第88話
やったぜ。
嘘じゃ。一ミリの「やったぜ」もない、猛暑という名の「全自動・熱処理オーブン」が岡山に稼働しとる。
おっさんと兄ちゃんが超高層ビル工区へ旅立って十日。
わしのアパートで犬たちが石化し、ペットカメラの映像でわしの目から汗(内部結露)がドバーっと竣工した、あの暗黒の一週間を乗り越えた。
だが、現場の空気は依然として、おっさん達の残臭が消えて一ミリの覇気もない「更地」状態じゃ。
「おい、金髪。いつまでおっさんの不在を嘆いとる。一ミリの隙もなく資材をハツりなさい」
「嘆いてないっすよ、係長」
金髪が、ヘルメットを一ミリの狂いもなくカチリと締め直した。
その瞳に、白濁したような迷いは一ミリもなかった。
「おっさん達が日本の空を伸ばしとる間、わしが岡山の地面を守るって約束したじゃないっすか。見ててください。わしの……**『女子レーサー渡邉並みの、超高速・安全点検ターン』**を!」
金髪の主機(脳)が、一気に覚醒しおったわ!
それからの金髪の動きは、でーれー凄まじかった。
足場の点検。資材の在庫スキャン。KY記録の打設。
今までおっさん達がやっていた「熟練の作業」を、金髪が25歳のトルクを全開にして、一ミリの猶予もなく次々と掌握していく!
現場を駆け抜ける金髪の姿は、まさにボートレースの第1ターンマークを一気に内から刺す、女子レーサー渡邉のモンキーターンそのものじゃった!
「おお……でーれー速い! 金髪、お前いつの間にそんな『ハツリの巨匠』になったんじゃ!」
「へへ、毎日おっさんの背中をスキャン(盗み見)してましたからね!」
金髪が現場リーダーとして、一ミリの妥協もないシステム起動をキメたその瞬間じゃった。
現場のゲート(入口)に、再び一ミリの予告もなく、あのハイエースが横付けされおった。
助手席から降りてきたのは、筋肉の装甲を纏ったピットブル女(女性監督官)じゃ!
今日も作業服の上から、一ミリの無駄もない上腕二頭筋を隆起(打設)させとる。
「抜き打ち点検です、係長。……あら、今日は現場のバイブスが、一ミリの狂いもなくバキバキに張ってますね」
ピットブル女が、鋭いレントゲン視線で現場をスキャンしおった。
「おう。わしの直属の不純物(金髪)が、一気に現場リーダーへと覚醒したんじゃ。好きにスキャン(視察)しなさい」
「ほう……」
ピットブル女が金髪の安全管理をスキャンしたが、指摘事項は一ミリも出なかった。完全なる「ノー・クラック(ひび割れなし)」の現場じゃ!
「合格です。金髪くん、いいモンキーターンですね」
「やったぜ!!!」金髪が咆哮しおった。
点検が終わり、ピットブル女がヘルメットを脱いで、汗ばんだ髪をかき上げた。そして、わしをホールド(直視)した。
「係長。金髪くんの覚醒を祝って、今夜また、赤ちょうちんで安全衛生協議会(サシ飲み)しませんか。……ピットブル抜きで」
「お、おう。ええわ、一ミリの隙もなくホールドしてやるから、来なさい」
「やったぜ」
またパクられた! わしの決め台詞を、一ミリの躊躇もなく持っていきおったわ!
背後で金髪が「係長、やったぜじゃないっすか!」と叫び、最近パグ化が進むハゲ(元課長)が「……三郎さんのヨダレ、やっぱり女監督官に……」と言いかけたので、一気にパージ(後方へぶん投げる)しておいた。
帰り道、わしは気づいたらローソンへ走っとった。金髪の覚醒と、今夜のサシ飲みに備えるための聖水を三本買った。
アパートに戻ると、三郎がソファでひっくり返って寝とった。薄目を開けて、ぶひ、と言った。
「三郎。金髪が覚醒したぜ。それと、今夜はピットブル抜きで、筋肉の資材と協議会じゃ」
ぶひ。
「『まずは鼻の穴を舐めろ』か。……ピットブル抜きでも、その技を人間に使ったら、わしが通報されるわ!」
ぶひぶひ。
若い世代の覚醒と、55歳の主機(心臓)の高速旋回。
岡山の夜、わしたちの未来が、一ミリの狂いもなく熱く竣工されとる。
――やったぜ。




