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第六話 文化祭&学習発表会

「あっ、もうクリスマスツリーを飾ってるんですね」

 次の金曜日、十一月十四日夕方四時頃。山際宅のリビングを訪れた高史は少し驚く。

「デパートとかでは、十月の終わり頃から飾ってるからね。家でもそろそろ飾ろうかと思って」

 佐登子さんは機嫌良さそうに言う。

「確かに、早過ぎるということも無いですね。そういえば、今日は麻恵さん、まだ帰ってないんですね」

「うん。文化祭の準備で遅くなるって言ってたから」

「そっ、そうでしたか」

「文化祭は今週の土日よ」

「明日じゃないですか。そういえば、小学生の三人も遅いですね。遅くても五時までには来ていたのですが……」

「その子達も、学習発表会の準備だと思うわ。毎年この時期なのよ」

「そっか。僕の高校の文化祭は、六月に終わってます。大学受験に影響が出ないようにという理由で」

 教室内へ移動した後も、

「高史ちゃんの作った教材、みんなに好評のようよ。イラストいっぱいで楽しく勉強出来るって。高史ちゃんも、学習塾講師としてだんだんさまになって来たわね」

「いえいえ、僕なんか全然。まだ一ヶ月も経ってないですし、僕なんかが作った教材で、皆さんが勉強したら、成績が下がってしまうんじゃないかと……」

「ふふふ、そんなことないわ。現に久実ちゃん、高史ちゃんが来てから学校で行われた分のテストでは、九〇点以上を連続して取ってたでしょ。麻恵も数学の小テスト、10点満点中今まで3点か4点しか取れてなかったのに8点取れてたし、芽衣ちゃんも算数のテストで七〇点取れてたじゃない。徐々に成果が現れ始めてるわ」 

「いやあ、それは、まあ、小学校のテストや中学校の小テストは単元別なので、すぐに点数を上げられますし、僅差の違いでは……」

 こんな風に高史はやや緊張気味に、佐登子さんと会話しながら待っていた。


午後五時半頃、いつもより遅めに久実と芽衣、桃香が一緒にやって来た。

「学習発表会の練習、長引いちゃったよ。あたしの学校、明日学習発表会があるの。高史お兄ちゃんも、ぜひ見に来てね」

「うん。行けたら」

 久実はにっこり笑顔でお願いし、高史にプログラム進行表が載せられたパンフレットを手渡した。

「タカシっち、アタシ達の晴れ舞台、絶対見に来なきゃダメだぜ」

「瀬戸山先生、出来れば、見に来て下さい」

 芽衣と桃香は念を押す。

 さらに三〇分ほどのち、

「ただいまーっ。準備疲れたよぅ」

六時過ぎくらいに、麻恵が帰って来た。

「こんばんは、佐登子先生、高史先生」

葉奈子も一緒に連れて。

「私の学校の文化祭、高史くんも見に来てね。私のクラスは合唱だよ」

「わたしのクラスも合唱です。自由曲が面白いから楽しみにしててね。歌うの恥ずかしいよ。高史先生、これをどうぞ」

 葉奈子は笑顔でそう言い、プログラム進行表と招待状を手渡した。

「この合唱曲は……確かに、面白いね。小中同じ日だけど、なんとか両方見に行けそう」

高史はプログラム進行表を見て、午前に中学校の文化祭、午後から小学校の学習発表会を見に行こうと考えた。

       ※

 そして当日、十一月一五日。

(僕なんかが、入っていいのかな?)

 高史は不満をよぎらせながら、招待状を昆乃森中学校正門前にいた受付係にかざし、正門に飾られたゲートを通り抜けた。佐登子さんもあとに続く。こうして二人は体育館へ。窓は黒色の遮光カーテンで覆われ、床一面に青緑色のフロアシートが敷かれてあった。来場者席は、生徒席の後ろ側に用意されてある。共に折り畳み式パイプ椅子だ。

