㉛
16名の本戦出場者が決まり本戦トーナメントのくじ引きを行う事になった。
俺は1番を引いてショーファンは13番だったので奴と直接対決するのは決勝だということが分かった。
俺の1回戦の相手は猪の獣人で身長が2mほどで横幅もしっかりしており脂肪ではなく筋肉で覆われていた。
試合が始まると雄叫びを上げながら突進してきた。それもかなりの速度が出ていて真面に当たると間違いなく場外に吹き飛ばされると感じた。
俺はひらりと体を右に避けて左手の裏拳を相手の蟀谷に叩き込むとその場に倒れ込んだ。
審判が駆け寄り相手を確認したが両手を大きく振り俺の勝利を宣言した。
ショーファンの戦闘スタイルは分からないがお互い順調に勝ち進み3回戦を終えて俺とショーファンが残り明日の決勝の対戦が決まった。
「シリューよ、明日は決勝じゃな。おぬしが負けるとは思っていなかったがやはり結果として聞くと師匠として嬉しいものじゃ。成り行きとはいえ1年という短い期間ではあったがおぬしに指導できたことはそれがしにとってもいい刺激になった。シリューの相手になる者もそれなりの実力がある者を選んだので油断せぬようにな」
道場での夕食を食べる時に師匠からありがたい言葉を貰い気合を入れ直した。
決勝が行われるため武台に立つと師匠に喧嘩を売った男が観客席の最前列でニヤニヤした笑顔を見せている。
俺の相手のショーファンは目を血走らせ鼻息も荒く何かヤバイ薬でも飲んだんじゃないのかと思うほどだった。
『さあ、気合十分の選手が武台に揃いました。なんと今年の拳聖祭は人族のシリュー選手が決勝に進出するという初めての出来事が起きています。ただしシリュー選手が通っていたのが歴代の拳聖祭で一番と言われているフォンランさんの道場と言うことでその強さも頷けるものだと思います。対戦相手のショーファン選手も新進気鋭の道場として有名なジョセファンさんの道場で体を鍛え1回戦から3回戦で相手の攻撃を自らの体に掠らせることなく勝利しています。聞くところによるとシリュー選手とショーファン選手の勝敗によって道場の命運も掛かっているらしいです。2人がどんな戦いを見せてくれるのか楽しみで仕方ありません』
実況者がなぜかこの戦いにかかっている賭けについて知っていた。ジョセファンを見ると嬉しくして仕方ないといった感じでニヤニヤ顔を隠していない。
(ああ、奴が師匠の逃げ道を潰すために大衆に知らせるためリークしたんだな)
相変らず卑怯な手段を取ると思ったが俺が勝てば問題ないと考えると気持ちが楽になった。
他のことに思考を巡らせていると審判から試合開始の号令が発せられた。
ショーファンは武台を蹴り俺に殴り掛かってきた。余裕をもって避けていたが反撃しようとすると大きく飛び下がり攻撃が届かない。
こっちから攻撃しようとするが俺の攻撃が読まれているように空を切る。師匠から特に指摘はされなかったが攻撃をするときの癖でもあるのかと考えてしまう。
(素の身体能力は間違いなく俺の方が高いと思うがどうしても当たらないんだよな)
俺は紙一重で躱しショーファンは獣人特有の身体能力を生かして飛んだり跳ねたりして攻撃を避けていく。しばらく膠着状態が続いていた。体も暖まってきたのでギアを上げて速度を上げていく。
手足に込める魔力を増やし速度が上がった事でショーファンの体に俺の攻撃が当たるようになってきた。大きく飛び下がり慌てたように手甲を触っていた。
(何をしてるんだ? 自分を落ち着かせるためのルーティーンか? )
最初は何かの癖かとも思ったがあまりにも繰り返しするので手甲だけを神眼で確認することにした。
『鉄製の魔手甲:一番近い位置にいる者の思考をおおまかに読むことが出来る』
(ははーん、その手甲の機能で俺が攻撃する位置などが分かるけどはっきりとしたことが分からないから大きく避けていたんだな。それで俺の速度が上がったから察知してそれに合わせ動こうとするが間に合わなくなったということか)
相手が姑息な手段を取るからと言ってこちらも同じことをしてしまえば師匠に申し訳が立たない。幸い打開策は分かっているので有り余る魔力を使って身体強化を行い分身ができるぐらい早く動き思考を呼んでも対処できないようにする。
ショーファンは俺の残像を目で追うことが精いっぱいで実体を見つけることは出来ないでいた。
決着をつけるため本気で攻撃を行う。ただ勢いあまって殺さないよう注意しながら殴って場外に飛ばした。
ショーファンは観客席の壁に激突して気を失った。審判が俺の勝利を宣誓したので慌ててショーファンに駆け寄り手甲を外した。ジョセファンは俺の行動を見てヤバいと思ったのか逃げようとしたのでピンポイントで怖禍威を掛けて動きを止めた。
神眼で確認するとジョセファンも同じ手甲を身に付けていたので鑑定が出来る人間を呼んでもらった。
