第126話 声は枯れてからが本番
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二人で練習なんて一度もした事ない歌のはず。
そのはずなのに どうしてこんなに息がピッタリなんだ。
入れ替わりやハモリのタイミングなんかも完璧。
加えて、歌っているキーも一切外れていない。
簡単に勝てるの思って挑んだ勝負だったのに、これでは負ける可能性の方が高くなって来た。
心配と感心を胸に歌を聴く。
サビに入るとアップテンポの曲調になり、より一層盛り上がりを見せる。
悔しいが俺の歌の何倍も上手い。
勝負を挑んだ事が恥ずかしくなるレベルなのでさっさと終わってくれ。
そして、ようやく歌い終えた。
マイクを置いて飲み物を一気に流し込む。
気合いを入れたから喉が渇くのも無理ない。
「どうだった陽太。練習してないのに、この上手さ。」
「勝負だから認めたくはないけど上手いな。なんで、こんなに息ピッタリなんだよ。普段から練習してないと説明が付かないだろ。」
「この歌、華ちゃんからオススメされてめっちゃ聴いてたから何とか歌えたんだよ。すごい緊張したけど。」
二人で共有してた歌だったのか。
それ自体は何も狡い事じゃないが、元々歌が上手いのは反則だ。
こう言うのって大体一人は音痴なキャラがいるもんだろ。
「あっ、結果出た!お願い良い点出て!」
両手で祈りながら画面を見る二人と、お願いだから俺の方が点数上であってくれ。
あんな写真残されたら一緒笑い者にされるだけだ。
焦らしに焦らす得点結果の画面。
まず表示されたのは八二点。
一瞬俺の勝ちかとも思うが、ここからが本番だ。
どれだけ追加の点数が入るかで大きく変わる。
場合によっては九十点数を超える可能だってあるから油断は出来ない。
最終的な結果は出た様だ。
画面に注目すると九一点と書かれた画面があった。
「負けた。」
「やったー!勝ったよ華ちゃん!」
「凛の歌が上手かったからだよ。ありがとうね。」
「そんな事ないよ、華ちゃんだって上手だったよ。」
二人の褒め合いを見せられる時間に入る。
負けた挙句イチャイチャまで見せられるとはどんな拷問だ。
「まぁ、楽しかったからこの写真は消しておくね。」
「確かにちょっとだけ意地悪し過ぎたかもな。ごめん。」
「いや、そんな素直に謝られると逆に気まずいだろ。ほら、歌え歌え!ここはカラオケ屋なんだし、喉潰すつもりで歌うぞ!」
ちょっとした余興だったと思えば良い。
十分に楽しめたからな。
その後は絶えず曲が入っていく。
しかも、その歌のどれもが上手い。
俺は上手い方じゃないので、華や凛の様に歌が上手い人と一緒にカラオケするのは楽しい。
自分まで上達しているのではないかと錯覚してしまうからな。
「ふーっ、結構歌ったね。明日、喉枯れてないか心配だよ。」
「後で十分ケアしておかないと。凛の可愛い声がガラガラになったら困るから。」
「うぅー、そんな近くで褒められたら恥ずかしいよ。それにしても今日の昼間のなんだったんだろうね。」
照れているからなのか、話題を今日の話に戻す。
忘れようと思っていたが、そうする訳にもいかないらしい。
思い出すのは様子の変わった蛇龍門の姿だ。
リーダーである鬼龍院は今も掴みようのない奴だが、他のメンバーから察するに単純な悪行だけが今の彼等ではないだろう。
噂になっている善行。
これが仮にも本当だったとしたら一体どの道へ向かっているのか。
また襲ってくると正々堂々と言われてしまったので、二学期以降も面倒な事になるのは確定している。
それを考えると夏休みである今から憂鬱だ。
「顔に面倒さいって書いてあるよ。」
「本当の事だからな。何やってくるかも分からないし。今が良い人のフリをしているのも不気味だ。」
「アタシも油断しちゃいけないって思ってる。アイツらの常套手段だからね。鬼龍院も今年で卒業なんだから、アタシになんて構ってないで静かに学園生活楽しんでいれば良いのに。」
「そんな性格の人じゃないだろ。学校行事なんかよりも人の事を痛ぶっている時の方が生き生きした顔してるし。」
とりあえずは様子見って事で。
もしかすると本当にあの時の事件以来心を入れ替えたのかも知れないし。
「あーあ、それにしても糸井先輩も七瀬先輩も卒業か。寂しくなっちゃうよね。まだ、後一年は一緒に居たかったよ。」
「それは同意だな。二人から学べる事は多いし。」
「それに二人の恋愛も気になる。前、糸井先輩の想いを聞かせてもらったけど、その後進展はあったと思う?」
「いや、あの感じはまだ何もないだろうな。想いを伝えた感じでも無さそうだったし。」
無理に進展しようとして二人の関係が壊れてしまうのも怖い。
ゆっくりとしたペースでじわじわと距離を詰めて行くのも悪くないだろう。
そんなこんなで会話をしているとカラオケの時間が終わってしまった。
延長するかどうかを聞かれたけれど、十分楽しめたの延長はしない事に。
店を出ると辺りは綺麗なオレンジに染まっていた。
もうそんな時間かと時計を見ると思っていたより時間が経っていたようだ。
「カラオケ行けたし満足だね。」
「本当の目的は違ったんだけどな。偶にはカラオケも悪くなかった。」
「って、あれ先輩達じゃない?」
いつもの制服姿ではない先輩達二人を見つけた。
噂をすれば何とやらと言うがまさしくこの事だな。
それにしても、やけに気合いが入った服を着ている。
どう見たってデートにしか見えない服装だよなあれ。
・・・デートしてるのか?
遂に進展があったのではないかと三人で顔を見合わせながら考える。
二人の邪魔をしてはいけないのでそのまま帰るか。
アイコンタクトで伝えてみると華が首を振る。
どうやら尾行する事を選んだらしい。
「おいおい、本当に大丈夫かよ。見たかった時洒落にならないぞ。」
「なら、陽太だけ帰っても良いよ。」
「いや、それは俺も見たいけど。」
華の監視をするという名目でここまで来たが、本当は俺も気になっている。
絶対に夏休みのあの事件から進展があったと思ってまず間違いない。
コソコソとしているが側から見たら完全に不審者だな。
物陰に一応は隠れているが三人もいれば目立つ。
後ろを振り返って来たら確実にバレるだろう。
いくら糸井先輩が普段温厚な性格をしているからと言っても、デートの邪魔をされたら怒るに決まっている。
怒るならまだ良いが、ブラック糸井が出て来たら終わりだ。
「これ以上は不味いんじゃないか。」
「大丈夫問題ないって。偶々、見つけたって言えば不自然じゃないから。」
「あ、あわ、横!横横!」
凛が慌てて横を見る様に促すので、視線を向ける。
・・・あ、やばい。
糸井先輩には見つからなかったが七瀬先輩に見つかってしまった。
何でこんな事をしているのか十分に詰められて誤魔化しながら、興味があったことだけは伝える。
そして、俺達にデートだと勘違いされたに気付いた七瀬先輩は必死に訂正に入った。
「これはこの間のお礼よ!貴方達にも後でしようと思ってたけど、特に糸井くんにはお世話になったから。」
「なるほど、勝手に勘違いしてました。」
「お邪魔してすみませんでした。それではさようなら。」
まだ疑ってはいるけど、これ以上詮索したらいけないと本能が語っている。
それは二人も同じらしく大人しく帰る事にした。
帰り道、本当はデートだったのではないか論争が行われたが真相は先輩二人のみが知る所。
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