第二十五章: ファーゲッザンの啓示.
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妖精王の書斎は、どこかおかしく感じられた。狭くなったわけではない。暗くなったわけでもない。ただ……ずれていた。まるで、私の何かが、もはやこの空間に合わなくなったかのようだった。
私は彼の向かいに座った。魔道書は、閉じたまま膝の上。指は表紙の上に置かれている。握ってはいない。弛めてもいない。ただ、意識している。
キャルウィンは、去っていた。静かに。静かすぎた。今は、私たちだけだった。
**「話せ」**
妖精王が言った。
だから、私は話した。全てではない。きれいには、話せなかった。
私は、白い空間について語った。それが本当にそう呼べるものなら、だが。輪郭も、温もりも、判断もない、あの声について。カッソニアは、私を脅さなかった。それが、事態をより悪化させた。
私は、後に続くものを描写した。間違っているには十分ではない、あの形。ほとんど人間。ほとんど見慣れた。
**「現実じゃないって、わかってました」**
私は言った。
**「でも、それは、関係なかった」**
彼の視線は、私から離れなかった。
**「村が」**
私は、続けた。
**「燃えていた。鍛冶場は、冷え切っていた。私の父は……」**
声が詰まった。記憶のせいではない。それが、いかに容易に戻ってくるかのせいで。
**「まるで、決して去らなかったかのように」**
私は、静かに言った。
沈黙が、伸びた。
**「そして?」**
妖精王が尋ねた。
**「どういう意味ですか?」**
**「何をした?」**
私は、ためらった。
**「戦うのを、止めました」**
関心の、一瞬の揺らめき。
**「それで、お前は壊れるはずだった」**
**「もう少しで、壊れるところでした」**
私は、自分の手を見下ろした。
**「失うのが怖いもの、全てを見せました」**
私は言った。
**「しかし、私が手放すことを拒んだものは、見せられませんでした」**
彼の表情が、変わった。微妙に、しかし、確かに。
**「何に、しがみついた?」**
**「父の声です」**
私は、唾を飲み込んだ。
**「母の声もです。幻想の中での彼らとしてではなく。**彼らそのもの**として」**
彼の目を見た。
**「それは、試練が与えたものではありません。既に、そこにありました」**
妖精王は、一度うなずいた。
**「エレメンタルは、真実を増幅する」**
彼は言った。
**「作り出しはしない」**
**「それは、わかりました」**
間。そして……
**「魔道書だ」**
私は、それを開いた。ページが、私たちを見返してきた。空白。空っぽではない。構造化されている。
かすかな青い余白。コマの境界線。きれい。正確。この世界が持つ権利などないほどに、見慣れた。
妖精王は、身を乗り出した。彼の表情が、強張った。
**「私は、これを読めない」**
それは、私の注意を引いた。
**「どういう意味ですか?」**
**「私の目には、それは、移ろう」**
彼は言った。
**「封印文字の断片。そして、無。それは、全体になることを拒む」**
私は、少し眉をひそめた。
**「それは、奇妙ですね」**
私は言った。
**「キャルウィンには、その問題はありませんでした」**
彼の表情の、何かが、鋭くなった。
**「彼女には、何が見えた?」**
**「構造。境界。彼女は、それを枠組みと呼びました」**
間。そして……
**「当然だ」**
私は、静止した。
**「それは、どういう意味ですか?」**
**「彼女は、宇宙的な起源ではない」**
彼は言った。
**「私のような存在は、原初の光から形成されている。私たちは、魔法を、その最も純粋な状態で知覚する」**
彼の視線は、ページに戻った。
**「これは、純粋ではない」**
彼の言葉の背後に、静かな重みが、沈んだ。
**「彼女には、それは、構造として現れる」**
彼は、続けた。
**「理解できるものとして」**
**「そして、あなたには?」**
**「それは、確定することを拒む」**
私は、再びページを見下ろした。私には、それは、単純だった。紙。ならば、それは、彼のためにあったのではない。
魔道書を閉じた。革は、温かかった。
別の考えが、浮かび上がった。今度は、より鋭く。
**「古文書館です」**
私は言った。
**「記録がありました。ファーゲッザンについて」**
彼の目が、動いた。
**「忘却の川」**
**「全ての魂は、生まれ変わる前に、そこから飲むと、書いてありました」**
私は、少し前のめりになった。
**「では、なぜ、私は飲まなかったのですか?」**
沈黙。ためらいではない。熟考。彼が話した時、その声は、変わっていた。
**「なぜなら、お前は、忘れるように仕向けられていなかったからだ」**
その答えは、あまりに容易すぎた。私の握りが、強くなる。
**「それは、説明になっていません」**
**「そうだ」**
彼は、同意した。
**「違う」**
**「では、説明してください」**
一瞬、彼はしないかと思った。そして、彼は、立った。
**「ファーゲッザンは、単に記憶を消すのではない」**
彼は、窓の方へ動きながら言った。
**「それは、魂が何になれるかを、制限する」**
冷たい重みが、胸に沈んだ。
**「どのように、制限するのですか?」**
**「それは、潜在的可能性を、身体の容量に結びつける」**
彼は、少し振り返った。
**「それがなければ、魂は……無秩序だ」**
私は、その言葉が、好きではなかった。
**「それがなければ、どうなるのですか?」**
**「燃え尽きるか、壊れるかだ」**
彼は、簡潔に言った。
**「ほとんどは、自分が何になりつつあるのかを理解できるほど、長く生き残ることはない」**
脈拍が、遅くなった。
