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フカイのフカイな異世界の旅  作者: アングリー尺損


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8/29

 門は有ったが門番のような人は居らず看板が下げられていた。


『滞在予定の方は村長宅へ来るように』


 不用心だと思いながらもここに来るまでに魔物のようなものも居なかったので平和なんだと納得しながら村長の家を探すことにした。

 村長と言うぐらいなので大きな家だろうと思いながら歩いていると木陰にガラの悪い連中が座ってだらけていた。


 顔や体のあちこちに刃物で切りつけたような傷がいくつもあり周囲を見る視線は鋭く地球のヤバい筋の人のように見えた。

 僕がチラチラ見ていたのに気づいたのか声を掛けてきた。


「あーん、てめえ、何ジロジロ見てんだ。チビ、よそ者か? 」


「おめえみたいなよそ者にウロウロされると目障りなんだよ」


「行くなら村長の家は北側にある赤い屋根だし宿屋ならこの先の広場の近くにある黒い壁だからとっとと失せやがれ」


「宿に泊まるってんならおめえみたいなガキが夜に出歩くと酒がまずくなるからおとなしく引っ込んどけよ」


(見た目や口調は気になるが内容だけを考えると色々教えてくれる優し人なのかもしれない)


 教えられた通り北側に進んでいくと周りにはない赤い屋根の家があった。

 ドアをノックしてしばらくすると白髪のおじいさんが出てきた。


「だれじゃ、めんどうくさいのぅ」


「あのーすみません、しばらく村に滞在したいと思ってるシリューです。ご挨拶をと思いまして」


「あー、この村に住みたいという事じゃがお前さんのできることを聞きたいと思うが今日は面倒だから明日にでも聞くことにしよう。今日はあっちの広場の近くにある宿に泊まるといい。明日お前さんの都合で来られても面倒じゃからワシが朝から宿に行くから待っておれ。行き違いになっても面倒じゃから大人しく宿で待っとるんじゃぞ」


 村長の家から追い帰されるように宿に行くととても綺麗な女の人が掃除をしていた。


「すみません。泊まりたいんですが良いですか? 」


「あら、ごめんなさい。気づかなくって。ようこそ豊穣亭に。ウチはこの宿の女将をしてるの。女将と言っても旦那は死んでしまって従業員も居ないから一人で切り盛りしているから行き届かないところもあると思うけど気になることがあったら気にせず言ってね」


 正面から見た女将さんは未亡人とは思えない若々しさでおまけにギルドのお姉さん以上にスタイルが良かった。


「この時間から泊まりたいと言うことはしばらくこの村に留まりたいということなのね。その恰好じゃお金もそんなに持ってないだろうから宿代は仕事を見つけて払えるようになってからで良いわよ。ようこそドイナーカ村へ歓迎するわ」


 微笑みかけられた女将さんの笑顔と優しい心遣いに僕の心は鷲掴みにされてしまった。

 頭ではこの村がスーガラキ王国に近すぎるので離れた方が良いと考えていても心がこの村で暮らすことを望んでしまっている。

 夕食は美味しかったが何を食べたのか思い出せないほど女将さんのことを考えており夢にまで見てしまった。


 翌朝女将さんの顔を見るだけで鼓動が早くなる感じがしてようやく声を発した。


「お、おはようございます。今日は村長さんが来るみたいなので待たせてもらっていいですか? 」


「いいわよ。村長を待ってるんだったら先に食事を済ませておいた方が良いかもね」


 そう言ってパンとサラダと何かの肉が入ったスープを持って来てくれた。


「パンはお替りしていいからね。若いんだからたくさん食べなさいよ」


 若いと言われたがそこまで僕と年は変わらないはずだと思ったが敢えて何も言わなかった。


 食事が終わるころ村長が欠伸をしながらやって来た。


「あーメンドくさい。なんでワシが村長なんぞせにゃならんのだ」


 朝からブツブツ文句を言いながら宿の食堂に入ってきて僕を見つけると近づいてくる。


「起きとったのなら待たずに済んで助かったわい。それでお前さんはシリューじゃったな。ちっとはゆっくりできたか? 」


(もしかして昨日話をしなかったのは僕が疲れていると思ったからなの? めんどくさいと言ってるけど実は優しいんじゃない? )