「空席が目立ってますね。さすがに中学になると、親はあまり見に来ないですね」

「ワタクシは、毎年見に行ってるわよ」

 佐登子さんは笑顔で伝える。

 高史と佐登子さん、隣り合うようにして前の方の席真ん中付近へ座った。

【プログラム四番、二年三組による合唱です。課題曲、モルダウの流れ。自由曲、寒ブリの歌。お聞き下さい】

 放送部員の一人からアナウンスが告げられると、二年三組の生徒達はパート別にまとまって、舞台前に設置されたひな壇へと上がっていく。

「あっ、あの子は……同じクラス、だったんですね」

 高史はあることに気付いた。

 麻夫も、葉奈子と同じクラスだったのだ。

「麻夫はテノールよ。葉奈ちゃんはアルトだから、離れた場所にいるの」

 佐登子さんは舞台の方を手で指し示す。

「あっ、いっ、いますね」

 高史はすぐに確認出来た。

 演奏順は課題曲のモルダウからであった。ピアノ伴奏のあと、二年三組のクラスメート達は歌い始める。その曲のあと、ついに寒ブリの歌の演奏が始まった。ぶんぶんぶんぶんブリブリ♪ という独特の歌詞メロディーでお馴染みの合唱曲。他のクラスの生徒達、来場者の一部からは、笑い声も起こっていた。

「二人とも、やっぱ恥ずかしそうね」

 佐登子さんはにこにこ微笑みながら、デジカメに二人の勇姿を収めていた。

「僕にも気持ちは良く分かります。なんか、モルダウとのギャップが……」

 高史は同情を示した。

 曲の演奏が終わったあと、客席から盛大な拍手が送られた。

 このプログラムのあと、麻恵のクラスが出るまで少し時間があった。

「そういえば、土生さん。展示部門も見て欲しいって言ってましたね」

「部活動作品の展示があるのよ」

 高史と佐登子さんは体育館を出て、美術部の作品が展示されてある美術室へと向かっていく。

「これ、僕!?」

 壁に貼られた、土生葉奈子 作と書かれた絵を見て高史は驚愕した。

「あらぁ、そっくりね。高史ちゃんの自画像」

 佐登子さんは微笑む。

「たっ、確かに」

 高史は照れてしまった。

「これは葉奈ちゃんの創作漫画ね」

 佐登子さんは机の上に展示されてあったそれを、嬉しそうに手に取った。

「なんか、見ちゃいけないような」

「見てあげて。葉奈ちゃんも、高史ちゃんに見て欲しいって言ってたわよ」

「でっ、では」

 高史は、恐る恐るページを捲り、じっくり目を通す。

「普通に本屋さんで売られても、おかしくないような出来ですね」

 2、3ページ読んでみて、こんな感想を抱いた。

「とっても素晴らしいわ。葉奈ちゃん、将来はきっと漫画家さんね」

 佐登子さんも気に入ったらしい。

他の美術部員達の作品も眺めているうちに時間が迫ってきたため、二人は体育館へと戻っていく。

午前の部最後のプログラムが、麻恵のクラスだった。

【続きまして、プログラム十二番。三年一組による合唱。課題曲、大地讃頌。自由曲、流浪の民】

 この開始のアナウンスされた後、麻恵は、佐登子さんと高史の姿に気付いたようで、にっこり笑って大きく手を振ってくれた。

「あとで、先生に、注意されてしまうのでは……」

「麻恵ったら、嬉しいけど、本番中はダメよ」

 高史は少し心配顔で、佐登子さんはにこにこ顔で見守った。

(姉ちゃん、恥ずかしいよ)

 麻夫も呆れ顔で生徒席から眺めていた。

 この後は特に何もハプニング無く、無事麻恵も出番を終えた。

そのあと、高史と佐登子さんは急ぎ足で久実達の通う小学校へと移動していく。

こちらは招待状無しで入ることが出来た。

 正門を抜け、体育館へ。床、座席、カーテン、舞台は中学校のと同じような感じにセットされてあった。

「小学校だと、大抵の親は見に来てるな。立ち見かなぁ」

 高史は周囲をきょろきょろ見渡す。来場者席はほぼ満席になっていた。

「大丈夫よ。あそこに席取ってあるから」

 佐登子さんは保護者席真ん中より少し前くらいの場所へ高史を誘導して行く。

「山際先生、瀬戸山先生。いつも久実がお世話になってます」

「よぉ、佐登子姉ちゃん。そして、そっちのキミが瀬戸山高史くんっていう子ね。はじめまして。ねえ、タカシンって呼んじゃっていい?」

「どうも、こんにちはー」

 そこにいたのは久実、芽衣、桃香のお母さんだった。芽衣のお母さんは陽気な、桃香のお母さんはおっとりした感じだった。

(髪型と、性格までそっくり。やっぱ、遺伝だな)

