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風速を調整して港に入って行く。サンノマイツで聞いた通り獣人が多くいるようで陸地ではケモ耳の屈強そうな男たちが働いていた。
桟橋で作業をしていた犬っぽい耳をした獣人に声を掛ける。
「ちょっと聞きたいんだが港に入るのにどこかに許可を貰う必要はあるか?」
「んあ? ああ、おめえさんたちは商人じゃねえんだろう。見たところ冒険者って感じだな。それなら入国の手続きだけあそこの建物ですれば問題ない。船を停泊させておきたいなら同じ建物の港湾事務所で金を払えば問題ない」
「助かった。ありがとう。船は持って行くから心配していない」
船から降りて桟橋に立つと船を異次元庫に入れてしまう。
説明してくれた犬耳の獣人はびっくりして尻もちを着いていた。
「いらっしゃいませ。コンメーノッツ港湾事務局へようこそ。本日はどういったご用件でしょう」
「さっきアンリケから来たんだが入国の手続きを頼みたい」
教えられた事務所で入国の手続きをするため冒険者のカードを見せると驚かれた。
「シリュー様はアンリケでAランクになられているのですね。それならここでも問題なく活動できると思いますので頑張ってください」
うさ耳の色っぽい受付嬢がわざとらしく手を握りながらカードを返してきたが後ろに居た男たちから殺気を帯びた視線が突き刺さってきたので無反応でカードを受け取り事務所を後にした。
「シリューちゃんが好きそうな女の人だったのにえらく素っ気ないのね」
事務所を出るとチャミが棘のある声を掛けてきた。
「いや、この大陸はアンリケと違って揉め事があると戦って解決すると聞いていたから面倒ごとは勘弁したいと思っただけだ。それにあの受付嬢は色気はあったかもしれないがトラブルを起こしてまでお近づきになりたいとは思わない。お前が絡まれたらちゃんと助けてやるから心配するな」
守ってやると言われたのが嬉しかったのかご機嫌で俺の腕にしがみ付いてきて歩きにくかったが悦んでいるようなのでそのままにして宿を探した。
大きな港町と言うことで宿はすぐに見つかったので早速手続きをして部屋に行く。
夕食はすぐに食べられるという事だったので旅装を解いて食堂に向かう。
アンリケが野菜などを輸入しているというだけあって色々な食材を使った料理が並べられた。
魚のフライやステーキなどに色とりどりの野菜の付け合わせがあり美味しかった。
チャミも何やらブツブツ言いながら料理を味わっているようだった。
宿で聞くとここはカカンカ大陸というらしくアンリケ同様1つの国が統治しているらしい。獣帝国シェーゴドゥムは獣帝という獣人の皇帝が統治しており帝都カカーリで5年に1度行われる武闘大会で優勝した者が帝位につくという。
そんな脳筋じみた決め方でいいのかと思ったが獣人の「強い者は正義」という気質には合っているらしく逆らうものは居らずどちらかと言うと自分が次の皇帝になると盛り上がっているらしい。
戦いの技術を磨くため帝都には武術道場が多くあり田舎の都市にも道場があり切磋琢磨しているという。
武道大会は去年あったばかりというが闘技場は色々な大会が行われており賑わっているらしい。
不壊や魔力によるゴリ押しの戦闘を続けていたので技術と言うものに興味があるので見物に行く事にした。
翌日早速コンメーノッツからカカーリへ向かう馬車に乗り込むとのんびり馬車に揺られていく。
人族もそれなりに居たがやはり獣人が多くいて立ち寄った町や村でも子供たちは体を鍛えていた。
10日ほどかかってようやく帝都であるカカーリに着いた。
馬車から降りて宿を探していると往来の中で言い争う声が聞こえてきた。
正確には犬のように尖った耳をした獣人が猫っぽい耳の獣人に食って掛かっていた。
「フォンランさんよぅ、確かにあんたの道場は歴史は有るかもしれないがあんたの指導力不足で最近真面な弟子は居ないだろう。あんたの道場を俺が貰ってやるよ」
「そなたは確かジョセファンと言ったかな。それがしの道場の方針は昔から何も変わっていない。それがしの指導方法も昔から変えていない。確かに最近は新しい弟子は少ないが居ないわけでもないしその弟子たちも実績がない訳でもない」
「そいつらだって偶々才能があったやつが勝手に強くなっただけであんたが強くしたわけじゃないだろう。なんせあんたの道場を辞めてウチに通うようになったナーバチッタはメキメキと実力を上げているんだぜ」
「確かに彼の才能は高かったが礼節も忍耐もなかった。正しい心を持たない者が力を付けても世間が迷惑するだけだ。だからそれがしの道場では心を育て技を磨いていくことにしている」
