第89話
投稿者:係長のわし 2027年7月25日
やったぜ。
嘘じゃ。一ミリの「やったぜ」もない。岡山の夏が、わしをコンクリートの型枠に入れて、そのまま加熱しとる。
おっさんと兄ちゃんが超高層ビルへ旅立って三週間。
現場では金髪が「女子レーサー渡邉ターン」をキメて覚醒し、わしはピットブル女との安全衛生協議会(サシ飲み)で、一ミリの猶予もない筋肉の打設(会話)を竣工させていた。
そんな猛暑の現場の昼休み。わしのスマホが、一ミリの予告もなく「緊急バイブス(振動)」を鳴らしおった。
山口の田村から動画が届いとる。
再生した瞬間、現場の飯場(詰所)に、白濁したような「ぶひぶひ」という高周波ノイズがドバーっと鳴り響いた!
画面の中で、田村が山口で発注(購入)した仔パグの「ハツリ」が、一ミリの出口もない猛スピードで部屋を高速旋回しとる!
ハツリのやつ、そのまま田村のスマホに向かって突進し、レンズを一気にヨダレでハツリ(舐め)倒しおったわ!
『係長! ハツリが、わしのスマホという名の通信機器を、一ミリの隙もなく白濁汚染しとります! 助けてください!』
動画の音声で、田村が嬉しそうに悲鳴を上げとる。
山口の地で、また一人の理性的青年が、パグという名の「生物兵器」によってシステムダウンさせられとるわ!
「おい、金髪。山口でパグ汚染の二次災害が発生しとるぞ」
「マジすか! ハツリくん、でーれー回ってますね、やったぜ!」
金髪が笑いながら画面をスキャンしていると、背後から一ミリの気配もなく、あの「磨かれた反射材(ハゲ頭)」がヌッと現れた。
最近、主機が完全にパグのチップに侵食されているハゲ(元課長)じゃ。
ハゲは、田村のハツリの動画を白濁した瞳で凝視し、そのまま無言で現場の重機の前に移動した。
そして、一ミリの躊躇もなく、ユンボに向かって「ぶひ」と咆哮しおった!
「おい、ハゲ! 重機に向かってパグ語で交信するな!」
「……係長。山口のハツリくんの旋回、岡山の三郎さんの旋回と、完全に『周波数』が同期してます。これは他種族合同の、大規模サミットを着工すべきです」
「サミット、て。パグが県をまたいで会議してどうするんじゃ!」
「山口と岡山のパグを一箇所に搬入し、一気に盛り合わせるのです。あぁ~~たまらねえぜ!」
ハゲ、お前はもう人間としての「元・課長」というプログラムを、一ミリの残骸も残さずパージ(消去)してしもたんか!
それからはもうめちゃくちゃじゃ。
ハゲが「ハツリくんに、三郎さんの『使用済みヨダレタオル』をデータ転送すべきです!」と暴挙を主張。
金髪が「ハゲさん、動画でヨダレは送れないっすよ!」とツッコミを圧入。
わしは三匹の石化から立ち直った主機(脳)を揺らし、ローソンの灯りへ、山口のハツリの健やかな成長を祝うための聖水をドバーっと買いに走った。
アパートに戻ると、三郎がソファでひっくり返って寝とった。
わしが帰ってきた気配で薄目を開けた。
「三郎。山口のハツリがお前の技(旋回)をパクリおったぜ。感想はどうじゃ」
ぶひ。
「『まだまだ足元にも及ばん、一ミリの隙もなく出直してこい』か。……お前、でーれー先輩風を吹かすのう!」
ぶひぶひ。
山口から届いた小さな不純物(パグ動画)が、おっさんたちのいない岡山の寂しさを、一ミリの狂いもなくハツリ落としてくれた。
猛暑の夜、わしたちのネットワークが、種族を超えて熱く竣工されとる。