俺の表彰式はそっちのけで大会の関係職員が集まりガヤガヤしてきた。観客も騒ぎ始めたので一旦2人をバックヤードに連行して俺の表彰式が再開された。
大会の表彰式では人族で初の優勝者と言うことで騒然としていたがショーファンとの戦いを見ていた観客から不満などは出てこなかった。
逆に人族で優勝できる強さが身に付けられる流牙拳が脚光を浴びることになった。
入門生が増えるかもしれないがあの無口な師匠の事なのでどれくらい残るのかは甚だ疑問ではある。
巻き込まれた形とはいえ役目は果たせたと思ったので自由にこの大陸を見て回ろうかとも思ったがよく考えれば修行と称して冒険者の依頼を受けながらあちこち見て回ったので次の大陸へ行くことにした。
ちなみにショーファンとジョセファンは知り合いだったうえに武術経験者で元々能力が高かったらしい。ステータスの能力としては俺も高かったのでズルいとは言えない。
師匠を騙して道場を手に入れようとしていたらしいが確実性を出すために思考を読み取る魔道具を使用したらしいが大会の禁止事項に触れるということで今後一切の大会参加を禁止になり多額の罰金も請求されたらしい。
「では師匠1年という短い時間でしたがお世話になりました。俺とチャミは旅を再開するので失礼させてもらいます。」
「うーむ、シリューの才能が有ればそれがしなどすぐに追い越し人間発の獣王になれると思ったのじゃが残念じゃ。とはいってもシリューの人生をそれがしのわがままで縛り付けるわけにもいかんしのう。また時間があればいつでも立ち寄ってくれ。」
道場を出て街を出ようとすると俺を見かけると声を掛けたり握手を求めたりしてくる。
大会の優勝者と言うことで有名になってしまったようだが何ともくすぐったい感じがする。
露店の店主たちからはお祝いと称して色んなものを渡された。野菜や果物などはチャミが喜んでいた。
馬車は使わずカカーリから東に歩いて移動し2週間ほどかけて東の港町であるシッシブッシについた。
修行中この街には来ていなかったのでゆっくりしていこうと思い街中を散策していくと漁業が盛んなようで色んな海産物が売られていた。
生の魚介や日持ちさせるため乾物にされた商品を見ながら町を歩いていると醤油を焦がしたような匂いがしてきた。
驚きつつも匂いに釣られて行くと串に刺した魚を焼いていた。
魚には黒い液体が塗られ周囲には食欲をそそる匂いが充満していた。
ここ数年忘れていた魚醤とは違う懐かしい匂いだったこともあり息を思い切り吸い込み匂いを堪能する。
「悪いが今焼いている串を全て売ってくれ」
早速買い込んで醤油について話を聞く。
「ところでその魚に付けている黒い汁は何なんだ? 始めてみるが昔からこの街に伝わっている調味料なのか? 」
「ショーユの事かい? これは……」
この店は元々魚醤を作っていたがある冒険者が醤油の作り方を教えたので試しに作ったら美味しかったので本格的に作り始めたと言う。しばらく店先で調理して売ってみて売れ行き次第では他の街へも売り出すと言っていた。
醤油の作り方を教えた者の特徴を聞くとベルフラウ・スプリングフィルと名乗る黒髪の女の冒険者だったらしい。
ドワーフや獣人のパーティーメンバーと一緒だったようでおそらく春野さんだと思った。
(それにしても俺が色々している間にカカンカ大陸まで来ているとは思わなかったな。おまけに醤油まで作ってくれるとはあの時気まぐれとはいえ助けて本当に良かった。あの時の俺を褒めてやりたいよ)
串焼きの魚をつまみ食いしてくるチャミをけん制しながら懐かしい味を堪能しているとボロボロの服を着た子供達が街から出て行くところを見かけた。不思議に思い後を付いて行くと服が濡れるのも気にせず川で魚を捕まえていた。
どんな魚が居るのか気になって見ているとウナギのような魚を捕まえていた。
獣人特有の爪のある手でウナギっぽい魚の頭を抑え込んで器用に捕まえていた。
大きさも日本のものに近く思わず見入ってしまった。
「悪いがその魚を俺に売ってくれないか? 」
手掴みの漁がひと段落したころ合いを見て声を掛けた。いきなり声を掛けられたことで子供たちを驚かせてしまったようだったが一番年上っぽい男が返事をしてきた。
「あ、あん、あなたは ひ、人族の冒険者なのか、ですか? このヌルヌルをどうするんだ? 買うというけどいくらだすんだ、ですか? 」
いきなり声を掛けたことで警戒させてしまったようで良く分からない敬語で質問返しをしてきた。
「ああ、その魚が俺の知っている物なら多分旨いと思うから銅貨10枚で買わせてもらうぞ。近くに行って見せてもらっても良いか? それと話し方がおかしいからいつも通りにしゃべって良いからな」
「この辺りに居ない人族を見かけたら偉い人かもしれないから注意するように言われてたから……」
(確かにこの辺りに居る人族と言えば高位の冒険者か大陸を股にかける大きな商会の人間ぐらいだろうから気を使うのはうなずけるな)
