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フカイのフカイな異世界の旅  作者: アングリー尺損


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10/23

 その日は寝ることが出来ず朝には目の焦点が合わずベッドから出ることが出来なくなった。光魔法で状態異常を回復させる魔法を使ってみたが全く変化はない。

 困っていると女将さんが部屋に入ってきた。


「いつも朝ごはんを食べにくるのに来ないから来てみたけどちょっと待っててね」


 どうやら熱もあったようで頭に乗せられた濡れたタオルが心地よくいつの間にか眠ってしまっていた。

 冷たいものが頭に触れる感覚がして目を覚ますと女将さんが頭のタオルを交換してくれていたようで僕が目を覚ますのを見て微笑みかけてくれた。


「消化の良いものを作ってきたけど眠ってたからそのまま寝てもらってたわ。もうすぐお昼だから食事を温め直してくるわね」


 深皿の乗ったお盆を持って部屋から出て行く女将さんの後姿を見て好きな人から看病してもらえるなんてラッキーだなとぼんやり考えていた。


 戻ってきた女将さんにご飯を食べさせようとしてきた。


「自分で食べれますから」


「病気の人は大人しくしてないとダメよ。こじらせちゃったら大変なんだから」


 女将さんの暗くなった表情を見て亡くした家族を思い出したのかと心が締め付けられる。

 言われた通り食事を食べさせてもらいながら先ほどの心苦しさが嘘のようにスプーンに乗ったスープを吹き冷ます口元や前かがみになったときの胸元などが目に入り邪な考えが頭を埋め尽くしていく。


 食事を終えて食器を片付けていた女将さんが僕のおでこに手を当ててきた。


「だいぶ下がったみたいだけどまだ熱があるみたいだから大人しく寝てるのよ。宿の夕食が終わったらまた食事を持ってくるからね」


 寝ていると首を刎ねた3人の顔が目の前に迫ってくる。僕は逃げるように走るが足が思うように動かず3人が呪詛の言葉を吐きかけてくる。僕はどうしようもできないでいたが優しい声が聞こえてきて目を覚ました。


「シリューちゃん、大丈夫? とてもうなされていたみたいだけど一人で寝れる? とりあえずご飯を持ってきたから食べないと元気にならないからね」


 夢だったと分かったが女将さんの言葉に信じられない内容がありまだ夢の中なのではと思ってしまった。

 食べさせてもらった食事は柔らかく優しい味付けで体に染み渡ってきた。

 こんなに幸せなら夢でも現実でも良いとさえ思えてしまう。


「少し顔色もよくなってきたみたいだから大人しく寝るのよ。どうしても怖くなったらウチを呼んでいいからね」


 まるで子供でもあやしているかのように頭を撫でられ少し恥ずかしさもあったが安心できた。

 夜は嫌な夢を見ることなく朝を迎えることが出来た。


 熱は下がっているようだったがダルさがあったので今日まで猟には出ず大人しくすることにした。

 マータギーさんには女将さんが知らせてくれたようで「今日の狩りは心配するな」と伝言を伝えてくれた。

 熱はなかったので寝ることはなかったが女将さんは僕の部屋で果物の皮をむいてくれたり話し相手になってくれたりした。

 そんな幸せな時間のおかげが夜にうなされることはなくなった。


 看病してもらった後から女将さんとの距離が近くなった気がした。そんな女将さんは僕に獲物のリクエストをするようになってきた。


「鳥の肉が欲しいの」

「猪肉でステーキを作っちゃうから」

「果物があるとデザートが作れちゃうんだけどな」


 直接的だったり遠回しなおねだり風だったりと頼まれるが猟師特権を生かして女将さんの望みと叶えている。


 実は先日役人の人が来て申請用紙を受け取ってくれた。次に来たときに許可証を持ってくると言ってくれたので家が完成したら告白するとウキウキしながら今日のリクエストである鳥の卵を探している。

 村用の肉である猪は既に確保して異次元庫に入っているがなかなか卵が見つからない。


 いつも行かない場所まで足を延ばして女将さんの喜ぶ顔を見るため目を皿のようにしてようやく見つけることが出来た。


 いつもより帰りが遅くなったため急いで帰っていると村の方からなぜか煙が上がっている。不安に駆られ全速力で走っていくと村の家々が燃えている。

 おまけに地面には村人が倒れている。近づくと斬られたり突かれたりしたのか夥しい出血で地面にも血が溜まっている。僕は女将さんの無事を願い宿屋に急いだがそこには服を剥ぎ取られ痛めつけられた跡がはっきりとわかる姿が横たわっていた。


 少しでも息があれば回復魔法で戻せると思い村中を見て回ったが既に全員が息絶えていた。

 マータギーさんを見つけたとき抵抗した時に剥ぎ取ったのかスーガラキ王国の紋章のようなものを握りしめていた。


 この前来た役人の人がスーガラキ王国のダンジョンが無くなったことで何やら戦争の準備のしていると言っていた。この国には関係ないかもしれないけどとは付け加えていた。

 おそらく戦争を行うための食料を得るために農業国であるこの国へ攻め込んだのだと思った。


 しかしこの村には思ったような食料が無かったので腹いせのように村人を殺したのだろう。

 まるで他の村への逆らえば同じ道を歩むぞという見せしめのためではないかと思った。


 自分がちょっとした仕返しのつもりでダンジョンを潰した。

 そのせいで知り合いが理不尽に殺され最愛の人を無残な姿で見たことでスーガラキ王国への殺意と自分自身への憤りで普段は抑え込んでいた不快が殺気と魔力と共に爆発した。魔力と共に過度な不快を周囲に溢れさせた。


 濃すぎる不快はやがて畏怖となり禍々しい魔力をはらむことで浴びたものを恐慌状態へ追いやる存在になった。

 ドイナーカ村を中心とした半径10kmでは恐怖に慄き表情を歪め全ての生き物が息絶えた。更にその外周に居たものは命こそ助かったが気を失い一生心に傷を背負ったように生きることになった。

 その中心にいるシリューは膨大な魔力を暴走させた影響なのか全身の毛は銀色に変わってしまった。

 聞こえてくるのは風の音だけでいつも聞こえていた村人たちの笑い声は聞こえない。



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