**「そして、私は、違った?」**
**「違う」**
**「なぜですか?」**
彼は、私を観察した。統治者のようにではない。問題のように。
**「なぜなら、お前は、それに耐えられるように、作られているからだ」**
かすかな息が、漏れた。
**「作られている」**
**「準備されている」**
彼は、訂正した。
**「複数の生涯にわたって」**
**「私は、そのどれも、覚えていません」**
**「お前は、十分に覚えている」**
**「それは、同じことではありません」**
**「そうだ」**
彼は言った。
**「違う」**
沈黙。そして……
**「それは、私を、何にするのですか?」**
彼は、すぐには答えなかった。答えた時、その言葉は、不可逆的な何かのように、沈み込んだ。
**「インクボーンだ」**
私は、ほとんど笑った。
**「そうですよね」**
**「これは、称号ではない」**
彼は言った。
**「それは、状態だ」**
**「問題のように聞こえます」**
**「そうだ」**
それは、私を驚かせた。彼は、より近づいた。
**「ファーゲッザンから飲んでいない魂には、自然な限界がない。境界もない。安全装置もない」**
彼の声は、低くなった。
**「それが何を意味するか、わかるか?」**
私は、彼の視線を保った。
**「それは、もし私が制御を失えば、自分自身を傷つけるだけじゃない、ということですね」**
**「そうだ」**
その言葉は、重く響いた。私は、魔道書を見下ろした。
**「試練では……」**
私は、ゆっくりと言った。
**「力は、試されていなかった」**
**「そうだ」**
**「それは、私に何が現実か、見分けられるか、試していた」**
**「そうだ」**
**「なぜですか?」**
**「なぜなら、それがなければ」**
彼は言った。
**「お前は、次に来るものを、生き残れないからだ」**
それは、安心させるはずだった。そうではなかった。
私は、再び魔道書を開いた。まだ、空白。まだ、待っている。
**「もし知っていたら」**
私は、静かに言った。
**「最初から、これを求めていたでしょう」**
**「違う」**
その言葉は、部屋をきれいに切り裂いた。顔を上げた。
**「たとえ、お前が求めていたとしても」**
彼は言った。
**「お前は、これを受け取っていなかっただろう」**
**「なぜですか?」**
間。そして……
**「なぜなら、誰かが、既に試みたからだ」**
空気が、変わった。
**「かつての創造者だ」**
彼は言った。
**「グレゴリー」**
その名は、漂った。
**「彼は、同じものを求めた。かつて物語を形作ったように、魔法を形作るための媒体を」**
私の握りが、強くなる。
**「そして、彼は、それを手に入れたのですか?」**
**「その、一つのバージョンを」**
彼の口調の何かが、その違いを重要にした。
**「それは、彼に応えた」**
彼は、続けた。
**「しかし、彼がそれを理解していると、そう思える範囲まで、だけだ」**
私は、眉をひそめた。
**「そして、私は?」**
彼の視線が、鋭くなった。
**「お前が今抱えているものが、与えられたから、より強いわけではない」**
一拍。
**「お前が、それだから、より強いのだ」**
沈黙が、押し寄せた。
**「グレゴリーは、それを無理強いしようとした」**
彼は、静かに付け加えた。
背筋を、悪寒が走った。
**「そして?」**
妖精王の声は、落ちた。
**「それは、彼に応えた」**
それは、予想より悪かった。
**「何が、起こったのですか?」**
彼の目は、私の目を捕らえた。
**「存在すべきではなかった何かが」**
部屋は、より小さく感じられた。私は、ゆっくりと魔道書を閉じた。
**「もし、私が間違えたら、どうなるのですか?」**
私は尋ねた。
今度は、彼はすぐには答えなかった。
**「その時は、お前は、存在すべきではない何かを、創り出すだろう」**
胸が、締め付けられた。
**「そして、それを直せますか?」**
**「いや」**
その言葉は、最終的だった。
**「お前は、それを元に戻せないかもしれない」**
沈黙。
重い。
絶対的。
彼は、扉の方へ動いた。
**「もう一つだけ、エルスベス」**
顔を上げた。
**「限界なき創造は、意図から始まるのではない」**
私は、眉をひそめた。
**「では、何から始まるのですか?」**
彼の表情は、変わらなかった。
**「衝動」**
そして、彼は去った。扉は、彼の背後で、柔らかく、終わりを告げる音を立てて閉じた。
沈黙が、部屋を満たした。私は、再び魔道書を開いた。空白のページ。きれいな線。完璧な境界線。同じ紙。同じ構造。指が、コマの縁をなぞった。私は、これを知っていた。魔法としてではなく。**習慣**として。
**記憶**として。
小さな机。薄暗い灯り。指に染み込むインク。決して守れなかった締め切り。ページの後ろのページ。何もないところから引き出された物語。
ゆっくりと息を吐いた。
**「別の人生では……これは、ただの紙だった」**
私の手は、ページの上で、宙に浮いた。描いていない。ただ、思い出している。ペンの重み。最初の線を引く前の、ためらい。ひとたび始まれば、それは……
元に戻せない、という確信。
魔道書を閉じた。
まだ、ではない。
しかし、その思いは、私と共に残った。
あの別の世界では、私は、考えることなく、こんなページを埋めていた。
そして、今……そんなページが、現実を形作るかもしれない、この世界で……
私は、まだ、同じ紙を抱えている。
ただ、今度は、それは……
**何か、現実的なものを、待っていた。**
エルスベスは、魔道書に何を最初に描くのか...
そして、最も重要なこと。
彼女は成功するのか?
次回、同じ時間に、同じ場所で。




