が、動き、魔法を準備した。
カエデの声は、静かだった。「警戒を怠るな」
うなずいた。人形は、私のより近くに立つために動いた。そのボタンの目は、前方に固定されていた。
私たちは、慎重に、警戒しながら、前に進んだ。
道は、襲撃されていた。襲撃者たちは、まだどこかにいる。そして、私たちは、彼らに向かっていた。
その時、私は、ひざまずき、掌を地面に押し付けた。
残響振動が、私の意識の下で、開いた。最初は、何もない。ただ、大地の普通の脈動。根と小さな生き物たちの、遠くの動き。
その時……動き。
複数の生き物。それらは、木々の下から、近づいていた。その足音は、重く、意図的だった。人間ではない。動物でもない。別の何か。
目を開けた。「来る」
皆が、準備した。刀、槍、杖、魔法、全てが準備できた。
アヴェルヒルダは、感心したように見えた。「彼らを感知したの?」
うなずいた。少女たちは、互いに顔を見合わせた。彼らの理解が変わったのが、わかった。
その時、インク壺が、私の前に現れた。
黒い磁器。狭い縁。浮いている。同じ見慣れた形。同じ静かな存在感。私は、それを召喚したわけではなかった。考えることさえしなかった。それは、ただ、そこにあった。私と前方の道の間の空中に、浮かんで。
しかし、壺は、解放した。
インクが、縁から注ぎ出された。滑らかで、暗い流れ。星明かりの青が、織り込まれて。滴りではない。ためらいがちな流れでもない。着実で、自信に満ちた奔出。地面が開くのを待っていた泉からの水のように。
インクは、私の方へと曲がった。導かれる必要はなかった。それがどこにいるか、知っていた。私の形を知っていた。私の構えを知っていた。ブロックをしようとしている時の、私の肩の位置を知っていた。それは、私を知っていた。
それは、私の周りに落ち着いた。
待機状態の鎧が、戻った。無重力で、漂い、星の粒子が、深い青の中に浮かんでいる。以前と同じ。同じ流れ。同じ存在感。同じ静かな意識。
アルブルナは、私の周りに具現化した鎧を凝視した。その目は、見開かれていた。
「それも、あなたの魔法の一つなの?」 彼女は、ささやいた。その声は、開けた場所の静けさの中で、かろうじて聞こえた。
私が答える前に、魔獣が、襲いかかった。
それは、林縁から飛び出した。牙と怒りの残像。その注意は、アルブルナに固定されていた。彼女は、凍りついていた。水の魔法は、半分形成され、その身体は、反応と衝撃の間で、捕らえられていた。
私は、動いた。
既に私の周りに落ち着いていたインクは、私の動きと共に、変化した。予期して、流れて。私は、アルブルナと突進する獣の間に、足を踏み入れた。Gペンは、既に手の中にあった。
円が、形成された。火。練習室の制御された炎ではない。もっと鋭く、もっと即時的。熱の壁が、魔獣を後退させた。
それから風。それをバランスを崩させた。
インクの鎧は、獣が私に襲いかかった時、衝撃を吸収した。爪が、硬化した表面を引っかいた。その力を感じたが、インクは、持った。
アデルグントは、瞬時に、私の隣にいた。その刀が、魔獣の注意を引いた。アヴェルヒルダの槍が、それを後退させた。カエデの風が、それをアルブルナの水へと押しやり、それは、立ち上がり、打撃を与えた。
魔獣は、倒れた。
私は、そこに立った。息を切らして。インクは、まだ私の肩の周りを流れている。アルブルナは、私を凝視した。その表情は、衝撃から、別の何かへと変わっていた。畏敬、おそらく。あるいは、理解。
「また、助けてくれた」 彼女は言った。
私は、首を振った。「私たちは、互いに助け合った」
インクは、柔らかくなり、待機状態の漂いに戻った。
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それが決して一匹ではなかったことを、知るべきだった。
木々から、さらに多くの魔獣が現れた。
彼らは、肩を前に出した、転がるような歩き方で動いた。その牙は、前方の空気を掃く。最も大きなものは、私の肩の高さだった。最も小さなものでも、私が今まで描いたどの猪よりも大きかった。彼らは、知性とは言えないが、本能とも言えない目的で、動いた。
アデルグントが、最初に動いた。
彼女の火が、先頭の魔獣を捕らえ、後退させた。アヴェルヒルダが、後に続いた。彼女の土の魔法が、石の壁を上げ、他の魔獣たちの方向を変えた。アルブルナの水が、障壁を形成し、前進を遅らせた。カエデの風が、開けた場所を吹き抜け、彼らの陣形を崩した。
アデルグントは、前線に移動した。その刀は、大きく弧を描いて振られた。アヴェルヒルダは、槍を構え、後に続く準備をした。
私は、Gペンを掲げた。
火。風。水。 円が、次々と形成された。それぞれが、魔獣たちを後退させ、私たちに空間を買った。しかし、彼らは、止まらなかった。その数は、多すぎた。その耐久力は、大きすぎた。
止まった。
(光と闇を試してみては?)
