第075話 帰って来た少女はお騒がせ
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「はーい、お前ら席に着けよ。」
騒がしい日常が戻って来て。
藍連祭に向けて準備していた時はあれ程真面目になっていたのに、終わって仕舞えば元通り。
先生が教室に入ってから、静かになるまで時間が掛かる。
「静かにしろ、宿題増やすぞ。」
この恐ろしい脅しは流石に効いたらしく、一瞬で誰も喋らなくなった。
それにして、いつもは多少うるさくても進めるのに、今日はわざわざ静かになるのを待つなんて。
まるで今から何か起こるみたいだ。
「突然だが、このクラスに入る事になった転校生を紹介する。先に言っておくが、くれぐれも騒がしくならないように。」
念押しをしているが、転校生っていうのは異例な存在。
物珍しさによって、口を開いてしまうだろうな。
ホームルーム中は我慢出来たとしても、休み時間に質問の嵐が飛んでくるのは目に見えている。
というか、転校生と聞こえた時点であちらこちらからコソコソと話し声が。
これでも、周りに配慮しているつもりなのかも知れないが、大勢がそれをしていたらうるさくなるのは当たり前。
「はい、静かになるまで転校生呼ばないぞー。」
流石教師。生徒達の事を良く理解している。
こんな状態でお預けなんて我慢出来ない生徒達は一瞬で静かに。
教室の静寂を確認したと同時に転校生へ入室を呼び掛けた。
どんな奴が来るのか。
正直、俺も気になっているのは事実。
ゆっくり開いた扉からは昨日見た少女が立っていた。
こんなラブコメの定番みたいな事があり得るのだろうか。
偶然にしては良く出来た話だ。
「やっほー、みんな!ボクは、豊中翼。気軽に翼って呼んでよね!」
ボクっ子か。
現実世界でも存在していたとは。
というか、翼って名前どこかで聞いたことがある。
はっきりとは思い出せない。
「あっ、それとボクは陽太の物だから惚れたりしたらダメだよ?」
とんでもない爆弾が投下された。
男子からの抗議の目が一斉に俺へ向けられる。
それと凛からも。
そんな顔をされても思い出せない物は思い出せない。
俺の知り合いにあんな少女いたか?
困った顔をしている俺に近付いてくる豊中。
「その顔は忘れたって顔だね。シクシク、酷いじゃないかー。」
「下手な嘘泣きはやめてくれ。ただでさえ、俺には酷い噂が流されてるんだから、これ以上増えたら困る。」
「ってことは、ライバルはいないって事だね!ラッキーラッキー。」
「ライバルも何も俺は・・・あっ」
この時、雷に打たれた様な衝撃が体中に走る。
思い出したかも知れない。
でも、アイツは、俺の知っているアイツは男だっただろ。
「翼って、あの翼か?」
「思い出してくれたかい!嬉しいねぇー!」
「待て待て待て、お前女だったのかよ!」
「酷いじゃないか。どこをどう見たって女でしょ。確かに昔は胸なんて無くて髪も男ぽくしてたけどさ。なんなら、本物かどうか触って確かめてみる?」
胸を寄せて俺に近付けるな。
精神的に悪いだろ。
ドキドキし過ぎて倒れるっての。
「ボクが引っ越しする時に約束したでしょ。ボク達は離れていてもずっと心の中でそばにいるからなって。」
いやいや、男と女で意味合い変わってくるだろ。
失礼かも知れないが、俺は熱い友情のつもりで交わした約束だっての。
まさか、熱烈なプロポーズに変換されているとは思わないだろ。
「その顔は違うって言いたい顔だね。安心してよ、ボクもそこまで陽太は縛り付けるつもりないから。でも、覚悟してね。全力で好きになってもらえるように頑張るから。」
そんな覚悟は出来ないっての。
初めて向けられた好意はあまりにも大胆で、あまりにも唐突だった。
「朝っぱらからイチャイチャしてる所悪いけど、早く空いてる席に着け。ホームルーム締めるぞ。」
「はーい、分かりました!」
元気が良いのは昔と変わらず。
変わったのは見た目だけか。
いや、もしかしたらあの時俺が気付かなかっただけで、何一つ変わっちゃいないのかも。
・・・ホームルーム、終わらないでくれ。
終わって仕舞えば、獣達が解き放たれる。
ただでさえ、今も目で殺すぞと訴えかけられているのに。
そんな願いも虚しく、ホームルームは終わる。
そうなると女子は一斉に翼を囲み、男子は俺を狙って動き出す。
殺されてなるものかと、人混みに紛れて教室を出た。
「危ねぇー。今までで一番危険を感じたぜ。」
「本当だよ。まさか、あんなに驚かれるとは。」
「なんでお前まで逃げ出して来てるんだよ。」
「質問攻めってのは得意じゃ無くてね。常にボクがペースを握っていたのさ。」
「ちょっと待ってください!」
遠くから聞こえてくるのは、凛の声か。
俺達の関係が気になって追いかけて来たのかもな。
本当はそんな仲ではないのに。
「あれって、陽太の今の彼女?」
「違う、友達だ。学校始まって最初の方から仲良くしてもらってる。」
「ふーん、なんだ。そういうことか。」
「な、なんですか。」
値踏みをする様にぐるぐると凛の周りを回る。
人見知りをする凛にとっては、耐えられないような時間だろう。
顔が合わせられないので、ずっと下を向いている。
そろそろ、俺が止めに入るべきか。
「可愛いーね!君、名前はなんて言うの?」
「星海凛です。」
「凛ちゃんか、中々陽太は手強いと思うけど大丈夫?」
「覚悟は出来ています。」
なんの話をしているのか分からないが、二人は通じ合っているらしい。
まぁ、女性同士にしか分からない話の一つや二つあっても不思議ではないか。
「いやー、陽太も罪な男だよ。ボクのこと男だと勘違いしてたんだから。」
「タンクトップに短パンで短髪なら勘違いもするだろ。それにあの歳なら声では判断出来ないからな。」
「それに身体的特徴もそこまで差はないもんね。」
自分からアピールしてくるな。
ついつい目が行ってしまうだろ。
「陽太くんとは、小さい頃出会ったんですか?」
「そうだよ。良く行く公園で知り合ったんだ。ボクと絢音と陽太。三人で良く遊んだのが懐かしいや。結局、ボクが引っ越すことになって離れ離れになったんだけどね。」
「当時から陽太くんのこと好きだったんですか。」
「ラブもラブだよ!まーーたく、気付いていなかったみたいだけどね。」
何度も言わせてもらうが気付けるはずないだろ。
悪気があった訳じゃないのだから、許して欲しい。
「それより、そのなんだ。・・・冗談かも知れないけど、大々的に好意を向けてくるのはやめてくれ。どうして良いか分からない。」
「キャーー!可愛いな!陽太は!」
「バカ抱き付くな。」
何がとは言わないが大きなものが顔面に当たってんだよ。
女子って言うなら慎ましさをもう少し持ってくれ。
俺の心臓が持たないから、一応俺も健全な男子高校生やらせてもらってるから。
刺激が強すぎて、気を失いそうだ。
「ちょっと!離れてください!」
強引に引き離す凛。
「助かった凛。もう少しで死ぬ所だった。」
「助けられたなら良かったです。それよりも、どうして今になって藍連市に?」
「伝えに来たのさ、ボクの愛をね。人生ってのは、一回しかないのに悔いを残したくはないだろ?」
ブレない翼に俺も凛も動揺が隠せない。
俺は今後の学校生活で、翼の愛という奴をどう受け止めれば良いのだろうか。
悩みの種が一つ増えた。
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