第91話
投稿者:係長のわし 2027年8月25日
やったぜ。
嘘じゃ。一ミリの「やったぜ」もない。
辞令というのは、一ミリの予告もなく飛んでくる。超高層ビルから降ってきたボルトと同じじゃ。直撃したら、現場が即座にシステムフリーズする。
おっさん(62歳)に、元請けから非情な通告が下りおった。
「定年退職」じゃ。
日本の空をハツリ倒し、岡山に凱旋したばかりの無敵の重機が、年齢という名の「法的・耐用年数」によって、現場からパージ(強制撤去)されることになったんじゃ。
事務所の空気は、一ミリの出口もないほど冷え切っとった。
「おっさん……辞めるんすか」
金髪が、作業手袋を握りしめて白濁したような瞳で呟きおった。
「辞める」とおっさんは言った。
それだけじゃった。おっさんはいつもそれだけじゃ。62歳の男というのは、感情という名の資材を一ミリも無駄遣いせん。
「明日からはな、女子レーサー渡邉の全国モーターボート追っかけ工事(全通)に旅立つんじゃ。一ミリの隙もなくイン逃げをスキャンし続けるわ」
おっさん、定年後のセカンドキャリアの設計図、一ミリの狂いもなくギャンブルに全振りしとるわ! 主機が完全に競艇のエンジンに換装されとる!
「おっさん、引退するなら一気にこの新品の安全靴(一万五千円)をハツり倒してください! 行かないでください!」
金髪が号泣しながら、安全靴をおっさんに押し付けおった。
さらに、最近主機が完全にパグのチップに侵食されているハゲ(元課長)が、涙でドロドロになりながらおっさんの前に立ちはだかり、
「おっさんさん! あなたが辞めたら、誰が三郎さんのヨダレを、その磨かれたハゲ頭(反射材)で受け止めるんですか! 他種族合同サミットが崩壊します!」
と、一ミリの生産性もない怪文書をブチかましおった!
わしはハゲの頭(反射材)をホールドし、一気に後方へパージ(ぶん投げる)しておいたわ!
それからはもうめちゃくちゃじゃ。
事務所でおっさんの「定年ハツリ送別会」が着工され、兄ちゃん(47歳)が「おっさん、たまには現場に遊びに来てください!」とビールを注ぎ、金髪が号泣し、ハゲが三郎のヨダレ付きタオルでおっさんのハゲ頭を磨きおった。
わし(55歳、80kg)は、静かにビールを一本開けた。
おっさんという最強の不純物が現場から消える。
目から、白濁した汗(内部結露)がドバーっと竣工されそうになった、その時じゃった。
「係長」とおっさんが言った。
「なんじゃ。最後のアドバイスか」
「明日からのバイト代、日当いくらっすか」
「……は?」
「バイトじゃ。引退するわけないじゃろ。明日からアルバイトとして、お前の下でハツり続けるわ」
……残留じゃ!!!
定年退職という名の「正規雇用」をパージされ、明日から「非正規のアルバイト」として、一ミリの猶予もなく現場に再搬入されおったわ!
「お前、女子レーサー渡邉の全国追っかけ工事は!?」
「軍資金が足りんけえ、ハツって稼ぐんじゃ」
ただの資金調達のアルバイトじゃった!
金髪が「おっさん、残るんすか! やったぜ!」と号令をブチかまし、兄ちゃんが「早とちりして損したっす!」と笑いおった。
わしは一人、ローソンの灯りへ、おっさんのアルバイト雇用(再契約)を祝うための聖水をドバーっと買いに走った。
アパートに戻ると、三郎がソファでひっくり返って寝とった。
おっさんの残留をスキャンしたのか、薄目を開けて「ぶひ」と言いおった。
「三郎。おっさんが非正規になって居残るぜ」
ぶひ。
「『雇用形態など関係ない、現場で泥を食うのみ』か。お前、でーれーハードボイルドじゃのう!」
ぶひぶひ。
定年という名の解体工事を乗り越え、わしたちのクレイジーな日常は、一ミリの狂いもなく「現状維持」で竣工されたわ。