その考えは、どこか深いところから浮かび上がった。妖精王の教えの記憶。私が保つことを学んだ、あの均衡。光と闇を、一緒に。戦わせず。競わせず。
描いた。
円は、以前に使ったものとは、違っていた。火でも、水でも、風でもない。妖精界で学んだ何か。
光と闇。 織り合わされて。
円が、作動した。
光の脈動が、外側に爆発した。最も近い魔獣たちを、盲目にした。その時、闇が、続いた。私たちの周りの空間を暗くし、彼らの感覚を混乱させた。二つの力は、一緒に動いた。互いに打ち消し合うのではなく、協調して働いた。
魔獣たちは、よろめいた。その攻撃は、崩れた。アデルグントとアヴェルヒルダが、前に出て、彼らをとどめを刺した。
開けた場所は、沈黙した。
手を下ろした。Gペンは、握りの中で温かかった。肩の周りのインクは、待機状態の漂いに落ち着いた。
アルブルナは、私を凝視した。その目は、見開かれていた。**「……あんな魔法、見たことがない」**
アデルグントとアヴェルヒルダも、同様に、驚いていた。彼らは、私が火、水、風を使うのを見ていた。しかし、これは……これは、別の何かだった。
カエデは、驚かなかった。彼女は、ただ一度うなずき、私が何をしたかを、認めた。
私は、手の中のGペンを見た。隣に立つ人形を見た。共に戦った仲間たちを見た。
私は、戦いの中で、光と闇を組み合わせた。均衡は、保たれた。そして、それは、機能した。
それが、私の能力にとって何を意味するのか、わからなかった。しかし、それが重要であることは、わかった。
道は、安全になった。魔獣たちは、いなくなった。そして、私は、仲間たちに、彼らが忘れないであろう何かを、示したばかりだった。
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旅人たちは、横転した荷車の後ろから現れた。その顔は、安堵で青白かった。彼らは、襲撃の間、隠れていた。その感謝は、本物だった。うつむいた頭。繰り返される感謝。怖がっていたが、もう怖くない人々の、特別な温かさ。
私は、静かに、彼らの感謝を受け入れた。他の者たちも、同じようにした。その瞬間は、単純で、普通だった。全ての成功した依頼の後に起こる、あの種類の瞬間。
しかし、私にとっては、それは、違っていた。
私は、一人で勝ったわけではなかった。他の者たちが、私の隣で戦った。アデルグントの火。アヴェルヒルダの土。アルブルナの水。カエデの風。彼らは、互いの隙をカバーし、互いの打撃を支えた。勝利は、共有された。
私は、手の中のGペンを見た。隣に立つ人形を見た。共に戦った仲間たちを見た。
これが、冒険者であることの意味だった。
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町へ向かって歩き始めた。
アヴェルヒルダは、私の隣を歩いた。槍を肩に担いで。日差しは、温かく、道は、平和的だった。
「ねえ」 アヴェルヒルダが言った。
私は、彼女を見た。
「あの伝説の王子のこと?」
彼女は、微笑んだ。
「あなたは、あの物語をもっと面白くすると思う」
私は、緊張して笑った。その言葉は、胸のどこかに落ち着いた。無色。 伝説。そして、おそらく、もはや、ただの伝説ではない。
道は、前方に伸びていた。そして、それと共に、私がまだ答えていない問いも。
しかし、今は、仲間がいた。道があった。そして、私は、もはや一人で歩いているわけではないという、静かな確信があった。
次に何が起こるのか...
次回、同じ時間に、同じ場所で。