「昔はそれでよかったかもしれないが今はそんな古臭い考えなんて要らないんだよ。獣人の心情である強さこそが正義なんだから強さを求めるのさ」
「確かに強さは必要かもしれないが強さは弱きものを助けるために行使するもので支配するための物ではない」
「そんなに言うならお互いが育てた弟子がどれだけ強くなったのかで指導者としての資質を比べようじゃないか。俺があんたが育てる奴を指名するからあんたは俺が育てる奴を指名しな。ちなみに育成期間は1年にしようぜ。長く指導したからと言って強くなることもないだろうからな」
「分かった、それでは1年後の拳聖祭でより順位の高い弟子を育てた方が優れているということで勝負をしようではないか」
既に2人の周りには大勢の野次馬で盛り上がっており2人が弟子を選ぶということで立候補する者も居た。
話の内容から歴史のある道場の主であるフォンランが野次馬の中から選んだのは体格もしっかりした男だった。
「あなたは手を上げて立候補してくれていたようだが彼、ジョセファンの道場で修行してみる気はありますか」
「えっ? ジョセファンさんってあの撃獣拳の道場で習えるのかい? あそこは入門試験だけで3ヶ月は待たされるって程有名なのに良いのかい? もちろん良いに決まってるじゃないか」
フォンランが決めた相手は嬉しそうに弟子入りを承諾した。
指導力対決を申し込んでいたジョセファンは数多くの手を上げている獣人には目もくれずなぜか俺に声を掛けてきた。
「おめえもここにいるってことは気になってるってことだろう? あのおっさんの弟子になってみる気はないか? 」
「そうだな。確かに興味はあるしフォンラン殿の話は共感できるので弟子にしてくれるのであればこちらから頼みたいぐらいだ。まああんたの弟子って話なら速攻で断らせてもらうがな」
「なっ! 貴様、俺に向かってそんな口をきいてタダですむ・・・」
「そちらの少年がそれがしの弟子になってくれるということで間違いないですかな? 」
ジョセファンがキレそうになっていたところにフォンランが声を掛けてきた。
「んぐ、そうだこいつがあんたの弟子になって良いと言っていた。お互いの弟子を決めたんだこれで文句はないよな。じゃあ1年後の拳聖祭で白黒つけようじゃないか」
ジョセファンは自分の弟子になるといった男を連れて帰って行った。
「さて、君がそれがしの弟子になってくれるということで間違いないかね? 」
「ああ、俺はシャンバリアからこっちのチャミと旅をしているシリューという。強くなることに興味があったのでカカーリで大会を見ながら鍛えようと思っていた。あなたの考え方には共感できるので良かったら弟子にして欲しい」
「それがしは流牙拳という古い流派を継承している道場を受け継いでいるフォンランという。弟子と師匠とはいえかしこまる必要はない。旅をしているということなら寝泊りは道場ですると良い。伊達に長く続いたわけではなく寝泊りできる部屋もあるから大丈夫だ」
「そう言ってもらって助かる。あまり言葉遣いには自信がなかったからな。それじゃあこれからは師匠と呼ばせてもらうよ。寝泊りに関してはこっちのチャミも一緒に良いのか? 」
「もちろん。部屋はたくさんあるから泊ってくれていいぞ。ただ自慢ではないがあまり金が無いから食事は自分たちでどうにかしてくれると助かるがな」
フォンランの道場に一緒に行くとこの世界に来て初めて木造の家を見た気がする。古いがしっかり手入れをされていて趣のある良い建物だった。
室内は土足禁止で日本家屋を彷彿とさせる造りになっていた。部屋に案内されると板張りの部屋で布団も準備されていた。
道場の中を案内され食堂や道場、風呂やトイレと言った場所も覚えることが出来た。
訓練は明日から行うということで今日はゆっくりするよう言われた。
翌朝起きるとチャミが作った朝食を食べて道場に行く。チャミは食材になりそうな魔物を狩りに行くと言っていた。戦闘系のスキルは持っていないが身体能力と不壊があるので大丈夫だろうと送り出した。
道場に入ると師匠が待っていた。
「遅くなりました」
頭を下げると「問題ない。それがしが精神統一をするために早く来ているだけだからな」と返された。
「それにしても他の弟子はまだ来ていないのか? 」
「仕事をしながら道場に通っている者は数人いるが朝から来るのはシリューだけだな」
「それじゃあ、改めて今日からご指導お願いします」
この世界の礼の作法は知らないが日本式に正座で手をついて頭を下げる。
「それについてなんじゃが昨夜色々考えておった。この勝負を持ち掛けてきたジョセファンじゃがそれがしはまんまと乗せられてしまった気がするんじゃ。この勝負にシリューが勝ってもそれがしには何の利もない。逆に彼奴が勝てばこの道場を手に入れることが出来る。失敗したかもしれんのぅ」
