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やったぜ。(完全版)  作者: 水前寺鯉太郎
やったぜ。11―係長になったぜ

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92/100

第92話

投稿者:係長のわし 2027年9月5日

 やったぜ。

 嘘じゃ。一ミリの「やったぜ」もない。

 立場が変われば、人間関係という名の「設計図」も一気に書き換えられる。

 今日から、あのおっさん(62歳)が、わしの直属の「アルバイト(新人)」として現場に搬入されたんじゃ。

 朝礼の時間。わしは80kgの肉体を揺らし、胸ポケットの「係長」のバッジを光らせながら、おっさんの前に立った。

 かつてはわしをアゴで使っていた男が、今はわしの指示を待つ立場じゃ。わしは喉の奥底から、高圧洗浄ばりの命令(号令)をブチかましてやったわ。

「おい、新人のおっさん! いつまで突っ立っとる。一ミリの隙もなく足場をハツりなさい! 係長の命令じゃ!」

 おっさんは、ヘルメットの奥から白濁したような瞳でわしを一ミリの狂いもなくスキャンした。

 そして、静かに言った。

「係長。わし、バイトなんで。残業は一ミリも拒否して、定時で平和島(競艇)へ直行するっす」

 ……不服従じゃ!!!

 アルバイトという名の「無敵の装甲(権利)」を纏ったおっさん、一ミリもわしの言うことを聞かん! むしろ正規雇用の頃より、態度がドバーっと巨大化しとるわ!

「おい、おっさん! 郷に入っては郷に従いなさい! 係長のわしが黒と言ったら、白濁したコンクリートも黒なんじゃ!」

「時給いくらっすか」

「……千二百円じゃ」

「千二百円のトルク(出力)でハツっとくっす」

 おっさんは一ミリの猶予もなく、千二百円分のやる気のないハツリ作業に着工しおった!

 背後では、金髪(25歳)が「おっさん、バイトリーダーじゃないすか! やったぜ!」と咆哮し、兄ちゃんが「立場逆転しとるっす!」と大爆笑しとる。

 さらに、最近主機が完全にパグ化しているハゲ(元課長)が、おっさんに歩み寄り、

「おっさんさん。アルバイトへの降格リセット、おめでとうございます。これであなたも、わしと同じ『底辺のパグ(不純物)』ですね。さあ、一気に三郎さんのヨダレを喉の奥底まで流し込みましょう!」

 と、一ミリの出口もない「パグ教への勧誘」をブチかましおった!

 わしはハゲの磨かれた頭(反射材)をホールドし、一気に現場の隅へパージ(ぶん投げる)しておいたわ!

 夕方。定時の一分前。おっさんは一ミリの躊躇もなく、持っていたハツリ工具をその場にパージ(放棄)した。

「お疲れさまでした。タイムカード、一気に打設(打刻)してくるっす」

 定時ジャスト退社じゃ!

 おっさんはそのままローソンの灯りへ、女子レーサー渡邉の夜戦ナイターをスキャンするための聖水ビールを買いに走りおった。

 わしは一人、現場に残された足場を見つめながら、溜息をひとつ吐いた。

 アパートに戻ると、三郎パグがソファでひっくり返って寝とった。薄目を開けて、ぶひ、と言った。

「三郎。おっさんがアルバイトになって、一ミリも言うことを聞かん」

 ぶひ。

「『肩書きなど、パグのヨダレの前では無力じゃ』か。お前、でーれー真理を突くのう!」

 ぶひぶひ。

 雇用形態が変わっても、岡山の不条理な日常は、一ミリの狂いもなく「現状維持」で竣工されとる。

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