1-5
「暇だな……」
雨森とも谷山とも目線を合わせたくないので、そちらの方を向かないようにしつつクラスメイトの戦いぶりを見ていたのだが、さすがに暇になってきた。
というのも、さっきまでは少し強いモンスターが出た時は相手をしていたのだけれど、そういったモンスターまで倒し始めたクラスメイトがでてきたからだ。
もちろん始めたばかりの彼らが真っ向から戦っても勝ち目はない。
しかしこれは完全没入型のVRゲーム、今までのゲームとは決定的な違いがある。
通称格上狩りと言われるそれは、VRゲームであるリンクコネクトならではの醍醐味だ。
と、また一匹強めのモンスターが一人のクラスメイトの近くに現れる。
だがこちらが手助けをしようとするまえに、彼はモンスターに向かって武器を構えた。
「手助けはいる?」
「いや、大丈夫! コツもつかんできたし一人でいけるかやってみるよ」
そういって彼、記憶が正しければ杉浦は、狼型のモンスターへと立ち向かっていく。
狼型のモンスター、ロンリーウルフは素早い動きと、瞬発力が厄介な序盤の壁と言われている敵だ。
それなりに体力も多いので、普通に戦えば杉浦ではあっけなくやられてしまうだろう。
「いけそう、かな!」
けれど杉浦はロンリーウルフ相手に善戦し、徐々にその体力を削っていた。
序盤の敵には一つ大きな特徴がある。
それは、あらかじめ決められた行動パターンが何通りかあり、それを組み合わせて行動してくるというと所だ。
そしてこれはVRゲーム、もちろん敵の攻撃をよけることもできるし、スキルを使わず攻撃することだってできる。
もっとも、スキルを使わない攻撃はダメージが低いため、好んで使われることはあまりない。
それでも十分牽制程度にはなる。
「そこだ! スラッシュ!」
杉浦はロンリーウルフの代表的な攻撃である、一瞬の溜めからの飛び掛りを見事かわし、がら空きの背中にスキルを叩き込んだ。
その見事な手さばきに、思わず俺はおぉ、と呟いた。
さすがに基礎スキルであるスラッシュを一撃で当てただけでは体力を削りきることはできなかったが、この調子ならば気を抜かなければ十分倒せるだろう。
こんな感じに、敵の攻撃パターンを理解し、それを踏まえて戦う事で戦闘を有利に運ぶ事ができる。
ただモンスターが強くなるにつれて行動パターンは複雑になり、攻撃を避けるのも難しくなっていくため、強くなるにつれて格上狩りは難しくなっていく。
それでも序盤は、格上と言われる敵でも工夫次第では十分倒せるのだ。
こればっかりは本人のセンスと経験によるので、同じ時期に始めた人でもここで差がついたりする。
実際、クラスのみんなの中でも上手い人と下手な人というのが徐々にわかれ始めてきていた。
ただ、その中でも杉浦の上手さは際立っている。
確か寝たふりをしながら聞いていた話だと、テスターにも応募するほど熱心にこのゲームをまっていたらしいので、事前に序盤に役立つ情報を手に入れていたのかもしれない。
まだ不明な事が多いこのゲームでは、プレイヤーの情報を活用するというのは結構大事な事だ。
「これはもう俺が出る幕はないかな」
杉浦が無事ロンリーウルフを倒すのを見届け、もう手助けは要らなさそうだと呟く。
もう十分付き合っただろう。
そろそろ自分のペースでゲームをしたいので、ここらで抜けさせてもらおうと、雨森に声をかけるため立ち上がった。
「おい、なんかやばそうなのがいるぞ!」
ちょうどそのタイミングで、一人の叫び声が上がる。
声をした方を見ると、明らかにいままでとは雰囲気の違うモンスターが木々をかき分け這い出てきていた。
ぱっと見る限りでは巨大な花だろうか。
目が痛くなるほど鮮やかな赤い色をした花弁の奥には、鋭い歯がいくつも生えているのが見える。
茎からは蔓が生き物のようにうねうねと動いていて、根は地面には潜っておらず足がわりに使われていた。
「人食い花、エリアボスか……!」
助けに入ろうと武器を構えるが、こちらが近づくよりも早く人食いバナは蔓を槍のように打ち出し攻撃を繰り出す。
その先には雨森が立っていた。
「あぶな……!」
人食い花の攻撃が雨森の体力を一気に削る所を想像し、思わず声が漏れた。
だが打ち出された蔓はギリギリ雨森にはあたらず、彼女の後ろにあった木に突き刺さる。
驚いて尻餅はついていたが、結果的にそのおかげであたらなかったようだ。
一瞬、攻撃を見て避けた後、そのまま尻餅をついたように見えたが恐らく気のせいだろう。
蔓が木に刺さっている間に加速スキルを使って一気に間合いに入る。
俺は雨森や他のクラスメイトを守るようにして、人食い花の前に立ちはだかった。




