㊹
夜都に着いて都に入ろうとすると兵士たちがアンコを見て跪き頭を下げている。
ネビュラの街ではアンコは疲れていたので影で休ませていたがここ数日でだいぶタフになったので影から出して連れ歩いていたが驚いてしまった。
「ちょっと待ってくれ。いったいどうしたんだ。俺は夜都に入りたいだけなんだが何か問題はあるのか」
「問題ございません。どうぞお入り下さい。一つお聞きしたいことがございます。そのシャドー種のお名前をお聞かせいただけないでしょうか」
「ああ、かまわない。こいつはシャドゥタイガーのアンコだ。俺からも聞きたいんだがシャドー種を連れ歩くのはまずいか? 」
「問題ございません。我々にとってシャドー種の魔物は尊ぶ存在で王家でも大切に育てられておりました。ただ残念ながら数年前の魔物の大襲来で命を落としてしまわれたと聞いています」
夜都に入ると確かに日本で見られるようなクオリティーの食事があちこちにあった。食事ができる店に入ってみるとメニューにはナポリタンとかトルコライスと言ったかなり珍しい料理まであった。
ここでも旅館風の宿に泊り大浴場や日本料理を楽しみアンコの戦闘訓練も順調に進んでいた。
10日程して今日も狩りに行こうかと思っていると宿の主人が血相を変えて部屋にやって来た。
「シリュー様、城からの使者が来ております。お部屋にお通ししてよろしいでしょうか? 」
「使者? 何の用か聞いたか? 」
「いえ、詳しくをお聞きしていませんがウィジィロー王からの書状を届けたいと言われていました」
敵対するための物ではないだろうと思ったのでとりあえず話を聞くために部屋に招くことにした。
「突然の訪問にも関わらずご対応いただきましてありがとうございます。私はドーカトと申しまして王家に執事として仕えております。本日は主でありますウィジィロー・ヤマダ様より書状をお持ちしました。」
渡された手紙を見るとシャドー種の従魔を持つ俺を城に招待したいという内容だった。それにしても名前にヤマダとついている時点で日本人の匂いがプンプンしてくる。面識のない王様ではあったが悪意は感じられなかったしシャドー種を神聖化しているとも聞いていたのでおそらく俺を呼べばシャドー種に会えるとでも思っているのだろうと考え招待を受けることにした。
ドーカトは俺の返事を待っているようで静かに姿勢を崩すことなくその場に控えていた。
「俺も友のチャミも王家の方との接し方は不慣れではあるがわざわざのお誘いを断るのも失礼でしょうから伺わせていただく。それで日程などはどうなっているんだ? 」
「シリュー様御一行のご都合が付けばいつでもいいと聞いております。可能であるなら今からでもご案内できます」
特に急ぎの用事もなかったのでそのまま馬車に乗せられ城に向かっていく。城に近づいていくと赤い建物がライトアップされ日本家屋とは少し違う建築様式だった。なんと無く首里城を思わせる造りになっていた。
謁見の間に通されると肌は白いが眉は太く目鼻立ちもくっきりした王が出迎えてくれた。
「おお、そなたがシリュー殿か。今日は急に呼び立てて申し訳なかったな。他の大陸から来たと聞いておるので色々と話を聞きたいと思ってな」
島以外の話を聞きたいと言っているが視線はアンコに注がれていた。
(こっちの世界に転生したのか転移したのか分からないが初代の国王は沖縄出身かもしれないな。王の顔立ちや苗字の山田、極めつけは首里城に似ている城の様子でもし違うならある意味すごいな)
「いえ、俺もそんなに詳しい訳じゃないので満足いく話が出来るか不安ですが分かる範囲でおはなししますよ」
「それはありがたい。折角だ、食事も準備させているから食べていくと良い」
並べられた食事はまさに日本で食べていた物そのものだった。食事を楽しんでいたがついに王様が気になっていることを聞いてきた。
「シリュー殿が従えているアンコ様はどこで見つけられたのだ」
(俺には殿でアンコには様ってどんだけ神聖化してるんだよ)
「実はある場所で卵を見つけましてね。魔力を注いで孵化させたんですよ」
アンコを特別に思っているのは良いが明らかに差をつけていると思いつつもアンコの卵を手に入れたときの状況をかいつまんで説明したが王様の表情が変わってきた。
「卵を見つけた、のですか? それは何年ほど前でしょう」
感情が昂ぶると瞳が赤くなるとは聞いていたが真っ赤な眼で睨みつけてきた。その雰囲気に周囲に控えていた兵士も動き始めた。
「3年程前だな。ある坑道で見つけたんだ」
すると兵士が俺を取り囲んで王様が怒鳴りつけてきた。
