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フカイのフカイな異世界の旅  作者: アングリー尺損


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15/22

 シリューside


 同級生たちも居なくなったことで兵たちの相手は不死軍団でできると思ったのでアビスリッチに街から出た人間だけを殺すよう指示を出し春野さんを連れて一旦戦線を離脱する。


『隷属の首輪 : 命令者への絶対服従 魔法使用不可 主人以外の接触時電撃発生』


 春野さんの首に付けられている首輪を心眼で確認すると詳細が分かった。


(おそらく色々頭の回る春野さんのことを面倒に思って操り人形にするため使ったのだろう)


 相変らず俺たちのことを人間と思っていない所業に反吐が出る。

 俺が触れてしまうと春野さんを苦しめることになるので首輪の蝶番の部分だけを腐界で破壊することで問題なく外すことが出来た。


 街を不死軍団が包囲して膠着状態になっていると春野さんが目を覚ました。


「はっ、首輪が無い。あなたが助けてくれたんですか? 」


「助けたわけではない。自分の意思で戦っていないものを殺す趣味はない。俺は逆らうものに容赦しないが敵対しないものは殺さない。お前は俺に抵抗するのか? 」


「とんでもないです。私は戦いたくありません。ところであなたのお名前を聞いても良いですか? 」


「聞いてどうする。ここからお前が逃げるにしろ、俺に斬りかかって殺されるにしろ二度と会わない人間の名前など聞いても意味がないだろう」


「それでも助けてもらった人の名前は聞きたいです」


「俺は愛する者たちを殺された時に名を捨てた。今の俺は復讐のみを生きがいにする鬼だ。人ですらないだろう」


 名前を聞き出せないと分かったのか春野さんは黙ってしまった。


「ところでお前はこれからどうしたいんだ。一番近いのは東に行ったディプブ共和国だな。小部族が集まって国の形をしているがかなりの強者が揃っているらしい。北には商業が盛んなアキトンド商業連合、南は農業の盛んなシャクショー公国、城を通り過ぎて一番遠くなるのが西のイクルエ魔皇国。この国の周りにある大きな国はそこらへんになる。小さい国を挙げるとキリはないがそこはお前が判断して考えろ」


「色々と情報ありがとうございます。とりあえず一番近い国を目指したいと思います」


「それならその剣や鎧は捨てていけ。それはこの国の兵の標準装備で周りの国の兵が見ればスーガラキの兵だと思って攻撃されるぞ。ここで助けたのも何かの縁だ、餞別としてくれてやろう」


 異空間庫に入っていたミスリルの剣と盾を出し、魔鉄鋼の鎧を渡した。


「他の街で生活するには冒険者が良いだろう。特に身分を確認されることもなく縛りも特にない。既に登録しているのであればカードの再発行で金はかかるが」


「いえ、今まで王国兵という扱いだったので街でゆっくり過ごしたことが無いので登録はしていないと思います」


「それなら魔力と名前を紐づけて登録するから名前をどうするか考えておくんだな。本名で登録すればこの国の生き残りが居たときに狙われるかもしれんぞ」


 歩いていくにしても数日かかるだろうから食料と金を渡し送り出した。

 少し離れた場所で春野さんが振り返る。


「深井君ありがとう。辛いことがあったかもしれないけど死なないでね」


 春野さんは俺に声を掛けその後は振り返ることなく西に向かって走って行った。



 春野 鈴華side


 目を覚ますと黒い鬼の面をつけた銀髪の人が立っていた。

 違和感を感じて首に擦れたが電撃は発生せずある筈の首輪が無くなっておりびっくりした。


 慌てて尋ねるがつっけんどうな返答が帰ってくるだけだった。

 名前を聞いても教えてくれない。でも鬼という言葉を聞いて不思議に思った。この世界に鬼に似た魔物は居たけど鬼とは言わない。それに被っている面はどう見ても日本で見る鬼に見える。


 もしかしてこの人は日本人なのではないかと思い始めていると今後のことを聞かれアドバイスをくれた。

 その中で縁や餞別、本名と言った言葉が当たり前に出てきたことで確信に変わり背格好から深井君であると理解できた。


 話の中で親しい人をこの国の人間に殺されたと分かった。手に入れた力を使って復讐をしているのだろう。

 見送られながらもしかしたら彼は復讐が済めば自らの命を絶つのかもしれないと思い思い切って気づいていることと死なないで欲しいと伝えた。

 お面をかぶっているのでどんな表情をしているのか分からないが彼に幸せな未来が来ることを願っている。



 シリューside


 どうやら話している言い回しなどで春野さんは相手が俺であると気づいたのだろう。相変らず頭の回る人だと思う。それにしても死なないでとは考えすぎだと思った。

 確かに最初は復讐を果たした後は女将さん達のいるであろう世界に行くのも悪くないと思っていたが元々こちらの世界の人間ではない俺が死んで女将さん達と同じ場所に行けるとも思えない。


