㉚
次は空中に舞わせた葉っぱや羽などを掴み取る。場所の把握は行えるが自分の動きで起こった空気の流れで軽い羽などの場所が変わり少し躓いた。
師匠の動きを見せてもらうと動きに無駄が無くほとんど自分の動きで風が発生していなかった。目標に向かって腕を動かすが空気の流れに逆らわないため目標がぶれることがない。
褒めてもらったがまだまだ師匠の域には遠く及ばないと実感できた。
順調に修行を行っていたがチャミも順調に強くなっているようだった。
今までは積極的に戦っていなかったが今回の件で食材を集めるため戦うようになった。
『チャミ:コピースライムクイーン
HP 211、MP 4132、攻撃 6487、防御 6004、敏捷 3721、魔力 8249、知力 9227、運 304
スキル:U補食強化A S感情復元P U調理A S洗濯A S掃除A S裁縫A U不壊P R身体変形A
ダンジョンモンスター 捕食者 寵魔 押しかけ女房』
こっそり神眼で確認したら新たなスキルを覚えていた。取り込んだ魔物の体の構造を部分的に使うことが出来るようになるようだった。
今までは全体的に変更するだけで変更してしまえば元に戻せなくなるという事だったが自由に変更が可能になった。
おまけに称号の部分に押しかけ女房とあり結婚していないんだけどと思ったが食事や洗濯など身の回りのことを無償でしてもらっていることを考えるとメイドではなく女房と言った方が正しいのかもしれないと納得した。
修行を始めて2月ほどすると粗削りながら羽や葉っぱを掴むことが出来るようになってきた。
お互い目隠しをした状態で師匠との組手をするようになったが初めは掠ることも出来なかった。
殆どその場を動いていないのに風を受けてよける羽のように俺の攻撃がすり抜けていく。
チャミ曰く師匠とダンスをしているようだったと言われた。
3月ほどするとようやく師匠の体に攻撃が当たるようになるが片手でいなされ当たった感触もしないほどだった。
師匠の腕に当たる瞬間を意識してみると腕が微かに捻られ力を受け流している。それも意識しないと分からない程度のごくわずかな動きなのに俺の攻撃が逸らされてしまう。
4月ほどで師匠からの攻撃も加わってきて攻撃が当たる瞬間腕や体を捻って力を逸らそうとするがタイミングをずらされ吹き飛ばされる。
不壊があるので痛みなどはないが体がズレて反撃が出来ない。ただ攻撃する場合のコツなども分かってきたので多少は当たるようになってきたが師匠の体をずらすことは出来ない。
「そういえばシリューは攻撃の際に魔力を纏っていないが出来ないのか? 」
「魔力を纏うとはどういうことが分からないが魔力は使うなという事だったから使っていないが使って良かったのか?」
「それがしが言ったのは周囲の感知をする際に使うなという意味で攻撃するときは魔力を纏った方が威力が増すから使った方がいいだろう」
ただ魔力を纏うという意味が分からずにいたが師匠に手本を見せてもらうと今まで感じていなかったが意識してみると師匠の攻撃が当たる瞬間魔力を込められていた。
「それがしは魔力が少ないのでほんの一瞬使っているがシリューの魔力量を考えるとすごいことが出来るんじゃないか? その辺も含めて今後は実戦で使った方が良いだろうから組手は1時間程度に抑えて魔物を狩ってみるのも良いんじゃないか」
翌日から組手を終えて街の外に出て魔物を狩るようにした。感知の範囲も広くなり魔物の場所も手に取るように分かるようになった。特に魔物の体内の魔力の動きも分かるようになりどんな攻撃をしようとしているのかが分かるので掠らせることもなく攻撃を加えられている。
ただ魔力を纏うという感覚が不十分で試行錯誤の結果数日掛けてどうにか出来るようになった。
そのことを師匠に報告すると「その魔力を持っていて今更か」と呆れられた。獣人は獲物を狩る為に自然に出来るようになるらしかった。
組手の中で当たる瞬間魔力を込めているがどうしてもタイミングがズレて思うような威力にならない。
「今のシリューは空間の把握を無意識に出来るようになっているが魔力を纏う際はまだ考えて行っている。意識するのではなく反射的に出来るように心がけるのだ」
体術の動きとしては格闘のスキルを持っていたので上手くいったがまだまだ魔力を纏うことに苦労している。
こればかりは反復練習しかないと思い魔物相手に試していく。
ただ街の近くの魔物は猪や狼のような魔物で組手の練習には向かない。
チャミの話ではダンジョンがあるという事だったので出てくる魔物を調整するためにダンジョンを制覇することにした。
空間把握がありスムーズに階段の位置が分かるのでサクサク進み1番で地下20階層のボスを倒しダンジョンマスターになった。