「ありがとうございます。おかげでよく眠れました」


「ならよかった。早速じゃがシリューは何が出来るんじゃ? 見たところ冒険者の様ではあるが駆け出しぐらいにしか見えのじゃが」


「冒険者になりたてですが少し魔法が使えるので良かったら猟に出て食料の確保をしたいと思うんですがどうでしょうか? 」


 魔法が使えることを伝え希望を言うと村長は少し考えこんでいた。


「うーん、村の若い奴らは体だけはデカいのに根性が足らずに猟師のマータギーから向かないと言われて後継者がいなかったから良いかもしれんが向き不向きもあるからとりあえず試してみてから考えてはどうじゃ? 」


「それは僕としても助かります。良かったら村長さんに紹介状か手紙を書いていただけると話がしやすくなると思うんですが」


「紹介状なぁ、書くのもめんどくさいから今からマータギーの所に行く事にしよう。話した方が早い」


 この村唯一の猟師をしているマータギーさんの家に案内された。


「マータギー、起きとるか? ワシじゃグラトンじゃ。猟師の見習い希望者を連れてきたからドアを開けてくれ」


 かなり乱暴にドアを叩いているが壊れないのか心配するレベルで連打している。


「朝っぱらからドアを叩きつけんでもちゃんと起きておるわ」


 ドアを開けて出てきたのは村長とそんなに年は変わらないぐらいの頭のてっぺんは光を放ってサイドと後方には白髪が生えている細身の男性が出てきた。


「おお、ようやく出てきた。このシリューが新しくこの村に住みたいと言ってきた。魔法が使えるというし本人も猟師をしたいと言っとるから指導してやってくれ」


 確かに紹介してくれたがかなり早口で端折った説明でマータギーさんが理解できたのか疑問に思ってしまった。


「相変わらずめんどくさいと言いながら面倒見の良い奴じゃのう。そんでお前さんが猟師になりたいと言っとるのか? 」


「そうですね。なりたいというか他にできることが分からないのでこの村で役に立てそうなのが猟師かなとおもいまして」


「まあ、図体ばかりでかい臆病者どもに比べればマシじゃろう。ワシが準備をしたら早速村の外にいってみるか」


 マータギーさんは家の中に入ると何やら準備をしていたが革鎧を装備し背負い籠のようなものを背中に両手には槍を持って出てきた。


「そんじゃあ早速狩りに行く事にしよう」


 村の門を出て少し離れた場所にある林の方で歩いていく。

 疎らに木が生えており多少視界は遮られるが魔物からの奇襲を受けることはない感じだった。


「ワシが狙っているのは兎や猪の魔物で持てる数しか狩らん。なので村の者全員に満足いく量は捕れんが毎日狩りに来ることにしている」


 それなりの年を取っているようだが毎日狩りをしていると聞いて驚いた。


「あのー、ボク収納魔法が使えるので今日は狩れるだけ狩りましょう」


「そりゃあすごいがあまり大量に狩りすぎるのも考え物じゃ。魔物の数のバランスが崩れると他の場所から要らぬ魔物が入り込んでくることもある。気持ちは嬉しいがお前さんが一人で狩りをすることになったときは心にとどめておくように」


 マータギーさんの話を聞いて調子に乗っていたと反省した。


 その後は林の中を歩きながら魔物を狩るだけではなく果物なども多少は収穫しながら兎を3匹仕留めた。

 僕は魔物を探すために魔力を広げてみると少し離れた場所に少し大きめの魔物が居ると分かった。


「マターギーさん、あっちに大型の魔物が居るみたいなんですが僕が倒しても良いですか? 」


「そういえば魔法が使えるといっておったのぅ。お前さんの実力を見せてもらおうじゃないか」


 許可が貰えたので警戒をしながら進んでいくと大きな熊が寝そべっていた。


 腐界は使えないので熊の眉間を狙って圧縮した岩を撃ち出すと問題なく息の根を止めることが出来た。

 後ろを振り返りマターギーさんが顔を青くしていた。


「おめえ、すごい奴じゃったんじゃな。こいつはブラックベアと言ってここら辺のボスみたいなもんで見かけたら逃げるように言っておった魔物じゃ。それを魔法1発で倒せるなら心配いらん様じゃな」