 何処に行くにもついて回るチャミを置いて逝くことは出来ないとも思っている。

 チャミは今も隠れていた場所から春野さんの言葉を聞いて何かを思ったのか出てきて俺に抱き付いてくる。


「大丈夫だ。お前を置いてどこかに行く事は無いから安心しろ」


 頭を撫でてやると嬉しそうに俺の胸に顔を擦り付けてくる。

 いつまでもこうしては居られないのでこの街をさっさと片付けてしまう。


 アビスリッチの所に行くと街門は固く閉ざされ籠城戦をするつもりの様だった。

 王都や他の街から救援が来ると思っているのか、不死軍団が攻め込まないことを手をこまねいていると都合よく思っているのか分からない。

 風魔法を使って町全体に俺の声が広がるようにした。


「よく聞け明日の夕方まで待つ。それまでに投降する意思のあるものは武装解除し正門から出てこい。攻撃せず逃がしてやる。ただし貴族や悪人は容赦なく殺す。俺はお前たちを鑑定することが出来る。ごまかしは通用しないからそのつもりで行動しろ」


 そう言って街門を魔法で破壊して兵たちが住民を閉じ込めないようにした。


 街門から続く街道の両脇には不死軍団を並べているので怖がっているようだったが意を決した者が通ると堰を切ったように住民が出てきた。すべてを心眼で確認していくが怪しいものは今のところ見つからない。


 隠密が得意なキラーバットたちに周辺の魔物などは駆除させているので問題ない。

 兵士と思われる鎧を身に付けているが武器は持って居らず家族と一緒に逃げていくものも居た。

 殆ど午前中に出てしまい午後から商人かと思われる集団も出てきたが荷馬車を取り上げることはせずそのまま通した。


「時間だ。一切の慈悲はないので覚悟しておけ」


 風魔法で声を響かせ浮塊で街の全てを持ち上げる。建物にしがみ付いていたのか宙に浮いた建物から人が落ちて死んでしまう者もいた。

 守る物が一切なくなった残りの人間に向かって街を取り囲んでいた不死軍団が詰め寄っていく。

 逃げ場もなく必死に抵抗するが悲鳴は夜の空に吸い込まれていった。

 月が中天に上る前に街の生存者は居なくなった。


 浮かべていた瓦礫などは異次元庫に流し込み死体はアビスリッチの力でアンデッドに変えてしまう。

 残り3つの街でも同じようにしたが同級生が投入されることはなかった。分散して使うより集めた方が戦力になるとでも思ったのだろう。


 ただ王都を攻める時は俺一人で戦うつもりだったのでアビスリッチとドラゴンゾンビ以外は死霊術を解除して光魔法で成仏させた。


 俺の来る方向が分かっていたのか街道を歩いていると王都への入都門の前には数えきれない人間が集まっていた。

 俺の姿が見えたのか兵士からざわつきが聞こえ俺が一人だと分かると勝ち誇ったように突撃してきた。

 1人の人間に襲い掛かってくる人数じゃないだろうと思いつつも平然と城へ歩いていく。


 どうやら先頭には見知った顔がいくつか見えるが首には春野さん同様首輪がハメられているがこちらは生き生きとした目をしており不満は無いようだった。

 それなら遠慮はいらないだろうと怖禍威を気絶程度でおさまるよう弱めに放つと走ってきた勢いのまま全員が前のめりに倒れ込んでいく。


 あとから来た兵士も前方の兵士が倒れ込んで驚いているが怖禍威を浴びて倒れた兵士たちの上に倒れてしまう。

 異変に気付いて立ち止まった兵士も居たが怖禍威を入都門近くまで広げたので全員が気絶した。


 俺は開いていた入都門をそのまま通り城を目指す。

 さらに弱めた怖禍威を展開しているので気絶しないにしても震えて近づくことが出来ない。


 怖禍威の範囲外から矢や魔法が飛んでくることはあるが上がったステータスの影響か体がズレることもなく不壊のおかげで歩みの速度は変わらない。

 城下町を通り抜け城の前まで来ると城門は固く閉ざされていた。

 腐界で俺が通れるサイズの穴を開けそのまま進んでいく。


 誰も近づけさせず阻む物は壊し玉座の有る広間へ歩いていく。

 立派な鎧を着た騎士が待ち構えていたが足は小鹿のように震え俺に向かってくるものは居なかった。

 王と大声を出さずとも会話ができる距離まで来た。



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