 そう感じつつ、

「あっ、こっ、これは、どうも」

 高史は緊張気味に頭を下げ、三人にご挨拶する。

 横並びの席に奥の方から順に、桃香母、芽衣母、久実母、高史、佐登子さんという順番でイスに腰掛けた。

【続いてプログラム八番、五年生による合奏『威風堂々』、合唱曲『カリブ夢の旅』です。ぜひご覧下さい】

放送委員の代表からこう告げられたあと、隅の方で待機していた五年生達が、舞台前に設けられたひな壇に上がっていく。

 久実の姿は五人にもすぐに確認することが出来た。客席から見て左端の方、五年一組のクラスメート達が固まっているところのひな壇一番上で目立っているからだ。

「えっと、芽衣ちゃんは?」

「見当たりませんね」

 芽衣の姿も三人のお母さん達にはすぐに分かったのだが、佐登子さんと高史は見つけられず。

「メイは大太鼓の所よ。クミクミの五メートルほど右」

「あっ、いたわ」

「あんな所に。女の子で大太鼓って珍しいな」

 芽衣のお母さんが手で指し示しながら伝えると、二人にもすぐに発見出来た。

合奏はソプラノリコーダーや木琴・鉄琴、シンバル、トライアングル、アコーディオン、大太鼓・小太鼓などによる演奏。

久実はトライアングルを担当していた。

【合唱曲『カリブ夢の旅』。ピアノ伴奏は、五年一組、上河内久実さんです】

 続いてこのアナウンスが告げられると、客席から大きな拍手が沸いた。

「久実ちゃん、ピアノ伴奏なんだ。すごいわね」

「一番重要な役割ですね」

 佐登子さんと高史は少し驚いていた。

「去年は他の子にじゃんけんで負けて出来なかった分、すごく嬉しく感じてるみたいよ」

 久実のお母さんはにっこり微笑む。

久実は今いる場所から動き、舞台上にあるピアノの前へ。ゆっくりと椅子に座ったことが五人のいる客席からもしっかり分かった。

「座ってても、背の高さが目立ちますね」

 高史は笑顔で突っ込む。

「久実ちゃん、スタイルも抜群ね」

「先生にも見えるわ」

「久実は男の子含めても、クラスで一番高いみたいよ。でもお顔はすごく幼いけどね」

 お母さん達も楽しそうに話し合う。

久実は、指揮者=音楽の先生の方へ視線を向けて、演奏を始めた。

      ♪

「ミス無しで……すごいですね」

「久実ちゃん、素晴らしい演奏だったわ」

 久実は見事演奏を終え、元いた場所へ戻っていく。高史と佐登子さんは深く感心していた。

「久実、よく頑張ったわ。きっと良い思い出になったね」

 久実のお母さんは久実の演奏する姿を写真に何枚も収めていた。

幕が閉じられ、照明が消されてほどなくして、

「これからみなさんに、昔遊びクラブの演技を披露しまーす」

「みんな見てねー」

突如、芽衣と久実が演台に現れた。その二人にスポットライトが当たる。

「プログラムにあったっけ?」

「おまけみたいなものね」

 高史の疑問を、佐登子さんはこう解釈した。

「久実、ちょっと緊張してるわね」

「メイー、頑張ってーっ」

 久実と芽衣のお母さんは、ビデオカメラで二人の勇姿を撮影し始める。

 芽衣と久実は演台の上から七〇〇名近い全校児童らの目の前で、昔遊びの定番ともいえる竹とんぼやけん玉、糸巻きゴマ、だるま落としなどを披露してあげた。

観客席にいる他の児童、先生、保護者らから盛大な拍手が送られる。

芽衣が見事失敗することなく披露したけん玉の大技『世界一周』は特に大好評だったようで、拍手がなかなか鳴り止まなかったほどだ。 

 このあとに、ついに六年生による劇が始まった。

【プログラム最後は、六年生による朗読劇『八郎』と、合唱曲『遠い日の歌』です。ぜひご覧下さい】

 そのアナウンスの後劇のあらすじが語られ、幕が上がった。

「桃香は、この劇には出てないのよ」

 桃香のお母さんはちょっぴり残念そうに伝える。

 四クラス一三〇人近い六年生の中で、朗読劇に参加しているのは三〇人ほどとのことだった。三〇分ほどで、八郎の朗読劇は終わりを迎える。幕が閉じられ照明が消された後、ぞろぞろぞろと、人が動く音が聞こえてくる。隅の方で待機していた他の六年生達も、ひな壇に上がっていく音であった。これより六年生全員参加となる。桃香は真ん中付近の前の方のひな壇にいた。六年三組とのこと。

演奏が始まってから、

「桃香、頑張ってるわね」

 桃香のお母さんはとても嬉しそうに、娘の姿を写真に何枚も収めたのであった。


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