第073話 一枚の写真には
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後夜祭ってのがあるなんて知りもしなかった。
多分プリントを見直せば、書いてあるのかもな。
そんなことよりも、全てが無事に終わった安堵感で満たされている。
結局、最優秀賞はD組に取られてしまったけど。
俺達の最後のアドリブは他のクラスでも高く評価されていたが、それを上回るインパクトがD組にはあった。
今度何かで競い合うタイミングがあるとするなら、その時こそは負ける訳にはいかないな。
D組で思い出したのだが、音無に感謝を伝えようと思っていたのを忘れていた。
もしも彼がいなければ、屋上の花火はそのまま爆発。
何かに引火すれば火事にでもなっていたかも知れないのだから。
「見つけた。音無、屋上の奴ありがとうな。」
偶々、廊下ですれ違った音無に一言挨拶をしておく。
すると声を掛けて来たのが意外だったのか、驚いた表情をしている。
いや、困惑しているのかも。
「佐倉くんだったか。わざわざ僕に声を掛ける存在がいるなんてね。」
「助けられたからな。良い奴だってのは分かったし。」
「君も大概お人好しだな。」
「てか、毎回語尾に英語使うのかと思ってた。」
「あれは一瞬のキャラ付けだから、時と場合は選ぶさ。それとも無意識で求めてるのかな?僕のワードセンスを。」
本人には言わないけど、昔そういう言葉選びをする芸能人がいたよな。
それが脳内に思い浮かんでしまうのが本音。
彼が気に入ってやっているのだから、水を差すようなことは考えないでおこう。
「それよりも屋上での花火。あれは彼等が仕掛けた物かい。そうだとするなら彼は相当クレイジーだ。」
「俺だってアイツら何者なのか掴めてないっての。だけど、音無の言う通りイカれた奴なのは間違いない。」
「彼とはまた何処かで会う気がするんだ。それはそうと困った時にはまた僕を頼ってくれ。なんたって僕はパーフェクトだから。」
言いたい事だけ言ってどこかへ消えてしまった。
俺から話掛けたつもりだったのにいつの間にか主導権を握られてしまっていたな。
感謝は伝えられたから良しとするか。
それに強力なカードを手に入れる事が出来たのだから。
揉め事が得意なタイプではないのだろうが、学校の風紀を乱す様な奴には容赦しない。
何故なら、彼の考えるパーフェクトとはかけ離れているからだ。
そして、彼の言う天竹との再戦。
実現するのかどうかは神のみぞ知る所。
「いたいた。陽太、結構探したんだけど。」
「携帯の連絡先交換したんだから連絡してくれたら良かっただろ。」
「それもしたけど、出なかったの。」
そんなはずはと思い、携帯を見るとマナーモードに設定されている。
そして、画面には数件の不在着信の履歴が。
思い出せば、舞台の鑑賞中に音が鳴らないようにしたままだった。
「悪いな華。また、ジュース奢るから。」
「アタシ、ジュースに釣られる女だと思われてない?」
「ソンナコトナイヨ。」
「嘘つくならもっと隠し通して。そんな事より・・・今日はありがとう。」
まさか律儀に礼を言う為に俺を探していたのか。
音無が俺と会った時驚いていたが、俺も同じ様に驚きが勝る。
「感謝される様なことかよ。ボコボコにやられたからな俺は。」
「喧嘩の強さじゃないっての。陽太がやってくれた事はアタシの心を救ったんだよ。一人じゃないってかなり心強いってね。」
「なら、もっと頼れよ。大体、俺は暇だからな。困った時には駆けつけるぞ。例えば、勉強とか。」
「せっかく褒めてるのに茶化すな。」
「面と向かって言われたら恥ずかしいんだよ、こっちも。」
褒められるような事をした覚えはない。
それどころかもっと上手くやれたのではないかと思う場面すらある。
だけど、感謝の言葉を面と向かって言われればやはり嬉しくもなるだろう。
まだ根本が解決した訳ではない。
恐らく、この後も蛇龍門が華を狙って動く事があるはずだ。
その時は今回以上に頼れる存在になっておく。
今の目標の一つだ。
「それじゃあ、また後夜祭で。」
感謝を伝えて満足したようで、そのまま人混みへ紛れていく。
後夜祭が始まるまで残り一時間もない。
始まって仕舞えばすぐに終わるのだろうけど、この待機時間は長く感じる。
何もする事がないというのは、平和という事だから嬉しい話ではあるのだけど。
「さて、後夜祭が始まる前にクラスへ顔を出しておくか。」
今頃クラスでは、後夜祭を待っている生徒達で溢れ返っていると思う。
人が多い所は居心地が悪いけれど、外でウロウロしているのも目立つ。
教室に入ると御城を中心に無事に終わった事を祝して、ミニパーティーみたいなのを始めていた。
勿論、あの暴走に見えた一件は打ち合わせをしていたアドリブだったという事になっているので、御城が責められる事はない。
なんで、そんな事をしたのか。
相手はこっちに迷惑を掛けて来て上に、自分の思い通りに行かないので暴力で解決しようとしたクズだ。
こちらが手厚くフォローしてやる道理もない。
ないのだけど、悪意を悪意で返すのは同じ土俵に立つのと同意義。
それが嫌だったというたったそれだけの理由だ。
「やっと来たな陽太。」
「真か。お疲れ様。」
「お疲れー。どうだった俺のフォロー。」
「あれがあったおかげで上手くまとまった感じはあったな。」
そうだろそうだろとしつこく言ってくるので、話を逸らす事にした。
「そう言えば、後夜祭って何するんだ?」
「確か、後夜祭で余った食品とかを無料で提供したり、キャンプファイアーを囲んで談笑したりするんだと。」
「今時、そんな学校あったんだな。」
噂程度には耳にするが、そんな風習が残っている学校は幻ぐらいの感覚だった。
遅くまで学校に残る事自体、昨今批判が集まりそうだからな。
でも、そんな馬鹿騒ぎがあっても良いのかも知れない。
青春の一ページを飾るには特別な思い出があった方が、より鮮明に思い出せるのだから。
よくよく考えてみたら、初めての藍連祭は色濃い思い出ばかりだった。
準備の段階から波乱の予感がしていたし、本番も案の定大忙し。
無事に終わった事が奇跡とさえ思える。
「後夜祭始まるらしいぞ。校庭に集まれー。」
誰の声か分からないが、廊下で呼び掛けている声が聞こえる。
その声に導かれるようにゾロゾロと生徒達が移動を始めた。
校庭には積み上げられた木と猛々しく燃える炎があった。
そんな光景を見て、本当に藍連祭が終わったという実感が深まる。
「おーい!陽太くん!こっちこっち!」
先に校庭にいた凛が手招きで俺を呼ぶ。
そこには、凛だけでなく華や神崎、物部の姿があった。
真と一緒にいた俺もすぐに合流する。
「楽しかったね藍連祭。」
凛のその一言で、各々が思い出を語り合う。
語り尽くせばキリがない程、エピソードは続いた。
特に真と物部が惚気ていたけど、コイツらはこれがいつもの調子なので許してやって欲しい。
「最後に写真撮ろう!」
神崎の声掛けでキャンプファイアーを背に写真を撮る。
自撮りなので画角に収まるようギュウギュウになる必要があった。
掛け声と共に小さいシャッター音が耳まで届く。
取れた写真は神崎によって速攻共有済みだ。
ここにいる全員で仲良く卒業を迎えられたらと、撮られた写真を見て強く思う。
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