第98話
投稿者:係長のわし 2027年11月10日
やったぜ。
嘘じゃ。一ミリの「やったぜ」もない。
静寂というのは、深夜の事務所に一ミリの猶予もなく着工される。
11月の深夜。時計の針は二時を回っとる。
おっさん達も、金髪も、パグ化したハゲも、全員がアパートや自宅という名の工区へパージ(帰宅)し、事務所にはわし(56歳・80kg)だけが残された。
静まり返った暗闇の中、パソコンの画面だけが、わしの白濁したような瞳を一ミリの狂いもなく照射しとる。
わしはマウスをホールドし、自分のブログをクリックした。
そこには、泥と汗と、犬たちのヨダレにまみれた、わしたちの「歴史的建造物(過去ログ)」が、一ミリの隙もなくアーカイブ(打設)されとった。
懐かしいわ。あの頃の太郎はまだ小さく、ヨダレの粘度も低かった。今や部屋の畳を重機のようにハツり倒す、無敵のビーグルフィクサーじゃ。
「おっさん(62歳)、パチンコやスロットで万発万枚出してみたり、女子レーサー渡邉のビデオを一ミリの猶予もなく強制視聴。現場がシステムダウン」
あのクソおっさん、アルバイトに降格した今でも、一ミリもブレずに平和島のイン逃げを叫んどるわ。
「……第85話。筋肉の装甲を纏ったピットブル女監督官(48歳・バツイチ)、一ミリの狂いもない逆指名(サシ飲み)をブチかます」
読み進めるうちに、わしの喉の奥底から、白濁したような笑いと熱いバイブス(感情)がドバーっと込み上げてきた。
わしは何をハツってきたんじゃ。
ただの土方の係長が、犬に振り回され、競艇脳のオッサンにバグらされ、パグ化したハゲ(元課長)にバイオテロを仕掛けられ、金髪のニューバランスの損傷をスキャンし続けただけの記録。
一ミリの生産性もない、クレイジーな日常の不純物。
だが、その不純物の一つ一つが、コンクリートのように強固に、わしの人生という名の地盤を支えてくれとる。
深夜二時半。わしの目から、白濁した汗(涙)が竣工(流出)しおった。
内部結露ではない。これは、紛れもない、魂の漏水(涙)じゃ。
56歳の、163cm 80kgの係長が、誰もいない事務所でパソコン画面を見つめながら、静かに泣いとる。クレイジーな夜じゃ。
ポーン、とパソコンの通知音が鳴りおった。
画面に、金髪ピアスからのLINEがスキャンされた。
『係長、まだ事務所の電気が点いてます。一ミリの隙もなく働きすぎじゃないすか。やったぜ。』
……深夜に何をしとるんじゃ、若手の不純物が。
わしは目元の漏水を、軍手で一気にハツり落とし、スマホのキーボードをホールドした。
「今から帰る。お前も女子レーサー渡邉の全通ビデオを観てないで、一気に寝なさい」
返信をパージ(送信)し、パソコンの電源をシャットダウンした。
暗闇に戻った事務所。わしの主機(心臓)は、静かに、一ミリの狂いもなく熱く打設を続けておる。
アパートに戻ると、ビーグルの太郎がソファでひっくり返って寝とった。
薄目を開けて安心したのかまた寝おった。
「太郎。わし、自分の歴史を全部スキャンしてきたぜ。お前のヨダレの量が、年々増加しとるわ『わしの歴史は、お前のヨダレの地層じゃ』か。お前、でーれー詩人じゃのう!」
過去をハツり、未来を建てる。
完結まであと2話。わしたちのクレイジーな工区は、一ミリの狂いもなく最高のクライマックスへと竣工(向かって)されとる。