「俺はただの冒険者だから気にすることはない。それでそっちに行っても良いか? 」
近づくことへの返答をしていなかったことを思い出した子供たちは慌てて了承してきたので植物をお見込んだような籠の中を見ると少し形は違うが殆どウナギと言ってもおかしくなかった。
『イルネイク:淡水魚
HP 3、MP 1、攻撃 1、防御 4、敏捷 6、魔力 1、知力 2、運 2
スキル:N粘膜P N逃避A N毒血P
食用可:きちんと血抜き、または調理することで無毒化できる』
「にいちゃん、ホントにこのヌルヌル買ってくれるのかい? 毒があるからって街の人は誰も買ってくれないし触るのも嫌がるからアタイ達が食べる分だけ獲ってるんだよ」
籠の中のウナギもどき改めイルネイクを神眼で確認していると幼いうさ耳の少女が声を掛けてきた。
「ああ、これは俺が知っている魚に似ていてそのままでは食べないから大丈夫だ。料理の仕方次第でとても美味しくなるんだぞ」
そう言って異次元庫からまな板に仕えそうな木板と目打ち代わりの太めの針を出す。
よく切れるチャミの包丁を借りて早速ウナギを捌いていく。頭をまな板に針で固定しうろ覚えで捌いていく。内臓を取り出し背骨にかなり身は残ってしまったが無事取り外せ開くことが出来た。
獣人の子供たちも始めてみることに食い入るように見ていたが捌き終えたイルネイクを見て驚いていた。
野営用に買っていたカセットコンロのような魔導調理器を出してフライパンで焼いていく。本音を言うと炭火で焼きたいところだったが竹串もなければ炭火もないのでとりあえず調理していく。
皮目を下にしてフライパンに蓋をして蒸し焼きにすると香ばしい匂いがしてきた。軽く塩を振って食べてみたが日本で食べたウナギより美味しく感じた。
子供たちにも味見をさせてみると目を見開き驚いていた。
「なんだこれ、旨いな」
「いままでぶつ切りにして煮てたけど焼くと皮がパリッとして美味しいね」
子供たちも喜んでくれていたので良かった。
「そういえばその魚は血が毒みたいだから内臓は食べない方が良いぞ。身の方も良く洗ってから焼く様に注意しとけよ」
鑑定の結果を踏まえて注意点を教えると少し驚いていた。
あることを思いついて子供たちを連れて先ほどの醤油を買った店に行く。
子供たちを連れて街中を歩いていると痛い視線を向けてくる者も居たが醤油を扱っている店主は気にしていなかった。
「おう、さっきの客じゃないか。追加でショーユを買いに来たのか? 」
「いや、実は醤油を使った新たしい料理のことを教えておこうと思ってな」
「新しい料理にスラムのガキが何か関係あるのか? 俺は別に構わないが毛嫌いしている奴らも居るからそいつらがケガするかもしれないぞ」
「そうなのか? でもこいつらが捕ってる魚を使った料理だから買い取って貰うために連れてきたんだがな」
「ちょっと待てって、もしかして川で取れる毒魚じゃねえだろうな。あんなの売ったらウチは潰れちまうぞ」
「心配すんな。ちゃんと調理方法を注意すれば毒はないし出来上がった物を喰ったら間違いなく売れると思うぞ」
店主に捌き方を教えながらチャミにタレを作ってもらうために指示を出していく。
しっかりと水を流しながら捌くことを教え串を借りて焼いていく。
チャミが作っているタレに頭を香ばしく焼いたものを入れてエキスを抽出させる。
タレにとろみがついてきたので素焼きしたウナギに絡めて再度焼いていくと醤油が焦げた匂いより更に良い匂いが辺りを埋め尽くす。
店主も驚いていたが出来上がった蒲焼を食べさせると思わず「ウマッ」とこぼしていた。
「それでおっさん、レシピを含めて今後のイルネイクの買取はしてくれるのかい? 今ならタレのレシピや捌き方はサービスでタダにしてやってもいいぞ。その代わり必ず魚の買取はこいつらからしてくれる約束ならって話だがな」
店主も何とかスラムの子供たちを助けたいと思っては居たらしいが自分の性活もあるので何もできていなかったようで今回の俺からの提案を断る理由はないらしく承諾してくれた。
ついでに中骨の骨せんべいの作りからも教えると喜んでいた。
指導しながら店主に焼かせてみるが流石プロと言った感じで俺より上手に焼き上げていた。試食したウナギは白米を食べたくなる味で最高だった。
子供たちの定期的な収入が確保できたし懐かしい味を味わうことが出来たので翌日には次の大陸を目指すことにした。
出港してすぐは海面を滑るように進んでいた。流牙拳を学んだことで風や海の流れなども把握しやすくなったことでうまく船を操作できている。海岸から離れてくると徐々に浮かせていきかなり離れたころには3mほど海面から離れていた。
出港するときに次の大陸へ行くのはかなり波がうねってると聞いていたからでじっさい3mほど浮いていても波しぶきがかかることもあった。
(確かに俺の船のサイズで普通に海面を進んでたら確実に沈没していただろうな)