他の冒険者も居るのでメインのダンジョンはそのままで隠し部屋を作って人型の魔物を定期的に出すようにした。
倒すついでに以前買おうと思っていた剣術のスキルオーブをドロップに設定しておいた。
ひたすら倒し続けた結果剣聖スキルになってしまったので格闘のスキルオーブに変更したがこれは何となく違うと思ったので修行が終わってから使おうと異次元庫に貯めておく。
ハイオーガやドラゴニュートと言った強力な魔物を相手に魔法を使わず流牙拳だけで2か月ほど戦い続けた結果師匠の組手で両手を使わせることが出来るようになった。
それでも師匠の体に攻撃を当てることは出来ない。
呼び出す魔物を2体3体と増やしていき20体以上を同時に相手にして圧勝できるようになった。
約束の1年が明日になった日、俺は師匠に挑み体に攻撃を命中させることが出来た。
命中させたと言ってもほどんどの威力を受け流されほぼ無傷だった。
不壊のおかげで死ぬことも負けることもないが1年の修行で師匠には勝てないと改めて実感できた。
「まさかそれがしの体に攻撃を当てるようになるのに1年とは驚いた。これでも若かりし頃は拳聖祭で優勝し驕ることなく今日まで鍛錬を行っていたがそなたの才能には感服する。明日の大会では思う存分力を振るってくるが良い」
「ああ、人間である俺を育ててくれた師匠やこの道場が最高たと分からせるため優勝してくるぜ」
翌日道場の紋章が刺繍された羽織を纏い大会の有る闘技場へ向かう。
俺以外にも屈強な者たちが闘技場の周りに集まっており入場を待っていた。
(そういえば師匠の喧嘩を売ったジョセファンだかが育てることになっていた男ってどんな奴だったかな。体がデカい奴だった気はするが顔をほとんど覚えていないんだよな)
俺が確実に倒すべき相手の顔を忘れてしまいどうしようかと思っていると声を掛けてくるものが居た。
「おうおうおう、てめえは確か古臭い道場で俺様に負けるために無駄な努力をしたやつじゃねえか」
「確かに俺の相手というか師匠に勝てないからと遠回しに喧嘩を売ってきた馬鹿に弟子入りした奴がこんな顔だったな」
煽ってきたので煽り返してやると顔を真っ赤にして牙を剥き出しにして睨みつけてきた。
「てめえみたいな糞のような人間が予選を通過できるとは思っちゃいないがジョセファンさんを楽しませるためにも決勝トーナメントには上がって来いよな。それから俺様はショーファンだ。俺様は優しいから直接戦うことになっても殺さないでやるから感謝しろよ」
選手の入場が始まったのでどこからくる自信なのか分からないが喧嘩腰に言葉を吐き捨て会場に入って行った。
今回の大会の参加者は300名を超えており抽選の結果16のグループに分けられた。20名弱でバトルロワイヤルを行い残った物が本戦に進めるという。
俺とショーファンは別のグループだったので戦うとすれば本戦に入ってからということになった。
俺のグループの順番になったので武台に上がると血走った眼をしている者も大勢いた。
開始の合図を聞くとなぜかほとんどの参加者が俺をめがけて襲い掛かってくる。追いかける必要が無くなって無駄な体力を使わずに済んだとホッとしながら相手の鳩尾に魔力を纏わない拳を軽く当てると腹を押さえて蹲ってしまった。
数人が倒れ他の参加者も驚いていたが今度は一斉に襲い掛かってきた。相手の攻撃に当たることもなく最小限の動きですれ違いざまにあるようなゆっくりとした歩幅で全員を気絶させていく。1分も掛からず俺の本戦出場が決まった。
客席からは何が起こったのか分からないようでどよめきが起こっている。中には人間が獣人に勝てるわけがないと何かしらの不正をしたに違いないと吠えている獣人がいた。
そんな中、俺が師匠の元で修行をしていたことを知っている者が居たようでその話が広がってくるとそれなら納得だと会場のざわめきが落ち着いた。
静かになった会場の様子で我に返った審判が俺の予選通過を宣言したのでようやく武台から降りることができた。参加者は予選の様子を見れないので控室に戻り全ての予選が終わるのを待つしかない。
本戦に参加できる選手用の控室で待っていると俺の後に予選を行い通過した選手が控室に入ってきた。
ほとんどが獣人であるため人間の俺がいることに驚き部屋に入ってくる瞬間びっくりしていた。
予選後半だったショーファンは俺の顔を見て獰猛な笑みを浮かべ声を掛けてきた。
「俺様に負けるためにわざわざ無理して予選を通過してきたのか? まあ本戦で俺様に当たるまで負けないようにせいぜい頑張るんだな」
相変らず俺を弱者と思って上から目線であるが実際あいつの力量は分からないので用心だけはしておいた方が良いと気を引き締める。




