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宿の部屋で寝ていると支配人が血相を変えてドアを激しくノックしてくる。
「お客様、大変、大変です。起きてください。お願いですから起きてくださいよー」
「なんだよ。ちゃんと時間になったら出て行くからもうちょっと寝かせてくれよ」
「寝ないでください。お客様にお客様です。早く着替えて来てください。すぐですよ。寝ないですぐ来てくださいね」
意味が分からない内容を捲し立てられたが急ぎの様だったので従うことにして着替えて1階に降りてきた。
ピシッとした服装の老齢の執事風の男が俺を待っていた。
「お初にお目にかかります。わたくしリヴィア7世陛下にお仕えする執事長であるタトールと申します。先触れもなく申し訳ありませんがご一緒に登城をお願いしとうございます」
最敬礼でお辞儀をされてしまい断ることは出来ず付いて行くことにした。
宿の前にはキラキラした馬車を下半身が魚のような馬が引く様に繋がれている。促されるがままチャミと共に馬車に乗り込むと静かに移動する。なぜか通りの両サイドには頭を下げる人が並んでいた。
城の入り口には兵士たちが整列し少し身構えたが馬車から降りると全員が頭を垂れてしまう。中には少し震えている者も居たが気にせず城に入って行く。
謁見の間に入ると王冠を頭に乗せた王と思われる海人のほかに全ての王族がなぜか玉座ではなくシリューと同じ高さで跪いている。
どうしていいのか分からず声を掛ける。
「悪いが俺は城に来てくれと言われてきたんだがこれは一体どういうことなのかな? 」
「昨日海都守備隊のムスクルスより報告を受け真なる海王をお迎えするべく今回お越しいただきました。どうぞ玉座にお座りください」
「いやいやいやいやいや、俺は決闘に勝ったからこの指輪を貰っただけでただ魔力を注ぎ込んだだけだから真なる海王とかガラじゃないから」
「いえ、やはり拝見させていただくと伝承の通り海のごとき輝きの海獣の守りを持つあなた様こそが真の海王を名乗るにふさわしいです」
「だから魔力をたっぷり注いだだけなんだって。そんなこと言うならこの指輪返すから帰らせてくれよ」
「その指輪をお返しいただけたとしても既に海人国全ての貴族があなた様を真の海王と認めてしまっています。平民にもそのうち知らせが行き渡るかと思います。どうか海の意思を携えたシリュー様に海人国を導いていただきたい」
海によって生かされていると思っている海人国の人間にとってこの色の海獣の守りは絶対的な物の様だった。
しかし俺は王になるために大陸を見て回ったわけではなかったのできっぱり断る。
「悪いが俺は王になるつもりはない。世界を見て回って見聞を広めたいと思っているだけのただの冒険者だ。だからこの国に留まり続けることはないから王になることは出来ない」
それでも俺が王座に座るまで王様は動こうとしないのであることを思いつく。
「えーと、リヴィア7世だったっけ」
「わたくしのことはオルク・ポセイドニアとお呼びください」
「じゃあ、オルク、今から俺の命令を伝える。必ず守るように。では俺はこれからも旅を続けるので俺の代わりにこの国の民が安寧に暮らせるようきちんと統治するように。ここにいる貴族もオルクを補佐してより良い国にしてくれ」
「海王たるシリュー様よりこの国をお預かりし民のために尽くしてまいります。ただこの国はシリュー様のご意思が第一でございます。いつでもお戻りいただき我々をお導き下さることを願っております」
「ところで海獣の守りに使い方ってどうすれば海獣を使役できるようになるんだ」
「その指輪を嵌めた状態で海獣に対面することで相手の声が聞こえてきます。その海獣が気に入れば海の中のどこにでも駆け付けてくれます。シリュー様の色であれば海獣から拒否されることなく協力的になると思います」
国王の話を聞いて試すため海中を進んでいると王城の結界を出た辺りで半透明の小さな亀が近づいてきた。
「お主は海王殿か? 」
いきなり頭に声が響いてきて念話だと思ったが誰かと思ってキョロキョロしてしまった。
「ワシじゃよ。目の前にいる亀じゃ。本体は別の場所にいるがこれはワシの魔力で作った分身のような物じゃ。海王殿に頼みがあって世界中に分身を送ったのじゃ。それにしても海人ではなく人族が海王になるとは驚いたものじゃ」
「それで俺に何か用なのか? 海王かどうかは知らないが一応この色の海獣の守りは持っている」
海色の海獣の守りを見せると喜んでいた。
「おお、まさに海王の証を持っておる。しかも今までで一番美しい色をしていのう。新たな海王に頼みがあるんじゃが事情があってワシは動けんのじゃ。ワシのところに回遊してくるものが居るから分身の案内に従って来てほしいのじゃ」