「貴様が先代ミカゲ様の残された卵を盗んだ犯人だったのか? 決して許さんぞ」
兵士も武器を俺に向けてきたので気絶しない程度に抑えて怖禍威を放ち落ち着かせる。
「いい加減にしてくれないか。俺は3年前にアンリケ大陸の鉱山でアンコの卵を見つけた。決してあんたたちの卵を盗んだわけではない。あんたたちの言う先代の卵とやらはいつ盗まれたんだ」
「5年前警備の者に毒を盛り動けなくなった隙に卵を盗んでいったのだ」
「それなら俺に盗むことは出来ないな。俺は4年ほど前にこの世界に召喚されたんだから5年前に盗むことは出来ない。さらに言うとあんた達のご先祖とおそらく同郷になると思うぞ。多分日本から来たと言っていなかったか? 」
「っ! それは王家の人間しか知り得ない情報で口伝として残していた。しかしお前が本当に4年前に召喚されたという証拠にはならんだろう。ん? 4年前? いや卵を手に入れたのは3年前と言っていた。それではアンコ様はまだ幼体という事なのか?」
何やら国王は独り言のように何か呟きアンコのことを聞いてきた。
「幼体? ちょっと待って確認する」
"『アンコ:シャドゥタイガー:幼体
HP 287、MP 364、攻撃 307、防御 551、敏捷 984、魔力 1037、知力 613、運 549
スキル:U潜影A S影移動P S影魔法A S闇移動P
従属:シリュー』"
アンコを神眼で確認すると確かに幼体と書いてあった。それにしてもステータスもかなり上がっているのに幼体とはどういうことなのだろうかと思った。
「確かに幼体のようだがそれが何かあるのか? 」
「幼体でこの風格を持つアンコ様を育て上げるほどの力を持つ者がわざわざ見張りに毒を持って卵を奪いに来るだろうか。先ほどの兵士を無力化した能力を見れば卵を盗んだ者たちと手口が違いすぎる。そうなるとやはりシリュー殿の言うことは本当だというのか。そもそもアンコ殿がミカゲ様の卵から孵ったという証拠もない」
国王は何かを呟いていたと思ったら俺の前に膝を着き謝ってきた。
「シリュー殿が卵を盗んだ証拠もないのに盗人扱いしてしまい申し訳なかった」
間違ったことに気づき素直に謝罪できるのは好感が持てるしそれだけシャドー種の卵を大切にしていたのだという証拠だとも分かった。
「ウィジィロー王、疑いが晴れたのなら俺は気にしていない。ただアンコを育ててきて愛着もあるからあんた達に譲る気はない。申し訳ないがそこは諦めて欲しい」
「許していただけただけで結構です。それと厚かましいお願いではあるのですが成体になり卵を産んだ時は我が国にお持ちいただけないだろうか。本来シャドー種はこの島に多数生息していると言われているが警戒心が強くなかなか従魔にすることが出来ない。我が国を助けると思い記憶にとどめておいて欲しい」
「シャドー種は本来成長がゆっくりな魔物で外敵から身を守るため影に潜み力を蓄えると言われている。野生のシャドー種は孵化後50年ほどかけて成体になり卵を産むと言われている。生後3年でそれほどの力を持つアンコ様であればそこまで長い時間を掛けずとも卵を産むのではないかと思ったのです」
「そんなにアンコは成長が早いのか」
「そうですね。元々タイガーのシャドー種は極稀です。そして強いシャドー種となると成長も更に時間がかかりアンコ様の力量に達するには少なくとも10年は必要でしょう。そのため我々は最初アンコ様を盗まれた卵から孵化したシャドー種とは思いませんでした。しかし数年前に手に入れた卵だと聞いたとき我を忘れてしまったのです。本当に申し訳なかった」
「終わったことだし俺もアンコの生態が聞けて良かったよ。それにしても成長が早いのは魔力を注ぎ込んだからなのかな。冤罪で牢に入れられたときに3日程魔力を吸えるだけ吸わせたら孵化したんだ」
「我々も卵の時に魔力を注ぎますがすぐに魔力が枯渇してしまいます。複数人で注ぐこともありますがミカゲ様の精神状態が安定しなくなるため王が責任をもってお世話をするようにしています」
魔力を注いだ人間の性格などが反映することもあるようで良くないらしい。おまけに普通の人間なら卵に魔力を注ぐと5分も経たず昏倒すると言われ呆れられた。
「ところで卵を産むというがオスやメスなどは関係しないのか? 」
「シャドー種の卵は普通の卵とは異なります。幼体から成体になる時や成長し姿を変える時などに脱皮をします。その脱皮した物が集まり卵となるのです」
「分かった。それならアンコを鍛えて早く卵を届けられるようにするよ」
「ありがとうございます。私が生きている間で難しいと思いますので息子にしっかりと伝えておきます」