 思ったより大物を倒せたようで猟師としての試験?は何とか合格したようだった。

 ブラックベアを異次元庫に吸い込ませるとまたマターギーさんがびっくりしていた。

 マターギーさんが狩った兎や背負い籠も一旦預かり異次元庫に入れて村へ帰ることにした。


 村に帰ると今度は魔物を解体して食用部分と捨てる部分に分けていく。

 解体を行う時に少し吐き気を覚えたが何とか我慢して教えてもらいながら皮剥ぎや内臓の取り出しを終えることができた。

 この世界では内臓は食べないようで残飯と一緒に捨てて堆肥にしているらしい。


「冒険者になりたてと言っておったがなかなかすごいじゃないか。こんな村に居座らずとも冒険者として活躍できそうじゃろうにもったいないのう」


「いえ、今回は1匹だけだったのでしっかり狙って倒せましたが次も大丈夫とは限りませんから田舎でのんびりした方が性に合ってると思います」


「シリューがそういうならワシからは何も言わん。この皮は時々村による商人に見せれば買い取ってくれるじゃろうから保管しておくが良い。ワシも兎やら猪の皮を家にため込んで今度売って酒を買うつもりじゃ」


 腰に下げていた小さい水筒のような物の栓を抜いて一口含むと「かーっ、狩りの後の一杯はうまいのう」と言って家に帰ろうとしていた。


「あのー、解体した肉はどうすればいいですか? 」


 肉の扱いについてどうすればいいか戸惑っていると慌てて戻ってきた。


「今回は熊肉が大量にあるから大体同じ大きさになるように30に切り分けてくれるか。そのあとはそこの木の下に置いておけばそれぞれの家庭から取りに来るから運ぶ必要はない。それとワシやシリューは狩ってきた特権で一番うまい場所を持って帰れるからな」


 兎やクマの肉を30に切り分け一番おいしいと言われる右腕の肉を貰って帰ることにした。

 切り分けた肉でも3kgは有るようで一人で食べきれる量ではなかった。


 宿に帰ると女将さんが出迎えてくれた。


「どうだった。シリューちゃん。狩りは上手くいったかしら? ケガはしてないみたいだけどやっていけそう? 」


 僕よりも小柄なのに体を触って心配してくれる。女性に体を触られ緊張して動けずにいた。


「チャミちゃん、あんたんとこの分の肉も持ってきたけど今日は大量だったみたいで今日は肉を一杯食べさせられるよ」


「ありがとう、おばちゃん。あらホントにたくさんあるわね。これは……熊の肉かしら。これってもしかしてシリューちゃんがたおしたの? すごいじゃない。昨日は初心者みたいに扱っちゃったけどごめんなさいね」


 実際に冒険者としてもこの世界の住人としても知らないことが多い初心者なので間違っていないし気にもしていない。


(本名が分からないけどチャミさんって言うのか)


 女将さんの呼び名が分かって少し嬉しくなった。


「あのー、これ、僕の分の肉なんですけど食べきれないと思うのでチャ、女将さんに差し上げます。食べるにしても食堂で出すにしても自由に使ってください」


 断られる前に肉を女将さんの手に押し付けて部屋に戻った。


 肉を渡す際に少し指先が女将さんの手に触れてドキドキしてしまった。何とか心を落ち着け着替えてから食堂に降りてきた。

 僕を見た女将さんが料理の注文をしていないのに美味しそうな料理を持ってきた。


「シリューちゃん、お肉はありがたく使わせてもらうけどシリューちゃんもしっかり食べないとダメよ。育ちざかりなんだからたくさん食べてね」


 大きなステーキで美味しそうな匂いがしていた。


 暫くはマターギーさんと一緒に狩りに出ていたが2週間もすると僕だけで行く事になった。兎もたまに狩るが猪をメインに狩るようになったので魔物を狩るのは2日に1回の頻度になっている。それ以外は林や周りの地形を覚えるために果物を採りながら歩いている。

 時々迷い込んできたのかゴブリンを見かけることもあったがサクッと腐界で倒して地中に埋めてしまう。

 村に被害が出ないようにパトロールだと思い確認して回っていた。




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