勝手に話が進んでいるが状況が掴めなかった。
「ちょっと待ってくれ、俺が海王だとしてあんたは俺になにをさせたいんだ? 」
「分身では話が長くなると魔力を消費して消えてしまうから直接来て欲しいんじゃよ。道案内はワシの眷属たちがしてくれるじゃろうから集合場所に来て欲しい」
とりあえずある場所に行けば良いのだろうと思い光る亀の後を追って海底を移動していく。
段々深い場所に向かっていくと暗い中をゆらゆらと動くものが見えてきた。警戒していたが近づいてみると大きなクジラが優雅に泳いでいる。
クジラに近づくと光る亀がさらに光りクジラが1頭俺達の方へ寄ってきた。
「この者がワシの所まで連れて行ってくれるそうじゃ。背中に乗ってゆっくりくつろいでくれ」
そう言うと光る亀は消えてしまった。
俺達がクジラの背中に乗るとゆっくりと動き始める。周りにもクジラが付いて来て様子を見ているようだった。徐々に速度が上がりかなりのスピードになっていたが水圧などは感じなかった。
クジラ以外にも大きな海獣が連れ添ったり反対方向から来てすれ違ったりしていた。
俺は特にすることが無くチャミの膝枕で寝ることにしたがチャミはずっと起きて周りを見ていたらしい。
3日目にようやくクジラが速度を落としてきた。クジラが完全に停止したが周りは暗いため良く分からないので光魔法で照らし海底に降り立つ。
どっちに行けば良いのかキョロキョロしているとチャミが声を掛ける。
「シリューちゃん、あっちに光りが見える」
光の方向に進んでいくと向こうも俺達の方に近づいていたようで目の前に光る亀が見えた。
海人国で見た亀はうっすらと透けて見えたが今回の光る亀はほぼ実体に近いものだった。
おそらく俺達を出迎えるために本体から新たに作られた分身だと思うので魔力が多くあったのかもしれない。
「よく来てくれた海王よ。」
そんなことを考えていると亀が声を掛けてきた。
「それで本体に会うにはどこに行けば良いんだ? 」
「既にワシの背中に乗っておるぞ。ただ折角なので話がしやすいように顔の近くにきてほしいのじゃ」
どのあたりが背中の甲羅になるのか分からないが一体どれだけの大きさなのか分からない。
亀の後を付いて行くと海底洞窟のような場所に着いた。洞窟の中に入って行くと開けた場所に出た。
すると4mほどの大きな亀が姿を現した。
「ようこそ、ワシの頭の上で話をさせてもらおうと思う。ワシが動いてしまうと甲羅の上の街が大変なことになるから分身を相手に話をさせてもらう」
「ところで話というか頼みというのは何なんだ? 」
「簡単に言うとワシのことを呼び出さないで欲しいという事じゃ。その指輪の力があればワシを呼び出すことも可能ではあるが居眠りしている間に甲羅の上に人が住み着いてしまい動くに動けんのじゃ」
「ちょっと聞きたいんだがなんであんたの背中の上に人が住み着くことになってるんだ? まさか動いているあんたの背中に飛び乗って国を作ったという訳ではないんだろう? 」
「海王殿も見たと思うが北の極点辺りは明るいんじゃ。ポカポカしていい気持ちなんだが寝るには明るすぎていい昼寝の場所を探して散歩している時に良い場所を見つけたんじゃ。少しひんやりもしていたしついウトウトしている間に気が付いたら人が街を作って住み着いてしまい動けなくなったんじゃ」
「ちょっとの居眠りじゃ人は街をつくらんだろう。亀は長生きというが限度があるぞ」
「まあ、そんな細かいことはどうでもよいじゃろう。それと海王殿が持っている海獣の守りについてじゃがその状態になった物をワシは海の意思と呼んでおる。北の島に住んでいった者たちがそう言っていたと思うが過去の海王が子孫へ伝えていたのだじゃろう。ただ海の意思がいくつもあるのはおかしいのでこの世界に1つしか存在せん。つまり海王殿が持っている指輪が唯一の海の意思となるのじゃ」
「それじゃあ海の意思を持つ俺から呼び出されれば動かざるを得なくなるから呼ぶなと言うんだな」
「簡単に言うとそういう事じゃ。ただ海王殿を運んだ眷属たちが助けるので用事がある時は呼んでくれれば近くにいる者が駆け付けるじゃろう」
「俺としても特に困っていることもないしたぶん自分でどうにか出来るだろうから呼ばないようにするさ。ところでこの辺りは今は夜なのか? 明るくなったら陸上に上がって街に行こうと思うが近くにあるのか? 」
「ワシがここに来たのは南の極点に近いため殆ど陽が差し込まぬ。つまり明るくないので居眠りするのに最適だったのじゃ。それと陸地というか甲羅の上じゃから大陸のような広さはない。ワシが知っているのは大きな街が1つと小さい村が4つあるだけじゃ。それとワシの魔力を糧にしたのか小さいながらもダンジョンが出来ておるから時間があれば言ってみると良い」