「それは俺も話を聞いていてすぐに思った。それでも勝負に勝てば問題ないしこの道場の存在をアピールするには効果的なんじゃないのかな。なんせ獣人ではない俺が獣人に勝てるほどの実力をつけさせてくれる有能な道場と言うことになるだろう」
「そうじゃな、負けるとは思っておらんがくたびれ儲けじゃなと思っておったが確かに道場の宣伝だと思えばやる気も出て来るのう」
「ところで1年後の拳聖祭というのはどういう大会なんだ」
「そうじゃったな。その辺の説明もしておらんかったからまとめて説明しておくかのう」
話の内容を要約すると拳聖祭は武器や魔法の使用は禁止で円形の武台で戦い場外や戦闘不能になると負けとなる。身体強化などの相手に影響を及ぼさない魔力の使い方は許可されているらしい。
大会自体は3日間で行われ1日目が予選で2日目が本戦の準決勝までが行われる。最終日の3日目に決勝戦が行われ優勝が決まるという。
ちなみに拳聖祭の優勝者には5年毎に行われる獣帝大会への出場権が与えられるためそれなりの数の参加者になる。予選だけでも盛り上がり本戦に参加できる16名に選ばれるだけでも大変らしい。
大会の話も一通り終わったので流牙拳についても説明があった。
「それがしが教えている流牙拳は基本となる型は1つだけだ。空身と言うもので己を取り巻く環境に身を委ね流れに乗って攻撃していくと言うものだ。その流れは空気や相手の魔力など全てのものを指し相手の合わせ動くため決まった型と言うものがない。空身でさえ考え方であって決まった型ではないが概ね自然体で相手に対峙する」
「師匠の話を聞く限りでは流牙拳に受けの技はないということになるのかな? 」
「その通り。正確には受け流すという動きは発生するがしっかりと受け止めるということはせず相手の攻撃を最小限の動きで無効化し反撃を行うのが主となる。こちらからの攻撃を行う事もあるが相手の防御をすり抜けるような動きとなる」
「そうなると俺が今から行う修行というのはどういったことをするんだ? 」
「目を閉じた状態で周囲の様子を感じられるようになってもらう。座禅を組み自分の間近から道場内、更に広い範囲を感じ取ってもらう。おそらくシリューは高位の冒険者だと思うが魔力を使った周囲の探知は行わないでくれ」
「なんで俺が高位の冒険者だと思ったんだ? 」
見た目はそこまで高位の冒険者が身に付けるような装備はなかったと思っていたが師匠が言い当てたことで驚いた。
「簡単な事だ。シリューの周りにある魔力はまるで嵐のように吹き荒れているのに濃密で付け入る隙など微塵も見つけられない。それがしのどんな攻撃も跳ね返す鉄壁の要塞の様だ。それがしが負けることはないと言い切れるが勝てるとも思わない。それにシャンバリアから来たと言っていたがアンリケを横断するだけでも生半可な実力では難しい。そう考えるとかなりの実力者だと考えるのが普通だと思うがのう」
(こんな観察力が有ってなんであんな安い挑発に乗って得にもならない対決を受けたんだろう)
師匠のチグハグさを感じていると目隠しを手渡してきた。
「まずは目隠しをして座禅を組んで道場内を把握できるようになってもらう。そのあとは目隠しをしたまま道場内を動いてもらい最後は目隠しのまま組手となる」
道場の中心で座禅を組んでいるが全く周りが見えないし感じることが出来ない。魔力を広げようとしたが師匠に注意される。
音や匂いなど色々な事を考えていたが空身という言葉を思い出し自分を空っぽにして周りと同化するようにしてみた。最初は自分の周囲数cmの空気の流れが分かる程度だったが1週間を過ぎるころには周囲1m程度を把握できるようになった。
さらに1週間ほどすると道場内の様子が見えていないのに把握できるようになった。
「それがしは大変驚いている。今のシリューの見ている世界を習得するのに半年と考えていた。今まで魔力で周りを察知していた人間はどうしてもそれに頼りがちでその感覚を払拭するのに少なくとも2月はかかる。それがしは幼少期から始めてこの域に達するのに3年を要した」
「それは師匠が子供だったからで成人してからであればもっと短時間でできたんじゃないかな」
「それでも2週間でできるのは無理だと思うのぅ。いやはや恐ろしい才能の持ち主じゃ」
目隠しをした状態で道場内を自由に動き師匠が置いている障害物も避けて通れるようになった。さらに感知する範囲を広げていくと声は聞こえないが人々の動きや息遣いまで感じることが出来るようになった。
相手の体の周りにある魔力の動きも手に取るように分かった。




