第074話 懐かしの街を眺めて
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藍連祭が終わり、今日は振替休日。
妹は通常通り学校なので、家には俺一人だ。
こんな日はダラダラと過ごすのも良いのだけど、最近運動不足を感じる場面が多い。
昨日は学校を走り回って息を切らす事が多かった。
喧嘩が強くなりたいとは言わないが、いつでもピンチに駆けつけられるほどの体力が欲しいと思う。
「まさか、俺が休みの日に家を出るとはな。さて、覚悟が決まっている内に外出よう。だけど、その前に朝食からだな。」
腹が減った状態で運動をするとエネルギー不足で倒れかねない。
寝起きなら尚更に可能性は高い。
下に降りて、とりあえず何か漁るか。
朝食はインスタントラーメンになるかと思っていたが、飲み物を取るために冷蔵庫を開けるとラップに包まれた朝食があった。
ラップの上に小さな付箋が貼られている。
学生特有の可愛らしい付箋からも分かるように、これを作ったのは妹の梨乃だろうな。
学校がある日はわざわざ作らなくても良いのに。
付箋には、愛連祭で疲れた兄に妹からのプレゼントと書かれている。
こういうのは欠かさずに用意しておくタイプだから、普段の行いも憎めないよな。
「いつもと変わらない味なのに美味く感じるな。」
メニューは梨乃が良く作るトーストにベーコン、キャベツ、目玉焼きのサンドイッチ。
食べ慣れたと言えば食べ慣れたが今日は愛情というスパイスを感じるのかもな。
なんと泣かせてくれる家族愛だ。
付箋の角に小さく高級アイス買ってきてねを見るまではな。
「俺が外出る予定なければ、わざわざ外に出ないといけない所だったじゃねーかよ。」
ちゃっかりして妹を持つと兄は大変だ。
不幸中の幸いなのか朝食の味は美味しいまま。
多分、愛情ではなく味覚が旨味を感じ取っている。
「よーし、準備は万全だ。軽くランニングするか。」
着替えもさっさと済ませているので、後はそのまま走り出すだけ。
玄関の扉を開けて、いざ外に出ると容赦ない日差しが俺を襲う。
ただ体力作りがしたいという健全な少年に対してこの仕打ちはないだろ。
やっぱり神がいたとしたら不親切だ。
残酷な事も見過ごすのだから。
「熱中症にはなりなくねぇーよな。」
一旦、家の中に戻って帽子を取る。
ここまで来たら、ランニングをしないという選択肢は取りたくない。
きちんと走って神様に中指を立ててやるのだ。
次に扉を開けた時、謎の少年が現れた。
見た目から判断するに歳は幼稚園児くらいか。
親はどこにいるのか。
まさか一人でここに来た訳じゃあるまい。
だって、理由がないだろ。
「おい、お前!」
お前ってのは俺に言ってるのか。
いや、言ってるよな。
この場にいるの俺とこの子だけだし。
「どうした。迷子なら交番にでも連れ行ってやろうか?」
「そうじゃない!俺の彼女に手出してるだろ!」
全く持って話が繋がらん。
この子の彼女という事は、四〜五歳くらいだろ。
そんな子に手を出してたら、犯罪臭のする絵面にしかならないっての。
「あちゃー、やっぱりここだったかー。」
奥の道から神崎の声が聞こえる。
まさか、彼女ってのは神崎の事じゃないよな。
「よう、神崎。一応聞くんだけど、付き合うにしては歳の差がありすぎないか?」
「えっ?あっ!違うから!この子が言ってるだけだから!」
普段からこの子供に彼女認定されているようで、一瞬で理解して否定された。
それしてもこの子、神崎を彼女と言っているのか。
その歳から目が肥えると後に苦労することになるぞ。
神崎みたいな女子は中々いないからな。
「あやねーちゃんが困ってるだろ!いじめるな!」
「虐めてないし、手も出してないっての。神崎に弟なんていたか?」
「お母さんの妹の息子さん。だから、従兄弟になるのかな。」
「ふん!今日はあやねーちゃんとデートなんだぞ!羨ましいだろ!」
「コラッ、ダメでしょ春馬くん。お兄さんにちゃんと謝りなさい。」
「あっかんべー!」
なんて、態度の悪い子供なんだ。
俺が敵だと思っているから態度が悪いのかも知れない。
それならばこっちにだって考えがある。
「ちょっと待ってろよ。」
また家に戻って、ある物を取りに行く。
玄関を出てから一歩も先に進めていないけど、果たしてランニングは出来るのだろうか。
冷凍庫の中にあった俺の分のアイスを取り出して持っていく。
これだけ暑い外で食べるアイスは美味しいだろうな。
「ほら、アイスやるよ。」
春馬と呼ばれていた男の子にアイスを渡してみることに。
餌付けみたいで良くないかも知れないが、仲良くなる為には致し方ない。
「えっ良いのか!お前、思ってるより良い奴だな!」
言葉の荒々しさに目を瞑れば、歳相応の子供だ。
アイスで喜んでくれたのは良いが、小さい子と関わる機会は少ないので接し方に困るな。
「もしかして、今から外出だった?」
「特に予定がある訳じゃないんだけど、体力作りの為にランニングをな。」
「えっ!陽太がそんな事するなんて意外。」
意外と思われるのも仕方ない話だ。
今まで休みの日に外へ出ようと思った回数は少ないのだから。
それは少し俺を知っている人なら周知の事実。
なんの心境の変化なのかと思われているのかもな。
実際、高校生になってから心境が変わる場面に多く遭遇して来た。
振り返るには余りにも早すぎるが、それほど濃い期間を過ごしている証拠。
しかも、これでも一学期の後半になって間もない。
一年生が終わるのはまだまだ先のことだ。
「邪魔しちゃってごめんね。私達も今から散歩だから、また今度学校で話そう。」
「そうだな、春馬だったか。デートの邪魔して悪かったな。」
「うむ、分かれば良いんだ、分かれば。」
「真に受けちゃうからやめてよー!」
困ったと口で言いながらも表情は笑顔。
普段からこの子と仲良くやっている証拠だな。
まぁ、最近の子供ってのはませてる子が多いようだし。
凛の所の弟もこんな感じだったからな。
本人達からしたら可愛らしいものだろうな。
意外な訪問者も散歩の続きに戻ったらしいので、俺も本題に移るとするか。
コンビニまで遠回りして行くルートにすれば、程よい運動で留められるだろう。
今日から挑戦してみるのに、始めからキツい運動量を設定したら後に続かないという判断だ。
それにこのルートには途中で、河川敷があるので爽快感のある景色を楽しめる。
走っている時にそんな余裕があるかは別問題だけど。
言ってるそばから河川敷に到着。
夏だというのに川の近くだからか、少し涼しく感じるな。
こんなに良い場所なのに、人は全く通らないけど。
正確には一人だけ前から歩いてくるのが見える。
すれ違い様にチラッと顔を見られた気がするけど、ただの勘違いか。
大きい麦わら帽子に、白のワンピース。
清楚な感じが醸し出されていたけど、僅かに見えたあの顔どこかで。
思い出せないという事は思い過ごしかもな。
今そんな事よりも体力作り優先だ。
引き返すさずにそのままコンビニへと向かった。
「やっぱり、変わらないなー。この街もそして彼も。会いに来たよ、ボクの最愛の陽太。」
過ぎ去る佐倉陽太を見つめる一人の少女。
彼女の呟きは、彼の耳まで届く事はなく。
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